第61話 いざ、アヴァロンへ

 飛行機で空の旅を終えた俺たち六人は、ヨーロッパの某国にある空港に到着した。

 空港のエントランスとロビーは多くの外国人利用者で賑わっており、ちらほらと日本人も見て取れる。

 とは言っても、その中の数人に俺とカナデも含まれているのだが。


「さぁ、みんな。こっちだよ!」


「こっちこっちー!」


 ランスくんとアロンちゃんの二人は、淀みない足取りで空港の出入り口とは真逆の方へと向かってゆく。

 やがて、空港の奥にある扉を抜けると、その奥には地下鉄のプラットホームのような駅が存在しており、そこに白と青を基調としたリニアモーターカーのような車両が停まっていた。


「アヴァロンにはこの列車に乗って向かうんだ。それじゃあ、少し待っていてくれたまえ」


 ランスくんはそう言うと、駅員のような人に英語で話しかけている。

 その会話に聞き耳をたててみると、ランスくんが列車の出発時刻を確認しているようだった。

 

「この特別車両に一時間くらい乗っていれば、アヴァロン本部に到着するよー」


 相変わらずの軽い口調とノリでアロンちゃんが捕捉を入れてくる。

 彼女の話によれば、アヴァロンへ向かうには陸路だと相当な時間が必要になるらしいのだが、この直通特別車両だと一時間程度で到着するらしい。


「なぁ、ヒルド。お前もこの車両で来たのか?」


 事も無げに俺がそう訊くと、ヒルドがブンブンと首を横に振る。


「いえいえ。私は普通の交通機関を利用してきたので、こんな大それた移動手段があるのは初めてみましたね。というか、私の苦労は……」


 ヒルドはその瞳をググッと細めて、プラットホームに停まる近未来型の車両を忌々しげに見つめている。

 アヴァロンに所属している彼女ですら知らない最新鋭の設備を整えたこの場所は、特別な人間がアヴァロン本部を訪れる時のために造られたのだろう。

 それだけ、俺たちというか、エクスが重要視されているということだ。


「は〜、なんかエクスちゃんとつーくんの所属してるアヴァロンって凄いんだね〜! なんていうか、映画みたいって、感じ?」


「なんだよそのアブノーマルな映画は。それをいうなら映画だろうが。とんでもねえ間違え方だぞそれ?」


「はえっ? じゃあSMって、なんだっけ?」


「カナデさん。それは、私たちが知るべきことではないジャンルの一つだよ」


「そうなの?」


 苦笑するエクスにカナデが小首を傾げる。

 そんなに知りたいのなら、その道のプロ(頼乃さんと安綱さん)を紹介してやることもできるが、そのせいでカナデがどちらかに覚醒されても困りものだ。

 ここはスルーしておこう……。

 

「それじゃあ、みんな。車両に乗車しようじゃないか!」


 相変わらずというか、劇団員のような身振り手振りで指揮を取るランスくんが眩しい。

 彼はかなりの女顔だから、背中とかに白い羽を生やした白いスーツとか着せて舞台に立たせたら、あっという間に人気が出そうだ。


「それじゃあ、乗ろっかツルギくん?」


「あぁ。そうだな」


「それなら、アタシはつーくんの隣ね!」


「え? おいおい! ちょ、カナデ!?」


 俺の片手を握ろうと手を伸ばしたエクスを差し置いて、カナデは俺の片腕に抱きつくと、そのままグイグイと引いて特別車両の中に向かってゆく。

 その行動に最初エクスはキョトンとしていたが、不満そうに頰を膨らませると、頭のアホ毛を左右に振って俺のあとに続いて列車へと乗り込んだ。

 

「ハハハッ! ナギくんはモテモテだね?」


「ナギっち隅に置けないねー?」


 俺らの後ろに続くランスくんとアロンちゃんが愉快そうに笑っているけれど、当事者の俺としては嫌な予感がしてならなかった……。



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