第182話 役者は揃った
レーヴァテインに腹を斬られ、重傷を負った俺は餞別という名目でティルヴィングのすんばらしいおっぱいに顔を埋めさせてもらい癒されていた。
すると、突如として辺りを真っ白な濃霧が包み込んだ。
その異変に誰もが当惑していると、霧の中から魔剣を構えた村雨先生と犬塚先輩の二人が勢いよく飛び出し、ティルヴィングに躍りかかった。
「てやぁっ!」
「せやぁっ!」
「いぃっ!? ちょ、なんなのよん!」
突然の奇襲攻撃にティルヴィングは驚愕したような反応を示すと、俺を突き飛ばして大きく飛び退き、離れた位置に立っていたエペタムの所まで後退した。
「あー……ティル姉、大丈夫?」
「流石にビックリしたわよん。ていうか、誰なのかしらんあの二人は?」
「駆けつけるのが遅れてすまなかった草薙!」
「僕たちが来たからにはもう大丈夫だよ草薙くん!」
「村雨先生き犬塚先輩……どうして?」
「エクスから連絡を受けてな。キミがピンチだから共に助けて欲しいと頼まれたんだ」
「まさか草薙くんがこんなに追い詰められていたなんて僕は正直驚いているよ。あの二人が今回の敵かい?」
俺を庇うように二人は魔剣を構えると、離れた位置でコチラの様子を窺っているティルヴィングとエペタムを見た。
「貴様ら。私の可愛い生徒であり、未来の旦那候補である草薙を随分と可愛いがってくれたようじゃないか? この代償は高く付くぞ覚悟しろ!」
「可愛いがっていたのは確かだけど、その前にアンタたちは誰なのよん?」
「私の名は村雨霞。この子の担任の教師だ。そして、私の隣にいるのは我が弟子であり、契約者の犬塚だ」
「以後お見知り置きをお姉さん!」
「ふーん、契約者ね〜ん。ていうか、アンタはアタシたちの同族じゃない。なんで敵対してくるのよん?」
「それは貴様らが悪だからだ。それに、私の可愛い草薙を傷付けたんだ。これを敵とせずしてなんという!」
「あー……よくわかんねえけど、お前はそのガキの方に付くってことね。それなら確かに俺っちたちは敵になるわな」
「それにしても、今まで色んな同族を見てきたアタシだけどさ、アンタみたいに聖剣側に付く変わり者なんてのもいるのねん?」
「そう言う事だ。草薙、エクスたちも来ている。キミは早く治療をしてもらうんだ」
「先生の言う通り、ここは僕らが時間を稼ぐから急いで!」
頼りになる二人の背中を見て俺は感極まり、ジーンとしていたりする。
俺が窮地に立たされて駆けつけてくれるなんて、やはり持つべきものは仲間ということだろう。
それに、エクスもここに駆け付けてくれたことがなにより嬉しかった。
正直、喧嘩していたから助けに来てくれないんじゃないかと思っていたんだけど、そんな事はなくちゃんと俺のピンチにみんなを連れて助けに来てくれた。
流石は俺の最高のパートナーだ。
「ありがとう二人とも。助けてもらっといてこんな事を言うのもあれだけど、向こうに傷ついた北条先輩とマドカさんがいるんです。その二人もなんとか助けだせないですか?」
「向こうに北条がいるのだな。承知した、それは私たちに任せろ。にしても……」
と、村雨先生が魔剣を構えたまま俺をチラリと見る。
「……草薙、キミはかなりの深傷を負わされているようだが、意外と元気そうだな?」
「え? そ、そうですかね?」
「あぁ。なんというか、生気に溢れているというか、顔の血色が良さそうに思えてな」
村雨先生にそんなことを言われて、俺は頬を掻く。
多分だけど、さっきまでティルヴィングのおっぱいに顔を埋めていたから性的な興奮をして顔の血色が良いのかもしれない。
とはいえ、二人にそんな事を言えるわけもないので、ここは適当にスルーしておこうと思う。
「あれ? 草薙くん、キミが手に持っているそれはなんなんだい?」
「え? あぁ、これはちょっと癒しの邪魔だったからつい取り除こうと思って……」
「おい、ネギ坊。オメェが咥えてたそれって、ホーリーグレイルじゃねえのか?」
「……んん!?」
スレイブに指摘され改めて確認してみると、俺がティルヴィングの谷間から偶然手に入れたものは光を持たない灰色の【ホーリーグレイル】だった。
なんでこんな貴重品をアイツが隠し持っていたのだろう?
というか、どこでこんなものを手に入れてきたんだ?
予想外の収穫物を俺がジッと見つめていると、離れた位置に立つティルヴィングが慌てた様子で声を上げてきた。
「やだん、ちょっと坊や! それはアタシが道端で拾ったものなんだから返してよん!」
「あー……ティル姉。あれ、まだ持ってたの?」
「そうよん! 折角の記念品だから持っていようと思ってたのにぃ〜!」
「記念品って、お前はこんなものを一体どこで……」
「やれやれなんてこった。まさか、時音のホーリーグレイルをキミが所持していたとはねティルヴィング」
濃霧の奥から声が聞こえてくると、揺らいだ霧の中から鎧化した泰盛さんと長剣を背中に携えたレーヴァテインの二人が姿を現した。
その直後、村雨先生と犬塚先輩が表情を強張らせて身構える。
「な、なんだアイツらは……。今までに感じたことがないほど強い殺気だ」
「草薙くんはあんな連中を相手にひとりで……」
「チッ、戻って来やがったのか。村雨先生、犬塚先輩。あの二人は危険ですから北条先輩とマドカさんを連れて早く逃げ……」
「俺から逃げられるとでも?」
つい数秒前までティルヴィングたちから離れた所に立っていたはずのレーヴァテインが、いつの間にか二人の真横に移動していた。
やはり、コイツがいる限りこの場を上手くやり過ごして逃走するのは無理があるようだ。
「泰盛、アレが例のホーリーグレイルか?」
「そうだよレーヴァ。アレがもう一つのホーリーグレイルだ」
「灰色ということは、覚醒していない状態か。それなら俺たちがオーラを感知できないのも無理はないか。それにしても、ティルヴィング。貴様はまた随分と失態を晒してくれるな?」
「え? あ、アレって、レーヴァが探していたものなのん?」
「あー……アレって、ティル姉が交差点で拾ったやつじゃん。あの時はまだ聖剣のオーラを少しだけ感知できたけど、なんか今は全然わかんないね?」
「アレが聖剣側のモノと分かっていた上でそれをこの俺に報告しなかったわけか」
「し、仕方ないじゃない! オーラも超微弱だったし、そんなに重要なモノだなんて知らなかったんだものん!」
「それは恐らく適正者の手元から離れたからだろう……まぁいい。ともかく、アレの比率が再び聖剣側に片寄る前に奪取するぞ」
「ツルギくん!」
「つーくん!」
「ツルギ先輩!」
背中の長剣に手を掛け、コチラを鋭く睨みつけてくるレーヴァテインに俺たち三人が警戒していると、次第に濃さを増してゆく霧の中からエクスとカナデとヒルドの三人組が現れた。
「エクス! それに、カナデとヒルド!」
「ツルギくん、大丈夫……ではないよねそれ!? ていうか、そんな深傷を負ってるのに平気なの!」
「いや、平気じゃねえけどお前がここに来てくれたからなんとかなりそうだ」
「つーか、つーくんお腹からめっちゃ血が出てんじゃん!? それマジヤバくね!」
「大丈夫ですよカナデお姉様。ツルギ先輩なら、多少お腹の中身が飛び出していても死なないですって」
「ヒルド。俺の心配をしなかったのはこの中で唯一お前だけだからな?」
兎にも角にも、俺の信頼できる仲間たちがこの場に揃った。
とはいえ、一番の脅威であるレーヴァテインがいる以上、俺たちのピンチが覆ることはない。
ここはなんとかして、エクスに腹の傷を回復してもらい北条先輩とマドカさん。そして、この敷地内のどこかで重傷を負って倒れているであろう政代さんを救出して退散する他ないだろう。
「エクス! キミは草薙の傷の回復を急げ! 犬塚、ヒルド。お前たち二人は手前の連中を頼む。私はあの赤髪の男をなんとか足止めする!」
「さて、向こうの彼女たちはそういう布陣で挑むつもりらしいけど、僕らはどうするんだいレーヴァ?」
「俺はあの小僧の持つホーリーグレイルを奪ってくる。その間、ティルヴィングとエペタムはザコ共の相手をしていろ。そして、泰盛は例の剣を魔剣化する準備に取り掛かれ」
「この私は眼中にないというわけか……。随分となめられたものだな」
「おやおや。レーヴァ、向こうのお姉さんがキミにカンカンだよ?」
「知ったことか。それより、そっちの方は任せたぞ」
「了解した。それじゃあ僕は向こうに行っているよ。ティルヴィング、エペタム。二人とも頑張ってくれ」
「フンッ。新米のくせに偉そうにしてくれてんじゃないわよん!」
「あー……ティル姉? 俺っちは久々にヒルドと遊んでてもいい?」
「ぬぬっ!? アナタはいつぞやのエペタムではないですか。悪いですけど、私がカナデお姉様にカッコ良いところを見せるための斬られ役になってもらいますよ!」
「あー……なにそれ超ウケるじゃん? そんじゃ、久々に俺っちと遊ぼうぜぇ!」
「そんじゃアタシはそっちのイケてるお兄さんと遊んでいるわねん。よろしくね、お兄さん?」
「残念だけど、僕を簡単に遊べる相手だと思わないで欲しいですね。年増のお姉さん」
「……うん、やっぱ殺すわん。エペ公、絶対にアタシの邪魔をするんじゃないわよん!」
「キシャシャシャシャ! 誰がするかよ。俺っちはヒルドを弄んでるからティル姉こそ邪魔するなよな!」
「むむっ、純真無垢な乙女である私を弄ぶだなんてロクでもないヤリ◯ん野郎ですね。そのツルギ先輩のような腐った性根とアレを私の清き聖剣でぶった斬ってあげますよ!」
「ゴメン、ヒルドちゃん。アタシが思うにエペタムはそういう意味合いで話してないと思うっしょ」
「おしゃべりはここまでだ。では、行くぞ」
それぞれが戦闘態勢を整える中で、コチラに向かい駆け出してきたレーヴァテインを前に俺は焦燥感に駆られていた。
奴の狙いは俺の持つこのホーリーグレイルだ。
とはいえ、こんな状態じゃまともに戦えもしないだろうし、秒殺すらされかねない。
そうなれば、奴は次にエクスを狙うだろうし、その後はみんなが標的にされてしまう。
それだけは絶対に阻止したいけど、一体どうすればいいんだ!?
頭の中で色々と思考を巡らせていると、エクスが俺の肩を抱いて小さく囁いてくる。
「ツルギくん。ちょっといい?」
「なんだエクス?」
「もうすぐ村雨先生の新技が相手に効いてくる頃だろうから、回復と一緒に聖剣の召喚準備もしておくね?」
エクスはそう言うと、着ていたブラウスの前身頃を豪快に開放し、ティルヴィングとは比較にならないほどピチピチとした若い柔肌を見せつけてきた。
それを目の当たりにした瞬間、俺の性欲ボルテージはいきなり臨界点を突破して思わずゴクリと生唾を呑んだ。
……あらやだエクスたん。
こんな視界の悪い霧の中だからって、周囲にはみんながいるっていうのにすんごく大胆なんだからぁ〜。
まぁ、俺は一向に構わんが!
「エクス、準備はいいか!」
「はい、準備万端です先生!」
「ならば結構! 我が秘技にて進化を極めた『霞の舞二式』をとくと味わえ!」
村雨先生の声を合図に俺たちを包んでいた霧が一層濃くなる。
そして、気が付くと周囲からは物音ひとつ聴こえなくなり、まるで俺とエクス二人が隔離された空間の中にいるようだった。
「……上手くいったみたいだね。それじゃあツルギくん、始めよっか?」
「え? あ、あぁ!」
敵も味方も確認できなくなった濃霧の中、俺は目の前にしゃがみ込んだエクスの細い腰に手を回すと、形の良い桜色の柔らかな唇へスッと口づけをした。
さぁ、ここからがショータイムだ!
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