第154話 真剣勝負
やぁ、みんな元気? ツルギお兄ちゃんだよ!
今日はここまでのダイジェストを含めて、いつもと違った形でスタートするぞ〜!
ある日の朝、お兄ちゃんがいつも通りのハーレム主人公をしながら可愛い美少女三人を引き連れて歩いていると、偶然にも同じ高校の超美人で有名な『北条時音』先輩を見かけたんだ。
高校生なのに遠目から見てもわかるほど美人で清楚で、それでいてエッチな体付きをした北条先輩の事を通りすがりの童貞男子たちや杞憂おじさんたちが厭らしい目でものすんご〜く見ていて、朝から危険な予感がしたんだ!
これはある意味で歩きスマホよりも危ないんじゃないかって思えるくらいの彼らの熱い視線を北条先輩が集めていたから、お兄ちゃんはとぉ〜っても心配になってその行方を見守る事にしたんだ。
そんな北条先輩なんだけど、たまたま風邪でも引いていたのか、それとも女の子の日だったからなのかわからないけれど、すんごく体調が優れていなかったようでフラフラとした足取りで歩いていて、とぉ〜っても危なかったんだ。
そんな北条先輩が車の行き交う交差点に差し掛かった時、突然意識を失くしちゃったのか道路側に倒れそうになったんだ。
そこでイケメン過ぎるツルギお兄ちゃんがその場から颯爽と駆け出し、北条先輩を華麗に助けてあげたんだ!
その時にちょこっとだけ先輩のおっぱいを触っちゃったんだけど、これは不可抗力だから仕方ないよね。
誰にも言わないでね! 絶対に内緒だよ?
でもね、人助けをしたとっても偉いツルギお兄ちゃんだったんだけど、そこから思わぬ事態に発展しちゃったんだ。
意識を失くした北条先輩を救急車で見送り、いつもの日常を迎えていたんだけど、どういうわけかその日の放課後にお兄ちゃんは、なんだか得体の知れない黒服の集団に狙われていたんだ。
でもね、お兄ちゃんはとぉ〜ってもつよつよだからクソザコの黒服連中なんかを相手にせず、そこから格好良く脱出したんだ。
でも、そんなお兄ちゃんを待ち構えていたかのように今度は女子高生のコスプレをした美人でスタイル抜群なんだけどそこそこ頭がイカれてる『マドカお姉さん』が現れて、いきなり日本刀を振り回して襲いかかってきたんだ。
沢山の修羅場を潜り抜けてきたツルギお兄ちゃんもこれには本当にび〜っくり!
でもね、そこはさすお兄。
ツルギお兄ちゃんはそんなピンチもなんのその、な〜んてことなくその窮地を見事に凌いでみせたのさ!
でもね、そしたら今度は卑劣なマドカお姉さんがツルギお兄ちゃんのものす〜んごく大切な宝物を人質にしてきてたからさぁ大変! これは困ったぞ〜!?
そんな弱みを握られてしまったお兄ちゃんの姿を愉しむようにマドカお姉さんが、人質を返す代わりとして一緒について来なさいって言うんだ。
知らない人には絶対について行っちゃイケナイよって親父……じゃねぇや。お父さんとお母さんに教わっていたからお兄ちゃんもヤダヤダ〜って言ったんだけど、とぉ〜っても大切な宝物を取り返したかったから仕方なくついて行く事にしたんだ。
勿論心の中では、『親玉を含めてコイツら全員まとめてぶっ殺してやる!』って、思っていたんだけど、卑怯なマドカお姉さんがいきなりエッチなお誘いをしてくるものだからなんだかドキドキしちゃってお兄ちゃんの怒りがどこかへ消えちゃったんだ。
ゴメンネ、てへっ?
それからお兄ちゃんは、マドカお姉さんのボスである『北条政代』さんという北条先輩のお母さんでものすんごく綺麗な女の人に出会ったんだけど、この人もかな〜り頭がイカれてるのか、いきなりお兄ちゃんに本物の日本刀を渡してきて『私と戦え〜!』とか言ってきたんだ〜。
これには流石のツルギお兄ちゃんも、なにがなんだかワケワカメ。
でも、こんな所でお兄ちゃんは負けるわけにはいかないんだ。
だって、お兄ちゃんは正義の味方だし、悪い人たちを倒さなければいけない!
だから、みんなで一緒にイケメン過ぎるツルギお兄ちゃんを応援してねー!
という事で――。
「草薙さん。準備は宜しいですか?」
と、現在に至るのである。
日本刀を中段で構える政代さんの瞳は殺意にも似た色を秘めており、この場を包む空気がヒリヒリとしている。
というかその前に、高校生を相手に真剣構えるとかもう立派な事件だろコレ。
だれか警察を呼んでくれ。
「ツルギさん、ここは北条家のテリトリー内。警察を呼ぼうとしても無駄ですよ?」
投げ渡された日本刀を持つ俺の背にマドカさんから平坦な声が飛んでくる。
おいおい、マドカさん。
俺の心の声が聴けるとかうちのカナデばりの読心術をお持ちですかそうですか抜け目がないですね〜。
さて、そんな冗談はさて置き、これはどうしたものかと考えるばかりである。
別に勝てない相手ではない。
ただ、政代さんは北条先輩のお母さんであり、傷付けてはならない相手だ。
さてさて、ここはどうすべきか……。
「さぁ、草薙さん。刀を抜きなさい! 貴方がうちの時音に相応しい男性なのか私が見極めて差し上げます」
「ツルギさん、私は政代様に失礼のないよう貴方にお伝えしましたよね? それなのに、政代様を待たせるだなんて大変失礼な事この上ありません。いっそ切腹してください」
「しれっと自害させようとしてんじゃねぇよ! そもそも俺をここへ連れてきて、北条先輩に相応しいかどうかを見極めるために真剣を渡してはい勝負とか、そっちの方が失礼極まりないんだが!?」
「残念ですけど草薙さん、貴方がここへ来た時点で既に拒否権などはありません。勿論、私を打ち倒した場合にはそれ相応のお礼をちゃんと致しますが、負けた場合は全て無し。さぁ、刀を抜きなさい!」
「ちなみにこの勝負でツルギさんが死……ではなく、敗北した場合はデッドエンドとなり、冷たい土の中へ還っていただく事になりますので十分にご注意ください」
「おっかねぇ忠告だなおい!? リアルでデッドエンドあるとかお礼をするつもりなんて最初からかなったんだろ!」
「そんな事はないですよ。まぁ、それもあくまでツルギさんが政代様に勝てれば話ですが……」
……うん、明らかにこの人たち俺の命を取りに来てるな。
せっかく大切なデータを取り返すついでにお礼もしてもらえるとか思って、浮かれていたんだけど今の発言で完璧に冷めたわ〜。
早くおうちに帰りたいわ〜。
エクスのお胸に顔を埋めたいわ〜。
涼しい顔で正座をしてコチラを見つめているマドカさんと、俺に対して猛烈な敵意を露わにして刀を構えている政代さん。
娘の命の恩人にお礼と称して呼び出し、いきなり真剣での斬り合いを申し出てくるとかここは戦国時代なのん?
いやはや、この二人は頭のネジは確実に数本くらいはぶっ飛んでいるだろう。
(おい、ネギ坊。面倒クセェからさっさと殺しちまえよ)
(簡単に殺すとか言うんじゃありません! ともかく、向こうは本気みたいだから適当に相手してここから逃げるぞスレイブ!)
「あら、ツルギさん。あまりの緊張から自身の左手とコソコソ会話を始めるなんて本当に気持ち悪いですね可哀想に……。とは言っても、ここからは逃しませんけどね?」
「マドカさんが逃してくれない事なんてこちとら百も承知なんだよ!? つーか、本当に俺と戦うつもりですか政代さん!」
「無論です。これも全て時音のため、これ以上の語らいなどもはや不毛……いざ――」
真剣を構えた政代さんは、その瞳を鋭く細めると俺に対して真っ直ぐ向かってきた。
紳士である俺としては、どんな女性にだろうと暴力を振るう事なんてしたくはない。
という事なので、この面倒事を終わらせるために少しだけ本気を出そうと思う。
「草薙ツルギ、覚悟しなさい!」
「いやそれもう完全に俺を討ち取りに来てんじゃねえか!? たくっ、仕方ねぇわな――」
真っ向から攻めてきた政代さんの鋭い突きが、躊躇うことなく俺の喉元を目指して伸びてくる。
とはいえ、俺からしてみればその動きはあくびが出るほど遅く見えており、なんら臆することなどなかった。
ということで、俺は日本刀を逆刃にして構え直すと、政代さんの突きを横へ受け流した。
「むっ! 今の突きを受け流すとは見事です。しかし、これならどうでしょうか!」
上下左右から素早く振り抜かれてくる刃が道場内で煌めくたびに、甲高い金属音が木霊する。
政代さんの剣術の腕前は、一般人にしてはなかなか大した腕前だとは思う。
しかし残念ながら、こちとら数多の死線を生き抜いてきた身。
この程度では話にならない。
「あのぅ、政代さん? コレって、まだ続けなきゃ駄目ですか?」
「この私の斬撃を受けながらそれだけの余裕
をお持ちとはなんとも腹立たしい……。北条家の名において、必ず貴方を討ち取らせていただきます!」
「聞く耳を持たない感じですかそうですか。それなら、そろそろ俺も飽きてきたんで終わりにさせてもらいますよ!」
「これは……政代様! お引きください!」
政代さんから距離を置き、抜刀の構えを取った俺に政代さんへの危機を感じ取ったのか、マドカさんがガラにもなく切迫した声を上げた。
だが、既に時遅し。
刀を上段に構えて間合いを詰めようとしてきた政代さんに対して俺は大きく一歩だけ踏み込むと、頭上から真っ直ぐ振り下ろされた刃に向けて一閃を放った。
「なっ!? たった一歩でこの私の懐に潜り込むなんてそんなバカな!」
「残念ですけど、俺の方が数段上なんですよ――とりゃあああああっ!」
「ま、政代様ァッ!?」
俺の放つ白刃が煌めいたその刹那、政代さんが振り下ろした刃は半分にへし折れ、甲高い金属音を道場内に響かせながら宙を舞い、何度か回転をしたのち床へと突き刺さった。
あまりにも一瞬の出来事に政代さんは頭が追いついていなかったのか、半分に折れた刀身を見て瞳を白黒させていた。
その隙に、俺は構えた刀を逆刃にした状態で彼女の細い首筋へと押し当てた。
これでチェックメイトである。
「これで勘弁してもらえませんか?」
「そ、そんな、この私が高校生を相手に負けるなんて……」
「政代様がこうも容易く打ち破られるところなんて初めて見ました……。認めたくはありませんが、ツルギさんはド変態のクセにスゴイ腕前の持ち主なのですね」
「俺を褒めるどころか、ディスっているようにしか聴こえないんだが気のせいかなマドカさん!?」
「マドカ、草薙さんに対して失礼なマネは止めなさい。これは私の完敗です。潔く彼の実力を認めましょう」
「いやいや、マドカさんを叱る前に俺の命を取りに来た政代さんの方がよっぽど失礼だからな!?」
全てを諦めたようにその場で両膝を着くと、政代さんはそのまま正座をしてガックリと肩を落した。
どうやら、負けを認めてくれたらしい。
これでようやく俺は開放されるだろう。
「という事で、この勝負は俺の勝ちですね。そんじゃま、お礼は結構ですのでここから失礼させてもらいます」
「お待ちなさい!」
「え?」
「先程の一太刀、アレは本気ですらなかったのでしょう?」
咎めるような目付きで俺を見上げてくる政代さんの瞳はどこか不満そうだった。
さっきの一撃が本気ではなかった事を見抜けただけ大したものだと思う。
いや、それは武人である政代さんに対して失礼な考えか。
ここはなにかしらのフォローを入れておこう……。
「いや、政代さんの太刀筋が素晴らしかったのでつい本気を出してしまったんですよ。ただそれだけの事です」
「フフッ。それは敗者である私へのフォローとして受け取っていいのかしら?」
「お好きなように。まぁ、気に障ったのなら謝りますけど」
「いいえ、むしろ良い経験になりました。貴重な手合わせをありがとうございました」
刀を鞘に収めて帯刀する俺を見上げて政代さんは柔和に微笑むと、深々と頭を下げて土下座をした。
確かに政代さんの太刀筋は道場の師範だけあり、スゴかったと思う。
しかし、それはあくまで一般人が相手ならの話だ。
「草薙さん。これまでのお詫びも含めまして、私の方から改めてお礼をさせてください」
「いや、それはもう結構なので早く家に帰りたいんですけど」
「マドカ。草薙さんにお礼の準備を」
「はい。承知しました政代様」
「俺の話を聞いてましたか二人とも!?」
「さて、草薙さん。それでは改めてお約束通り娘を助けていただいたお礼を兼ねて、うちの時音と――」
「ちょっと、お母様!」
「!?」
突如として道場内に響いたその声に俺たちが振り返ると、入り口で仁王立ちをしている北条先輩がいた。
その姿に、入り口付近で正座をしていたマドカさんが凍りついたように動かなくなった。
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