第193話 泰盛の覚悟
油断したスサノオのせいで、俺の体はツクヨミお姉さんの触手ならぬ出雲勾玉により、宙吊りにされていた。
でも、なんだろうこのドキドキ感……。
なんかあの勾玉が段々と触手に見えてきて、これからエッチな辱めを受けちゃうヒロインみたいな気持ちがして俺の愛馬ならぬ、俺の息子がズキュンドキュンして馬ぴょいしちゃいそうな気分だ。
『スサノオ! この後、俺たちはどんな陵辱プレイをされちゃうんだ!?』
「なにを興奮しているんだお前はイカれているのか!? とは言え、このままだと敗色濃厚だ。こうなったら、ここは姉上たちもろともアマノヌボコでこの場を焦土と化して……」
「スサ。もうゲームオーバーよ」
「そうですスサ。もういい加減に諦めなさ……」
「ソイツは俺の獲物だ。邪魔をするな!」
「「!?」」
出雲勾玉で片脚を拘束され、情けなく宙吊りにされた俺たちを見上げていたスサノオのお姉さん二人の背後から、突然ボロボロになったレーヴァテインが長剣を振り上げて現れた。
しかし、スサノオにかなりボコボコにされたせいか、レーヴァテインの振るう剣筋にはまるでキレがなく、あっさりとアマテラスお姉さんに蹴り飛ばされ撃沈していた。
「なんなのコイツ? こんな弱いのに私に襲いかかってくるとか頭でもイカれてんの?」
「姉様は男性のプライドを踏み砕く辛辣な言葉がお好きですね。私なら、もっとオブラートな言い方をするかと」
「はぁ? それどういう意味よ! じゃあ、こういう時にツクヨミならなんて言うのよ?」
「そうですね。もし、私ならここは……」
そう言って、ツクヨミお姉さんは片手を顎先に当てると。
「お可愛いこと……ですわね」
と、レーヴァテインを見下すような表情を浮かべた。
まるで、相手を蔑んでいるかのようなその冷たい視線に、俺は居た堪れない気持ちになった。
多分だけど、それ余計に傷付くやつだよね? というか、それどっかの生徒会副会長が言いそうな台詞だよね? つーか、某有名漫画の天才たちの恋愛頭脳戦的なやつだよね!?
「なっ、ツクヨミだけずるいわよ! 私もその台詞言ってみたかったのぃ〜」
「姉様にはこのキャラよりも、ツインテのツンデレキャラ台詞の方がお似合いかと思いますが?」
「じゃあ、ツクヨミが言うそのツインテのツンデレキャラって、なによ?」
「そうですねぇ……。それを例えるのなら、競走馬が美少女化した某人気ソシャゲに登場するやたらと一着にこだわりを持つ気性難のツインテウマ娘とか?」
「はぁ? なによそれ全然意味わかんないわね。このオタンコニンジン!」
「フンッ、ツクヨミ姉上め。自分は四宮か◯やでアマテラス姉上はダイワス◯ーレットとでも言いたいのか? ハハッ、なかなか良いセンスをしているではないか」
『あのさぁ、スサノオ。お前、絶対オタクだよね? ついでに、お前のお姉さん二人もなかなかのオタクまであるよね!?』
こんな強キャラでありながら、オタ知識を臆せず堂々と口にできるこの三人に俺はちょっとだけ羨ましさを感じていた。
こういうオタトークを自然と語り合える姉ちゃんたちがいたらそりゃ弟くんも幸せだよね。
つーか、それってこの世に生きるオタク男子にとっての切なる願いだよね!
なーんて、ひとりで勝手に盛り上がっていたけれど、非オタのレーヴァテインからしてみればお姉さんたち二人の台詞は侮辱以外のなにものでもなかったらしく、怒りに声を震わせいた。
「ぐくっ、おのれ! この俺を侮辱してくるとは……調子にのるなああああああああああああああ!」
重傷を負った四肢から流れ出る血液を気にも留めず、レーヴァテインがスサノオのお姉さん二人を相手に襲いかかる。
だが、そんなレーヴァテインをお姉さんたち二人はまるで相手にはしておらず、繰り出す全ての攻撃を軽々と躱して遂には奴を足蹴にして拘束し、呆れたような声を漏らした。
「なんなのアンタ? 私たちに殺されたいの?」
「威勢の良い口調の割には随分と無様ですね」
「ほ、ほざくなこのアマ共ぉ……。こ、これは俺の奴との神聖な決闘だ。何人も邪魔をすることなど許されんのだ!」
足蹴にされていたレーヴァテインが怒り狂ったように暴れて長剣を振り回すと、アマテラスお姉さんツクヨミお姉さんの二人は後方へと飛び退き、嘆息しながら肩を竦めた。
「つーか、なんなのコイツ? 私たちとの力の差がまるでわかっていないみたいだけど、マジでイカれてるわけ?」
「思春期の男子によく見受けられるイキリキッズというものではないでしょうか? で、どうしますか姉様?」
「そんなの決まっているでしょ? こんな雑魚、さっさと神光を使って始末してやるわ」
「アマテラス姉上め。格下を相手に神光を使う気か。相変わらず容赦ないな」
『なぁ、スサノオ。その神光って?』
「む? あぁ、【神光】とは、アマテラス姉上が持つ神器の八咫鏡の能力だ。アレを受けたら、厄災の魔物など骨も残らんぞ」
『お前の言う厄災の魔物ってのがイマイチピンとこねぇけど、骨も残らねぇとかそんなに凄い技なのか?』
「まぁ、あの男にとっては地獄だろうな。俺が思うに奴は厄災の魔物の類いだ。そして、厄災の魔物にとってアマテラス姉上の神器はまさに死の象徴。なにせその存在を浄化させられてしまうのだからな。せめて、俺のアマノヌボコの方が楽に死ねただろうにな」
逆さ吊りにされながらも、後方腕組み杞憂おじさんヅラをして、スサノオが死にかけのレーヴァテインをどこか憐れんでいた。
というか、レーヴァテインが厄災の魔物って、どういう事だ? そもそも、その厄災の魔物ってなによ? つーか、もうなにがなんだかよくわからないけれど、スサノオとお姉さん二人にとって魔剣の精霊とは、そういう認識なのかもしれない。
なんだか、俺の持つ情報とスサノオたちが持つ情報は似ているようでどこか違う気がするけれど、この三人にとっても魔剣の精霊は敵対象であることに違いはないようでどこか安心した。
「一応、アンタは会話が出来るタイプの魔物みたいだけれど、私たちの邪魔をする障りな奴はここから消えてもらうわ。覚悟しなさいよね」
「ナメるなこの女ァ! 貴様らなど、この剣の錆にしてくれるわああああああああ!」
「はぁ……本当に憐れなこと。姉様、あの愚か者に安らかな粛清を」
「わかってるわよ。さぁ、八咫鏡。神光を発動!」
アマテラスお姉さんが左右の手に持つ半月型の盾をひとつに合わせて円型にした直後、鏡面のように輝くその表面から神々しく眩い光が放たれ、レーヴァテインの体を呑み込んだ。
その眩い金色の光にレーヴァテインの全身が包まれた直後、中から奴の悲痛な声が聴こえてきた。
「な、なんだこの光は!? か、体が焼かれ……ぐあああああああああ!」
「姉様の八咫鏡による神光は厄災の魔物を浄化する。さぁ、還るべき場所に還りなさい」
「が、がはあっ!? この俺が……ここで消滅するな、ど、あり、えな……」
「レーヴァ!」
「アタシたちが助けるわよん!」
アマテラスお姉さんが大楯から放つ神々しい光に包まれもがき苦しんでいたレーヴァテインをエペタムとティルヴィングの二人がどこからともなく現れ、光の中から掻っ攫うように担いで逃げて行った。
その様子をポカンとした表情で見ていたアマテラスお姉さんだったが、すぐさま大楯の向きを変えると、逃走するエペタムとティルヴィングの二人に向けようとしていた。
「へぇ〜、他にも仲間がいたわけね……。相変わらず、厄災の魔物はコバエのように鬱陶しいわね! ま、一匹も逃すつもりはないけど!」
「でも、姉様。コバエ程度に神光を使うのは流石にえげつない」
「うっさいわよツクヨミ! ともかく、アンタらはここで消えなさい!」
「あー……ティル姉? なんか俺っちたち、かなりヤバくない?」
「そんなの見ればわかるわよん!? 死にたくなければ走りなさいよねん!」
アマテラスお姉さんの神光が、光のトンネルを形成するように真っ直ぐ放たれ、この場から逃げようとするティルヴィングとエペタムに迫る。
このままだと、あの二人もレーヴァテイン同様にアマテラスお姉さんの神光を浴びて浄化されてしまうかもしれない。
でも、なぜか俺はそれがとても嫌だった。
確かに、アイツら二人は俺たちの敵だ。
だが、俺はアイツら二人が敵だとしても嫌いにはなれなかった。
『スサノオ、あの二人をなんとか助けられないか?』
「は? ツルギ、お前正気なのか?」
『俺は正気だ。なんでかわからないけど、あの二人には死んでほしくないんだ! 頼むから、なんとか助けてやれないか?』
「お前なぁ……」
自分でもなんでこんな事をスサノオに懇願しているのか理解出来なかった。
でも、俺の中でティルヴィングとエペタムの二人は生きて欲しいと思うところがあった。つーか、どうしちまったんだ俺は? 敵であるあの二人に情けというか、変な感情移入でもしちまったのか? 例えるならそれは、道端に捨てられた子猫みたいな? いや、それはなんか違うな……。
理由はわからないけれど俺にとってあの二人は、とても重要な存在という気がしてならないというか……なんでだ?
そんな自問自答を勝手に繰り広げて悩む俺に、スサノオが嘆息しながら言う。
「あの二人を助けたいのなら喜べ。例の男が、お前の願いを叶えてくれそうだぞ?」
どこかぶっきらぼうにスサノオがそう言った直後、逃走するティルヴィングとエペタムに迫る神光を妨げるように一本の魔剣がアマテラスお姉さんの大楯へと投げ放たれた。
投げられた魔剣は大楯の表面で弾かれ、地面の上へと転がり、それから程なくしてアゲハ蝶のようにファビュラスな羽をはためかせた泰盛さんがゆっくりと空から現れた。
その姿はまるで、星のカー◯ィスターアライズに登場するバルフレイナイトのようだった。
「やれやれ。悪いけれど、その二人を浄化するのは勘弁してもらえるかな?」
「……ぷぷっ」
「あの、姉様?」
「え? なによツクヨミ?」
「えっと、次の……」
「次の……って。あぁ、そうだったわね! 今度は何者よアンタ!」
ティルヴィングとエペタムに迫っていた恐ろしいサテライトのような光を泰盛さんが投げ放った魔剣が見事に妨害した。
その直後、お姉さんたち二人の注意が空に浮遊していた泰盛さんへと向けられる。
すると、レーヴァテインを担いで走るティルヴィングがサムズアップして声を上げた。
「ナイスよん、泰盛!」
「泰盛、オメェも今のうちに俺っちたちとトンズラしろ!」
「ははっ。そうしたいのは山々だけど、君たちをここから逃すためには僕が囮になる必要があるんでね。悪いけれど、先に行ってくれないか?」
「ちょ、泰盛アンタ……死ぬつもりなのん!?」
「いやいや、流石にまだ死ぬつもりはないさ。でも、場合によってはここで死ぬかもしれないね?」
「泰盛、無茶すんなよ! 俺っちは、オメェにまだ借りが!」
「わかっているさエペタム。でも、二人はレーヴァを連れてここから早く逃げてくれ。ここは僕がなんとかするよ」
「ちょっと、ダーリンが最高に格好良いことを言ってるんだからさっさと逃げなさいよ! でないと末代まで祟るわよ!」
「泰盛……アンタ、まさか」
「ティル姉、ここは泰盛に任せようぜ。今の俺っちたちじゃあの女共には敵わねえ」
「で、でも!」
「ティル姉、察してやれよ。泰盛! 必ず生きて戻れよな!」
「出来るならそのつもりだよ。とはいえ、短い間ではあったけれど、君たち二人と過ごした日々は、なかなか楽しかったよ……。さぁ、早くここから逃げるんだ!」
「このバカ……。こんなとこで死んだら承知しないわよん」
「行こうぜティル姉。アイツなら、上手くやれるさ」
意識を失ったレーヴァテインを担いで立ち止まっていたエペタムとティルヴィングに泰盛さんが後ろ手を振る。
その姿を見てティルヴィングは目元を擦ると、エペタムと共に背を向けて一心不乱に走り出した。
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