第66話 仲間だろ

 師匠の話を聞くにあたって、かなり長くなると予測した俺たち四人は、近くにあった適当な椅子を各自で持ち寄り腰を下ろした。


 そして、肝心の聖剣に関する師匠の話はこうだった……。


 まず、聖剣は精霊となった人間の生命エネルギーをオーラに変換して扱う事ができる兵器であるということ。

 そして、その生命エネルギーを最も高める事のできる方法がという事だった。


 師匠いわく、エッチな行為とは『後世に子孫を残すための神聖なる儀式』であると、豪語しており、簡単に説明すると、『子孫を残すためにものすんごい生命エネルギーを生み出せるんだゾ!』とのことだった。

 その話を聞いた直後、俺はとても感銘を受けて思わず涙が出そうになった。

 エッチな行為ってマジ尊い……。

 でも、それなら安綱さんはどうなの? と、思ったけれど、あの人も性感を得て生命エネルギーを高めているからまあいいかと、納得した。


 これは余談だが、魔剣との戦闘後にエクスが眠ってしまうのは、それだけの生命エネルギーを聖剣のオーラに変換して疲弊しきってしまうからなのだろう。

 これからは、エクスのアフターケアに力をいれようと思う。

 アレだよ? とは言ってもそっちのとかじゃないからね? 勘違いしないでよね!


 とまあ、そんな冗談はさて置いて、その話を聞かされたうちのカナデとヒルドは……。

 

「……いくら生命エネルギーを必要とするからと言われても」


「その方法って、どうなのって感じだし……」


 と、非難轟々である。


 その研究開発にあたる第一人者の師匠は涼しい顔でセレジアちゃんの淹れたコーヒーを啜っており、その弟子であるレイピアさんは申し訳なさそうにその身を縮めていた。


 まぁ、女子からしてみればそれは途轍もなく卑猥な行為だから、それを受け入れ難いのは理解できるけれど、俺からしてみればすんごく素晴らしい行為だと思える。

 故に、俺は断然師匠の味方につくつもりだけどな!


「あの、ちょっと質問していいですか?」


 師匠の話が終わり、パイプ椅子に腰掛けていたヒルドが挙手する。


「例えばの話なんですけど、私はセイバー候補生なので、パートナーになるのは勿論精霊さんだとします。そしたら、私がそのパートナーの精霊さんに、そういう性感をあ……あた、与える行為をですね……」


「おい、ヒルド。無理すんな。それ以上話したら間違いなくオーバーヒートするぞ」


 ぷすんぷすんと、頭から湯気が出そうなほどヒルドがその顔を真っ赤にしている。

 別に無理して想像力を働かせる必要もないと思うのだが、思春期だから仕方ないのかもしれない。


「ま、まぁ、現段階ではそういう性感を得る行為によって聖剣を扱わざるを得ないという感じですけれど、つい最近開発された聖剣デバイスはそれを必要としないタイプの物なんですよ。ね、博士?」


 聖剣についての悪い印象を払拭するためか、ヒルドとカナデにレイピアさんが取り繕うようにそう話す。

 しかし、当の師匠は退屈そうに鼻を鳴らすと……。


「フンッ。アレが他の聖剣と肩を並べられるほどの力を持つのは不可能じゃろうて」


 と、バッサリ切り捨てた。


「それに、アレはどこぞの女々しいセイバーが女房以外の精霊とは再契約せぬとか駄々をこねているからなんとかしてくれと上層部の連中から懇願されて仕方なく造ったデバイスじゃ」


「ちょ、博士! その話は!」


 と、コーヒーを啜る師匠にレイピアさんが慌てた様子で口を挟もうする。

 その様子に俺とカナデが首を傾げていると、ヒルドが低い声音で言う。


「……レイピアさん、別にいいんですよ。本当のことですから」


「で、でも……」


 あわあわとしているレイピアさんにヒルドはかぶりを振ると、落ち着いた口調で話を続けた。

 

「ダーイン博士、うちの父がワガママを言ってご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした」


「フンッ。謝罪ならいらんわい」


 席を立ち、ペコリと頭を下げたヒルドに師匠はバツの悪い顔を浮かべると、視線を逸らすようにしてコーヒーを口に含んだ。

 そのやり取りを黙って傍観していた俺にヒルドが言う。


「父は心の底から母のことを愛していました。でも、パートナーである母が亡くなってからというもの、セイバーでありながら魔剣と戦わずに塞ぎ込んでしまったのは、父の弱さだと私も痛感しています……。そして、そんな父の面倒事に草薙さんや多くの人たちを巻き込んでしまって、本当に申し訳ありませんでした!」


 俺にまでヒルドは頭を下げてくると、その瞳に薄っすらと涙を溜めていた。

 きっと、父親の事で他の人たちに迷惑をかけていると責任を感じているのだろう。

 だとすればそれは、大きな間違いだ。


「なんでお前が頭を下げるんだよ? そんな必要ねえだろうが」


「いいえ。父の失態は娘である私にも責任があります! ですから、改めて謝罪を!」


「おい、ヒルド。お前はなにか勘違いをしてねえか?」


「勘違い、ですか?」


 俺の台詞にヒルドが当惑する。

 正直、こんなことを言うのは俺のガラでもないのだが、今のヒルドには伝えておこうと思えた。


「例えば、仲間の失敗で大ピンチに陥ったとき、お前はその仲間を糾弾するのか?」


「え? そ、それはわかりませんけど……」


「どんな理由であろうと、仲間の失敗をとやかく言うような奴は仲間だと思うな。本当の仲間なら、その失敗を同じように受け止め、それを共に乗り越えようとするのが本当の仲間ってもんだろ? 俺はお前と同じアヴァロンの人間だ。その同士であるお前がピンチに陥ってるなら、俺がそれを助けるのは当然のことだ。だから、謝ることなんてするな。なにせ俺たちはもうなんだからよ」


「く、草薙さん……」


 俺の顔を真っ直ぐ見つめるヒルドの瞳からポロポロと涙の雫が零れている。

 こんな少年ジャンプの主人公みたいな台詞を口にするのはこっ恥ずかしいから嫌だったけど、ヒルドにはもっと俺たちを信頼して欲しいからそんな台詞をついつい言ってしまった。

 正直、穴があるなら挿れた……いじゃなくて、入りたい。

 そんな気分だった。


「草薙さん……本当に、ありがとうございます!」

 

「礼なんていらねえよ。だからもう泣くな」


「つーくん……」


「あ? どうしたカナデ?」


「今の、アタシでもキュンとしたし!」


 両手を胸の前でギュッ握り、その頬を紅潮させてカナデがジッと見つめてくる。

 ……あらやだ。狙ってもいなかったのに高感度が上がったわん。


「ツルギさん。私も今のお話にとても感動しました! 男らしくて素敵だと思います!」


 その瞳をキラキラとさせると、レイピアさんが俺に近づき両手を握ってくる。

 おっと、これはまさかの連鎖反応だ。

 まさかレイピアさんまでが、こんなに感情を露わにしてくるなんて思ってもいなかった。


「草薙さん。いえ、ツルギ先輩! これからは、私になんでも命令してください!」


「よし、わかった。じゃあ早速、売店で焼きそばパンとエロ本を買ってこい!」


「ツルギさん! 私にも出来ることがあったらなんでも言ってくださいね! だって、私もアナタと同じアヴァロンのですから!」

 

「マジすか! じゃあ早速、そのたわわに実ったお胸にこうムニュっと……」


「つーくん!」


「なんだよカナデ?」


「その、チュ……チューとかしてあげよっか?」


「いらん」


「なんでアタシだけ拒否!? しかも即答とか酷くない!」


 とまあこんな感じで、俺に対する女子たち三人からの高感度が爆上げとなり、信頼と連帯感を得ることができたようだ。


「クカカカッ! 小僧よ、お前は良いモノをもっとるようじゃな?」


 師匠はケラケラ笑うと、俺たちに背を向けて研究室の奥へと去ってしまう。

 本当は、師匠の部屋にある『VR白人彼女』がヒロインズのひとり【ジェシカ】ちゃんのラブドールをお触りしたかったけど、こんな場面でそれをしたら一気にシラケてしまうだろうから、それはまた次の機会にしようと思った。



 

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