第45話 突然の知らせ
琥珀ちゃんを連れてテーマパークに行った翌日の早朝。
俺はリビングのソファに腰掛け、スマホの待受画面をニヤニヤしながら見ていた。
「うん。なかなか良い感じだ」
俺が持つスマホの画面には琥珀ちゃんを含む、エクス、カナデ、俺の四人で身を寄せ合い、皆で横ピースをした写真が表示されていた。
「フフッ。なにを見てニヤけているのかなぁ〜?」
四人で撮った記念写真を眺めて口元を緩めていると、制服姿のエクスが隣に腰を下ろしてスマホを覗き込んでくる。
俺はスマホの画面をエクスに向けると、懐かしむように言った。
「昨日、みんなで撮った記念写真だよ。なかなか良くねえか?」
俺がそう言うと、エクスがくすりと笑う。
「ツルギくんもその写真を待ち受けにしていたんだね?」
エクスはそう言うと、自身の手帳型スマホケースを開き、そこにある画面を俺に見せてきた。
「ジャーン! 実は私も、その日の写真を待ち受けにしていたんだ。なんていうか、すごく楽しかったよね!」
魔剣の精霊と遭遇したとはいえ、それを頼乃さんが鮮やかに殲滅したから、俺たちが出る幕はなかった。
そのあと、これ以上の危険がないと知り、琥珀ちゃんとテーマパークで遊んだ。
そのときの思い出として写真に納めたこの一枚を見ると、テーマパークで過ごしたあの時間がとても充実していたと思える。
「あのときの琥珀ちゃんは、本当に喜んでいたもんな。なんつーか、子供って可愛いもんだよな」
スマホの画面に映る屈託のない笑顔の琥珀ちゃんを見つめながら何気なくそう言うと、エクスが俺の肩に寄り添ってきた。
「そうだね。私もいつかは琥珀ちゃんみたいな子供が欲しい、かな?」
「なん……だと!?」
ぽそりとうわ言のように呟いたエクスに、俺はいつの間にか真剣な眼差しを向けていた。
いつかは子供が欲しい?
それはつまり、俺とエッチがしたいというフラグなのではないだろうか!?
「なぁ、エクス?」
「ん? なに?」
「ヤらないか?」
「え? なにを?」
「いや、お前が子供欲しいって言うからその、エッチを……」
「なっ!? そ、それは、そうだけど……」
至極真面目に答えた俺を見て、エクスが顔を真っ赤にする。
はっきり言ってしまえば、俺たちは魔剣と戦うために何度もそういうような行為を続けてきた。
それを思うと、子供を作る大切な行為に対してそこまでの緊張感はないと思うのだが、やはり女子と男子では考えが違うのか、エクスが頬を膨らませて俺の顔を睨んでくる。
「んもぅ! ツルギくんは、そういう大事なことを簡単に済ませようとするからダメなんだよ!」
「え?」
なんか急にエクスがキレた。
「というかさぁ、ツルギくんは少し目を離すと、カナデさんにもエッチなことをしようとするじゃん? なんていうか、そういう浮気症な人と私はしたくないんだよ!」
「そ、そんな!?」
俺からプイと顔を逸らしたエクスにマジでショックを受けた。
確かに俺はスケベだし、カナデや村雨先生のおっぱいを想像して日々悶々とすることもある。
でも、そんな魅力的な二人がいたとしても、俺の中で一番エッチなことをしたいのは断然エクスだけだ。
「え、エクス? 今のは冗談、だよな?」
「なにが?」
「だ、だから! ……俺とエッチしないとかって」
「はぁ〜……ツルギくんさぁ〜」
割と真剣にそう訊くと、エクスが呆れ顔でため息をを吐いてからジト目をけくる。
「……もし、私が本気でそう言ったら、どうする?」
「なっ……」
正直、絶句した。
どうしよう、エクスに嫌われたちゃった!?
なんかこのままだと、セイバー契約とかも解除してくれとか言われそうで泣きそうになる。
あ、やだ……目頭が熱くなってきた!
「えっと、ツルギくん?」
「うぅ……えぐずぅ〜……」
「な、なんで泣きそうな顔してるのさ!?」
「だぁっでぇ〜……お前は俺を見捨てるつもりなんだろぅ?」
膝上に置かれたエクスの片手を握り、鼻を啜りながら俺がそう言うと、彼女はキョトンとした表情を浮かべてからニッコリと笑った。
「もぅ、私がツルギくんを見捨てるわけないじゃないか〜」
「グスッ……ホントか?」
「ホントだよ。でもね、あんまり浮気するようなことをしていたら――」
と、悪戯な笑みを浮かべてエクスが俺の鼻先をつついてくる。
「……いなくなっちゃうかもね?」
「いやだああああああああっ!?」
「きゃあ!? ちょ、ツルギくん!」
俺はエクスの胸に飛び込むと、その柔らかな胸に顔を埋めて抱きしめた。
「浮気とかしないから絶対! だから、俺とエッチしてくれ!」
「もっと他に言い方があると思うけど違うかなぁ!?」
「俺はバカだからそんなカッコイイ台詞なんて思いつかねえよ! でも、お前のことは誰よりも好きだ!」
「ふぇっ!?」
誇張とかナシに俺はエクスが好きだ。
勿論、エッチなことをしたい相手は彼女だけ……とは、言い切れない部分もあるけれど、それでも俺はエクスの事を真剣に愛していると誓える。
そんな想いを含んだ熱い眼差しを向けると、エクスが気恥ずかしそうに頬を掻く。
「ま、まぁなんていうか……ツルギくんの気持ちはよ〜くわかったよ。大丈夫、私はずっとキミの傍にいるよ」
「え、エクスぅ〜」
「だから、もう泣かないでよ、ね? はい、いい子いい子〜」
涙ぐむ俺の頭を優しく撫でると、エクスがそっと抱きしめてくる。
その温もりと彼女の甘い香りに、俺は溶かされてゆくように力を抜いた。
「ごめんよ、エクス。許してくれ」
「はいはい、もうわかったから。そろそろカナデさんが迎えに来る頃だし、学校に行く用意をしようよ」
「じゃあ、チューしてくれ」
「え?」
「俺は今、猛烈に不安な気持ちで心の中が埋め尽くされている。だから、それを消すおまじないをしてくれないか?」
「え、えぇ〜……」
縋るような目で見つめると、エクスが苦笑する。
そうだよ。俺を不安にさせたのはエクスだ。
それなら、この不安を払拭するためにおまじないのチューをしてもらえるだけの権限はあると思う。
というか、してもらわないと気がすまない! そんでもって、あわよくばおっぱいだって触らせてもらいたいくらいだ!
「……じゃ、じゃあ、ちょっとだけだよ?」
そっと視線を逸らして頬を朱色に染めたエクスに俺は頷くと、緩みそうになった口元を抑えた。
クックックッ、ここまでは全て俺の計算通りだ。
純真無垢なこの俺をイジメたことを後悔させてやる……と、心の中でほくそ笑んでいたりする。
「一応言っておくけれど、カナデさんが来ちゃうから本当に少しだけだよ?」
「あぁ。わかっている」
「じゃあ、はい……」
瞳を閉じてエクスが形の良い唇を差し出してくる。
さぁ、ここからベロチュウの流れに持って行き、そこからエクスを興奮させて色々とエロイことをするとしよう……。
んーと、キス顔をするエクスに下心満載で俺が唇を近づけようとしたそのとき、ローテーブルの上に置かれていたスマホが着信を知らせた。
その音にエクスは瞳をぱっちり開くと、俺のスマホに視線を向ける。
「ツルギくん。電話鳴ってるよ?」
「チッ。んだよ、こんな大事なときに……どこの誰だ?」
悪態をつきながらローテーブルに置かれたスマホを手に取ると、あの人からの着信で俺は目を瞬かせた。
どうして彼女から連絡がきたのか……。
それに困惑しながらも、俺は急いで応答する。
「……はい。もしもし?」
『もしもし? 草薙くんかしら?』
電話の相手は、頼乃さんだった。
スマホの通話口から聴こえてくる頼乃さんの声にエクスが聞き耳を立ててくる。
「頼乃さん。どうしたんですか?」
『急にごめんなさいね。アナタにちょっと聞いておきたい事があるのだけれど、時間あるかしら?』
「それはまぁ……なにかあったんですか?」
俺がそう返すと、頼乃さんが一拍開けてから言う。
『……そうね。あったと言えばあったわね』
「一体なにがあったんですか?」
『信じる信じないはアナタに任せるけれど、落ち着いて聞いてちょうだい』
そう告げたあと、頼乃さんから放たれた台詞に俺は呆然とした。
『琥珀ちゃん、だったかしら? 草薙くんが話していたあの子の住まう神社に調査がてら足を運んでみたのだけれど……』
「?」
『……彼女がいる神社が、ズタズタにされていたわ』
「……え?」
その台詞の直後、俺の側で聞き耳を立てていたエクスの顔色が蒼白になった。
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