第198話 男子なら、誰もが一度はエロアニメで目にすること

 いつから眠っていたのかわからないが、手足の感覚が徐々に戻ってきて、そこでようやく目が覚めた。


「……ここは、どこだ?」


 ゆっくりと開いた瞼からぼんやりと視えたのは見知らぬ天井だった。

 朧げな意識の中、俺は目だけで周囲の様子を窺う。

 どうやら、俺はどこかの一室にあるベッドの上で眠っていたらしい。

 しかしながら、一体なにがどうなったのか状況整理がまったく追いつかないし、酷い頭痛がする。

 そもそも、俺はどうなったんだ?


「俺は……あれからどうなったんだ?」


 意識が覚醒してすぐに俺は記憶の整理をし始めた。

 確かレーヴァテインとの戦闘中に死にかけて、そしたらいきなり謎空間に囚われてそこで出会ったスサノオに体の自由を奪われて、そんで八岐大蛇とかいう化け物が出てきて、そしてそのあと……。


「……マドカさんに刀で刺された?」


 散らばっていた記憶の断片を手繰り寄せながら思い出せた最後の映像。

 それは、泰盛さんの魔剣で腹部を貫かれ瀕死状態にあったはずのマドカさんがいつの間にか復活していて、北条先輩が持っていた刀で俺を突き刺したところだった。

 色々と思い出そうとすると、情報量が余りにも多すぎて思考が停止しそうになる。

 これが巷で流行りの無領◯処とかいう呪術なのだろうか。


「領域展開なんて誰にもされた覚えねえぞまったく……それより、ん?」


 不意に動かした俺の両腕が心地の良い温かななにかでしっかりと固定されていた。

 それを確かめるべく、首を左右にゆっくり巡らせてみるとそこには……見覚えのある若い白髪女性二人が俺の左右で静かに寝息を立てていた。

 一人は長く艶めく白髪をツインテールにし、気が強そうでありながらもどこか幼さを残した顔立ちの女性だった。

 つまり、アマテラスお姉さんだ。

 そして、もう一人はサラサラとした白髪をボブカットにした物腰の柔らかそうな雰囲気を纏うこれまた幼顔をした女性だ。

 こちらは勿論、ツクヨミお姉さんである。

 見た感じ二人は俺より歳上だろうから推定二十歳前後といったところだろう。

 その愛らしくも整った顔立ちと見事なプロポーションを有するこの二名がひとたび街に繰り出せば世の男たちは間違いなく振り返り恍惚とするだろう。

 そんな美女二名に俺は今、抱き枕にされていた。

 しかも、彼女たちは共に全裸である。

 ふむふむ、なるほど。

 つまりこれは……。


「……意味がわからん」


「んぅ……スサぁ〜。そこはデリケートな所だから優しく触れてぇ〜」


 俺の声に反応したのか、アマテラスお姉さんは両腕をコチラに伸ばしてくるとそのまま俺の首に絡めてきて豊かなおっぺぇに埋めてきた。

 あらやだものすんごく柔らかいわん。

 オマケにキャンディーのような甘い香りがして思わず吸い付きたくなっちゃう。


「すぅ、すぅ……んんぅ、スサ。姉様のよりも私の方が気持ち良いですよ?」


 アマテラスお姉さんに続いて今度はツクヨミお姉さんが俺の頭を抱きこんできた。

 というか、この二人どんな夢見てんの? つーか、なんで二人とも裸なの? そんでなんで俺と一緒に寝てんのぉ!?


 俺の頭部を二人で大事そうに抱えてくるアマテラスお姉さんとツクヨミお姉さんのせいで身動きが取れなくなった。

 この二人、穏やかな寝顔を浮かべていますけど、その細くて長い両脚からは想像もつかないような強い力で俺の下半身をガッチリとホールドしている。

 しかも、俺の両手に至っては最もデリケートな部分であるお股で完全に挟み込まれているし、これは下手に手を動かしたらエロイ……ではなく、色々とマズイ状態に陥るだろう。

 ……しっかし、どうしようこれぇ〜? 流石に身じろぎひとつ取れない状況はキツいし、いっそのこと試しに少しだけ両手を動かしてみるか。


「ひんっ! す、スサぁ〜……だから、優しく触れてって、言ってるじゃないのよぉ〜」


「ひゃう! す、スサ。私の大事なところにそんなイタズラをするなんて本当に悪い子ですね……」


 ……予想通りの反応で草が生える。

 いやいや、ぶっちゃけエロイ事なんてなんもしてないからね俺? ていうか、俺はスサノオじゃねえから。

 てか、この二人の反応を鑑みるになんだかこういうシチュエーションにかなり慣れているような気がする。

 まさか、スサノオって自分の姉ちゃんにそんなエロイ事をしていたエロアニメの主人公みたいな奴だったのか!?


「ハァ、ハァ……す、スサ。いいわよ」


「ハァ、ハァ……す、スサ。私の初めてを……あげます」


「あの、お願いですから勘違いされるような事を言うのやめて!?」


 嬌声を漏らしながら頬を赤らめて卑猥な寝言を口にするアマテラスさんとツクヨミさんに俺が困惑していると、部屋の外から誰かが勢い良く駆けてくる足音がした。

 それから程なくして部屋のドアが豪快に開かれると、必死な形相を浮かべたエクスとカナデの二人が現れた。


「ツルギくん! 意識が戻って……ふぇ?」


「つーくん! 意識が戻っ……へっ?」


 ドアを蹴破る勢いで登場したエクスとカナデは、ベッドの上でアマテラスさんとツクヨミさんの二人から抱き枕にされていた俺を見て目を丸くする。

 この展開は絶対に面倒くさいやつだ。

 勘違いされて二人から罵倒される前に俺から先手を打っておこう。


「……や、やぁ、二人とも。というか、この状況がなんなのか説明してくれねえかな?」


「あのさぁ、ツルギくん……それはこっちが説明をして欲しいくらいなんだけどなぁ〜」


「つーくん。ホント今更だけど、ふざけんなし」


「なんで俺が悪いみたいになってんのぉ!? これはアレだよ? 俺にはなんの罪もないからね!」


「んんぅ……あれ? おはようスサ」


「ふぁ〜……おはようございますスサ」


 ゴミを見るような目で俺を見てくるエクスとカナデに焦っていると、アマテラスさんとツクヨミさんの二人が寝ぼけ眼を擦りながら上半身を起こした。

 というか、改めて見るとこの二人ものすんごいスタイルが良い。

 細身でありながら出るところはしっかり出ていて、無駄のない完璧な仕上がりをした美ボディだ。

 まあでも、俺的にはエクスやカナデみたいに細いけどちょっとだけぷにぷにした感じの方が好みだけど。


「ふぁ〜、よく寝れたわぁ……って、ちょっとツクヨミ。なんでアンタまでスサと一緒に寝てんのよ!」


「それは私とて同じセリフですよ姉様。長きに渡る悠久の時を経て、ようやく最愛の弟と再会を果たせたのですから添い寝をするのは当然かと」


「それはそうね」


「それはそうね。じゃ、ねえんだよな! なんでお姉さん方が俺に添い寝してんの? ていうか、一体どういうことぉ!?」


 今の状況を例えるなら、新劇場版のエヴ◯で『破』から『Q』に移った時くらいの衝撃展開に似ていて俺の脳が混乱を極めている。

 これはアレかな? 実は俺が高校生のままでエクスたちが大人になっちゃって……って、なってないな。

 くだらん妄想はこの辺にしておこう。

 

「いやはや、ようやくお目覚めかい草薙君。実のお姉さん二人から介抱してもらえて随分と調子が良さそうじゃないか?」


 エクスとカナデの背後から聴こえた声に視線を移すと、二人の間からシックな私服に身を包んだ泰盛さんが現れ、ニッコリとした笑顔を浮かべて立っていた。

 え? ちょっと待って? なんで泰盛さんまでここにいんの?

 

「え……泰盛さん!? どうしてここに!」


「はっはっはっ。色々と状況が飲み込めず混乱をしているようだけど、今に至るまでの経緯を草薙君に一から全部話しておきたいんだ。目覚めてすぐに悪いんだけど、我が家のリビングに来れるかい? 他の皆もキミが来るのを待っているよ」


 それだけ言うと、泰盛さんは後ろ手に手を振り、さっさと退散しようとする。

 我が家のリビングということは、ここは北条先輩の屋敷の中という事か? いや、今はそんな事を認識している場合じゃない。

 そうだよ、俺はあの人に色々と聞きたいことが山ほどあるんだ!


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ泰盛さん! スサノオは? それに、八岐大蛇は!」


「ツルギくん」


「エクス?」


「その辺の事情もこれからわかるよ」


「……」


 魔剣側であるはずの泰盛さんが悪びれた様子もなく堂々と登場してきて俺が当惑しているというのに、エクスは眉の一つも動かさず真剣な眼差しを向けてきた。

 そのただならぬ雰囲気に言葉を呑むと、俺は自然と口を引き結んだ。

 一体、これからなにを語られるのだろうかと……。

 



 




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