第206話 二人きりだから

 朧げな意識から覚醒してまず視界に飛び込んできたのは、見慣れた我が家の天井だった。

 木目の模様が動物だったり、人の顔に見えるのはその時の心境の表れだと田舎で暮らす爺ちゃんがよく言っていたような気がする。

 そして、俺の目に映る自室の天井の模様は……。


「おっぱいみたいだ」


 左右均等な孤を描き、その中心部からやや外側に向けて小さい点が二つ。

 どうやら、今の俺の心境はおっぱいでいっぱいということなのだろう。

 

「ツルギくん」


 囁くような優しい声音に視線を移すと、俺が仰向けに寝ているベッドのすぐ傍でエクスが腰を下ろしていた。

 エクスは俺の顔を見て安堵したように微笑むと、白くて綺麗な手でそっと頭を撫でくる。


「エクス、ずっとそこに座っていたのか?」


「うん。だって、ツルギくんがずっとうなされていたからね」


 エクスいわく。北条家から帰還した俺たちは一時解散となり、村雨先生は帰宅。犬塚先輩は北条先輩が心配だからとそのまま残った。

 アマテラスさんとツクヨミさん、それに泰盛さんはなにかの調査に向かったらしい。

 そして、俺はエクスとカナデとヒルドの四人で帰宅。

 その後、ずっと堰き止めていた疲れがどっと溢れ出たのか、俺は自室に戻るなりベッドに倒れ込んでそのまま眠りについてしまったらしい。

 正直、色々な事がありすぎて脳のキャパシティを超えていると思う。

 だから、レーヴァテインたちと戦っていた時の記憶や北条家で聞かされた話しの内容に思考が追いつかず、なにからなにまでぼんやりとした感覚でとても曖昧だ。

 でも、ただ今ひとつ思うことは。


「なぁ、エクス」


「どうしたのツルギくん?」


 気がつくと、俺はすぐ側に座っていたエクスの腰に抱きついていた。

 多分、温もりが欲しかったんだと思う。


「頼むエクス。俺を癒してくれ」


「うん、いいよ。私に何をして欲しい?」


「とりあえず、膝枕で頭ナデナデ」


「ハハッ、ツルギくんが甘えん坊さんになっちゃった。よ〜しよ〜し、いい子いい子」


 くすりと笑って俺に膝枕をすると、エクスが優しく頭を撫で始めてくれた。

 少し長めに伸びた俺の髪をエクスの細い指先が梳くように撫でてくれる。

 耳元で聞こえる髪を梳く音とエクスの落ち着いた息づかいがなんとも心地よくて、自然と瞼が重たくなってきた。

 

「ねぇ、ツルギくん。なにがあっても私はずっとツルギくんの側にいるからひとりで悩まないでね?」


 不意にそう話してエクスは俺の頬に触れると、少しだけ切ない表情を浮かべた。

 多分、俺が本当はスサノオに殺されていて偽物だとツクヨミさんに告げられた事を気にしているのだろう。

 正直、俺自身も動揺していたし、真実がわからない以上胸のモヤモヤは晴れない。

 でも、そんな俺を気遣って側に居てくれるエクスは本当に優しい彼女だと思う。

 だから、これ以上エクスを不安になどはさせたくはない。

 ここは俺がしっかりと自分を信じて振る舞わなければならないところだろう。


「俺は大丈夫だよエクス。だから、そんな悲しそうな顔をしないでくれ」


「うん、ごめんね。よくカナデさんにも言われるんだけど、ツルギくんのことになるとどうしても私はすぐに顔に出ちゃうみたいなんだ」


 あはは、と苦笑しながらエクスが自身の頬を掻く。

 俺のことになると顔に出るということは、それだけ俺を想ってくれているということなのだろう。

 それは普通に嬉しいことだ。


「表情に出るくらい俺のことを想ってくれているなんて俺からしてみれば嬉しい限りだよ。それにまだあの話が真実かどうかなんてのもわからねえわけだし、とにかく……」


 と、寝返りをしてエクスの顔を真下から見上げると、俺は透き通るように綺麗な青い瞳をじっと見つめた。


「例えツクヨミさんが言う通り本当の俺が死んでいて今の俺がスサノオだったとしても俺は俺だ。草薙ツルギだ。それだけは変わらない事実だ」


 本当の俺は幼い頃にスサノオに殺されている。

 そんな耳を疑うような話をツクヨミさんにされても俺は割と落ち着いている方だったと思う。

 というか、あのスサノオが俺を殺したということに釈然としない部分があるというか、妙に納得できない部分があるからだ。

 俺を殺したのなら、なぜスサノオは自我を表に出していないのだろうか? なぜ、あの空間の中で八岐大蛇と生きているのだろうか? そう考えると、ツクヨミさんの話にはどうにも信憑性が欠けている点が多いと思えていた。

 まあとにかく、今はこの話を頭から切り離そう。なにせ久々にエクスと二人きりになれたのだ。たまにはイチャイチャしたい。

 そんな風に俺は気持ちを切り替えた。


「そうだね。ツルギくんの言う通り私にとってツルギくんはツルギくんだもんね。それに……」


 と、エクスは俺の唇に指先で触れてくると、柔和な笑みを讃えた。


「……久しぶりに訪れたこの二人きりの時間を大切にしよっか」

 

 優しく微笑むエクスに俺も口元を笑ませて頷いた。

 エクスと出会って色々な死線を二人で乗り越えて育んできた絆の深さは決して覆ることのない絶対的な信頼の証だ。

 エクスがいてくれるなら、俺はこの先々に待ち受けているであろうどんな苦境にも耐えられるだろう。というか、エクスなしでは生きてゆけないまである。


「ありがとうなエクス。やっぱ、俺にはお前しかいねえんだわ」


「フフッ、それは私も同じだよ。だけど、私とツルギくんにはカナデさんやヒルドちゃん、それに沢山の仲間たちがいることも忘れちゃダメだよ? そしてその中で私にとって一番大事な人はツルギくんただひとりってこともね?」


 ……あーもう好き。こんなキュンなことを言ってくれるエクスたんだいしゅき! なんなら今すぐこの好きって気持ちをアレとか腰とか全身を使って伝えたいくらいだ。

 俺は上半身を起こすとエクスの両手を握ってジッと見つめた。

 なんていうか、めっちゃキスしたい気分だったからだ。


「エクス」


「うん? なに?」


「エッチ……じゃなくて、キスしていいか?」


「こらこら、本音がダダ漏れだよ。でも、うん。いいよ」


 俺がそう訊くと、エクスはくすりと笑って頷いた。

 それを合図に俺は彼女の両手を手前に引くと細い腰に手を回し、ゆっくりと瞳を閉じてから唇を重ねた。


 ●◯●


 俺とエクスの二人だけしかいないこの自室内で聴こえてくるのは、少し乱れた互いの息遣いとキスするたびに唇の端から漏れ出すキス音だ。

 上昇してきた心拍数のせいか、キスの激しさが増してゆく。

 こんなに落ち着いた気持ちでエクスと愛を確かめ合えたのはいつぶりだろう?

 

「……はむ、んっ」


 お互いの舌を絡ませるたびに唇から漏れる湿り気を帯びた卑猥な音が静寂をかき消してゆく。

 少しだけ薄目を開くと、トロンとした表情を浮かべたエクスが俺と同じようにコチラを見ていた。

 エクスの頬がほんのりと紅潮している。

 それは、色白の彼女だからこそわかりやすい特徴だ。

 かといって、自分の頬の色が赤いかどうかなんて俺にはわからない。でも、先程から耳のすぐ近くで心音が騒がしく聞こえているのは興奮しているからだろう。

 周囲には誰もいないし、邪魔する者もいない。

 愛情を求める行為に没頭していてもなにも問題ないということだ。


「……はふ」


 今の俺とエクスに言葉などいらない。

 黙々と唇を重ねながら俺はエクスの着ているシャツの裾に片手を潜り込ませると、その豊満な双丘の片方に掌で触れた。

 そして、ある事に気が付く。


「エクスお前……」


「ち、違うよ! これはなんていうかその……二人きりだしそーいうムードになるかなぁ〜なんて思ってあらかじめ外しておいただけ……だよ?」


 気恥ずかしそうに顔を赤らめて自身の指先をツンツン合わせるエクスが愛らしい。

 既にお察しだと思うが、俺の彼女であるエクスはこういう流れになると予感していたらしく、既にノーブラの状態だったのだ。

 流石は俺のエクスたん。事前にこういう流れを汲んでくれるとか控えめに言って最高。

 ならば、その想いにコチラも応えなければ無作法というもの。

 全力で我が愛を捧ぐとしようじゃありませんか!


「……ちょ、ツルギくん」


 手のひらに収まりきらないほどの豊かなエクスの両胸を後ろからハグするように弄ぶ。

 そのたびに濡れた彼女の唇から零れる嬌声が、なんとも官能的で全身が昂った。

 エクスの息づかいがかなり乱れたきている。

 なんだか部屋の中の湿度も高くなってきたような気がするし、そろそろ良い塩梅だろう。

 俺は自身の上着をベッドの片隅に脱ぎ捨てると、エクスの着ていたシャツの裾に手を掛けた。

 

「エクス、いいよな?」


「う、うん」


 俺の問いかけに真っ赤な顔で頷くと、エクスが万歳をするように両腕を挙げる。

 それを確認して俺は彼女の着ていたシャツを一気に脱がすと、大きくて形の良い乳房を外気に晒した。

 本当にいつ見ても素晴らしいおっぱいだと思う。

 これを堪能できるなんて、我が生涯に一片の悔いなしというところだ。


「あのさ、ツルギくんはもう見慣れていると思うけれど、私はまだちょっと恥ずかしいから隠してもいいかなぁ?」


 豊かすぎる両胸を手ブラで抱えるように隠すと、エクスが上目遣いでそんなことを訊いてきた。

 今までに散々俺の前で露出してきたにも関わらず、まだ恥ずかしいとかそこはやはり乙女である。

 例え俺と二人きりだとしても、恥ずかしいものなのだろう。

 だが、俺はその提案を却下した。


「いや、ダメだ。それだとお前のその美しい神おっぱいに触れられなくなるし、吸い付くことも難しくなる。故にその願いは聞き入れられない」


「ちょっと手厳し過ぎるんじゃないかなぁ〜! べ、別に恥ずかしいから隠すだけであって、ツルギくんなら好きなだけ触ってもいいしその……す、吸ってもいいんだよ?」


「!?」


 ……イィイイィヤッハアアアアアアァァァァァァ! と、ちい◯わのウサギを彷彿とさせるような奇声を心の中であげていたりする。

 触ってもいいし、吸ってもいい? なにそれ最&高じゃん? そんなこと言われたら、もう我慢なんて出来るわけないじゃん!?


「え、エクス!」


「ひゃあ!? ちょ、ちょっと!」


 エクスの背中に片手を回してからベッドの上に勢いよく押し倒す。

 そして、その細い両腕で隠されていた二つの至高の宝をなかば強引に解き放つと、感度が増してぷくっと隆起していたTKBのひとつに俺は澱みない動きで吸い付いた。


「ひゃう!? あ……んぅぅ」


 俺が吸い付いた途端、エクスの肢体がビクッと仰反るように反応した。

 そのすぐあと、口元を両手で覆いつくしたのは快楽によがる自分の声を必死に抑えるためだろう。

 そんな背徳感マシマシな彼女の姿を堪能しつつも俺は無言で舌先を使い、やや硬くなった桜色の性感帯を弄んでいた。


「ハァ、ハァ……ンッ! ひゃっ!」


 いつになく良い感度だ。

 しかし、これだけ激しく舌で転がしてもまだ絶頂しないのは、エクスにもこの行為に対して耐性が付いてきたからだろう。

 だこらこそ、今日の俺はひと味違うのだ。

 なぜなら、今回はずっと触れることのできなかった最後の『聖域』に到達するつもりだったからだ。

 

 ベッドの上で仰向けになるエクスの胸元から指先を滑らせおへそを通過する。

 そして、その指先をショートパンツのボタンに掛けてパチンと外すと、ファスナーヘッドを摘んでゆっくりと引き下げた。


「ちょ! ツルギくん……まさか」


「そのまさかだ。今日こそは聖域へと到達し、その先にあるデルタ地帯へと向かう」


『デルタ地帯』

 それは、女性の下腹部にある聖なる部位の名称である。

 一説によれば、そこにはレース素材の布で護られたゲートが存在し、その先に辿り着ければ男女共に楽園へと誘ってくれる聖域があると多くの賢者たちが手記を残したという。

 そして、そこへ到達できた勇気ある男女には最高の快楽が与えられるという。

 つまり俺は今、そのステージへと進むつもりなのだ。

 

「エクス、こっちもそろそろいい……よな?」


「え、えぇ〜……」


「いい、よな!」


「目が血走ってて怖いけど、善処してみるよぉ〜」


 渋々と口先を尖らせながらもエクスがキュッと引き締めていた股の力を緩めてゆく。

 これで関所は越えられる。

 あとは、焦らずじっくりゆっくり歩みを進めるだけだ!

 とはいえ、現在ショートパンツ内に忍ばせた俺の片手の進行を妨げるかの如くエクスがしっかりと手首を握ってくる。

 やはりまだ一抹の不安を払拭できないでいるのだろう。

 だが、エクスよ。どうか安心して欲しい。

 この日のために俺はYout◯beでし◯けんや深田え◯みの動画を視聴して履修してきたつもりだ。

 あの動画の通りに焦らずじっくり行えばきっとエクスにも喜んでもらえるはずなのだ!


「エクス」


「な、なに?」


「お前の信じる俺を信じろ」


「ツルギくんのなにを信じろっていうのさぁ!?」


「いやそれはほら俺がお前を傷付けたことなんて今までに一度もなかっただろ? だから、俺に身を委ねてだな」


「ものすごく早口だし、なんだか上手く言いくるめようとしている気がするんだけど……」


 不満そうな顔でそうは言いつつも、エクスはショーツ内に侵入していた俺の片手を掴む力を緩めた。

 この程度の力加減なら安易に突破できる。

 そう確信を得た俺はエクスの純白レースのショーツ内の更に奥へと指先を進めた。

 そして、その奥に辿り着いた瞬間俺は……【濡れる】という言葉の意味を己の指先を通じて生まれて初めて知ることとなった。











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聖剣使いの性事情 アイアン停電 @yawk1192

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