第163話 面倒な人
どうも皆さん、ご機嫌如何ですか? ヒルド・スティングレイです!
いや〜本当に面倒な事になりましたよ!
え? なにが面倒なのか聞きたいですか?
という事で、今回は私の現状をお話します!
現在、麗しき美少女戦士こと私ヒルドは、最愛の女性たる十束カナデお姉様と一緒にツルギ先輩宅にお邪魔しており、夕食をご馳走になっています。
広めのリビングにあるテーブルの上には、どこのビュッフェだよと思わずツッコミたくなるくらい豪勢な料理の数々が並べられておりまして、正直これらの料理を全て完食できるかどうかも怪しいところです。
そんな謎パーティーの主催者たるエクス先輩と共に、私とカナデお姉様は卓を囲んでいるのですが……。
「……」
「……」
「……」
……なんですかねこのお通夜のような重たい空気は?
招かれた身分ですからあまり口にしたくはないですけど、人のことを誘っておいてムスッとした態度でただ言葉も交わさず、無言で箸をすすめるとかそれってどうなんですかねぇ〜?
と、そんな愚痴はさて置いて、ここまでの経緯をザックリ御説明しますね!
部活動を終えて素敵な汗を流した私とカナデお姉様の二人は本来ならお家に帰って一緒にお風呂に入り、お互いの身体の隅々まで洗いっこをして、すんばらしいスキンシップをしようとしていたんですけど、突然エクス先輩から呼び出されました。
親友たるエクス先輩からのお誘いを私のカナデお姉様が断るワケもなく、私たち二人は制服のままツルギ先輩宅へと向かったのです。
そして、お家へ招待されたのですが、この家の主たるツルギ先輩の姿がどこにも見当たりませんでした。
あるぇ〜? あのエクス先輩大ちゅき変態野郎がどこにも居ないなんておかしいですねぇ〜? ホラーですねぇ〜?
なんて、不思議に思っていたんですけど、エクス先輩の表情を見てすぐに察しました。
あ、これ……面倒くさいやつだ、と。
「んと、エクスちゃん?」
無言で箸を進めるエクス先輩に見兼ねてカナデお姉さまが声を掛けます。
おそらく、月に一回はあるでしょうエクス先輩とツルギ先輩によるどうでもよい痴話喧嘩。
その内容は大抵ツルギ先輩が悪い事の方が多いんですけど、その後にエクス先輩はいつもこうやってカナデお姉さまに相談という名の愚痴をこぼします。
ツルギ先輩を好きであるカナデお姉さまにしてみれば、そんな話など聞いてもまったく面白いはずなどないと思うのですが、意外にもお姉さまは嫌な顔を一つせず、それに付き合ってあげています。
はっきり言って、お姉さまは女神そのものです。
もし私だったらその場でブチ切れて、そんなの一人で考えろと一蹴しているところでしょう。
しかし、そこは流石のカナデお姉さまです。
親友であるエクス先輩のためにその悩みを親身になってちゃんと聞いてあげているのです。
あぁ、それでこそ私のカナデお姉様。
とぉ〜っても尊い御方ですぅ〜。
そんなカナデお姉様のご厚意に対して、エクス先輩は静かに箸を置くと、ため息を溢して俯きがちに言います。
さぁ、始まりますね。
「実はね、今日……ツルギくんと喧嘩しちゃったんだ」
……ほ〜ら出た。やはりいつもの痴話喧嘩です。
この人はホント、ツルギ先輩とのクッソどうでもいいような些細な出来事で結構ヘコんだりします。
魔剣という恐ろしい相手と対峙しても臆さない強メンタルの持ち主だというのに、どうしてツルギ先輩の事になるとしょうもなく落ち込んでしまうのでしょうか? 実はメンヘラなのでしょうか?
「うん、それは言われなくても顔見ただけでスグにわかったし。そんで、今回はつーくんとなにがあったの?」
優しい声音で悩みを聞き出そうとするお姉様にエクス先輩がスンっと鼻を啜ります。
というか、そんなに落ち込むくらいならいっそのこと喧嘩なんてしなければいいだけではないのでしょうか?
「今回はというか、私が一方的に怒ってそういう感じになっちゃったんだよね」
「エクスちゃんの方から一方的に怒るなんて珍しいね。まぁどーせ、つーくんの事だからどうせ女の子絡みっしょ?」
テーブルの上に頬杖をついてため息を吐くカナデお姉様に、エクス先輩がこくりと首肯します。
やはり、あの超絶変態スケベ野郎のすることはいつも同じようです。
「カナデさんの言う通り実際そうだったんだけど、今回の件に関してはちょっとした事情があってのことだったんだよね」
「はぇ? その事情ってのは?」
「その事情っていうのが、三年の北条先輩のことなんだ」
「三年の北条先輩って……なんで!?」
エクス先輩の口から飛び出した『北条先輩』という人物の名に、お姉さまが目を見張って驚愕した声を上げて身を乗り出します。
私が小耳に挟んだ北条先輩という方の噂によると、才色兼備のお嬢様だとか。
あーもうこれは間違いなく、クロでしょうねぇ〜。
「北条先輩なんてつーくんとは絶対に無縁の人じゃん! それなのにどうして!?」
「うんと、それがね。犬塚先輩からの相談で始まったことだったんだけど、そこからちょっと係わりができちゃったんだ」
「犬塚先輩からの相談とか知らないけどさぁ、つーくんてホントいろんな女の子とのフラグ立てまくるよね? いい加減ムカついてくるし!」
「お、落ち着いてカナデさん。箸が折れちゃうよ!?」
ツルギ先輩の節操のなさに憤怒したのか、カナデお姉様が割り箸を握りしめてプンスカ怒っています。
それを見てエクス先輩が宥めようとしていますけど、正直言ってお姉さまが言う通り、ツルギ先輩は女性との関係を立て過ぎだと思います。
それこそ一級フラグ建築士ですね。
エクス先輩だけでなく、私のカナデお姉様にも好かれているというのに忌々しいったらありゃしません。
そして今回、そのチートスキルが北条先輩という方に発動したという事なのでしょう。
「で、でもね! 今回はツルギ君が北条先輩のお家に仕えている『平さん』っていう女の人に無理やり連れていかれちゃったらしんだ! だから、いつもの展開とはちょっと違うと私は思うんだけど――」
「それ、絶対ウソだし」
「え?」
「エクス先輩。それは流石にウソだと思いますよ?」
「ひ、ヒルドちゃんまで!? で、でも! ツルギ君、すごく真剣な雰囲気だったし、流石にそんなことはないと思うけど……」
「ねぇ、エクスちゃん。それ、本気で言ってんの?」
「え?」
「だってさ、今までの事とか思い出してみなよ。あのつーくんが女の人に自分からついていく事はあっても、相手に無理やり連れて行かれた事なんてまずないっしょ?」
「……あーっ」
……エクス先輩もこれは否定できないようですね。
今までの経験則を語るカナデお姉様の言葉に、なにも言い返せずにオロオロするエクス先輩がどこか物悲しいです。
というか、ツルギ先輩のみんなからの信頼のなさが一番物悲しいところですね。
「エクスちゃん。アタシが言うのもアレだけどさ、そこは怒っても良いところでしょ?」
「そ、そうかな?」
「絶対にそう! つーか、その相手が男だったらつーくん絶対にぶっ飛ばしてるし」
「うん、それは確かにそうかも」
「だからさ、エクスちゃんが気に病む必要なんてないっしょ。そんなの放っておけばいいよ!」
「そ、そうかなぁ〜?」
「エクス先輩。たまにはツルギ先輩を懲らしめてやるのも愛だと思いますよ。以前に私たちでドッキリを仕掛けた事があったじゃないですか? あのくらいの事をしてもエクス先輩にバチが当たるようなことはないと思いますよ?」
数カ月前、私のカナデお姉様とツルギ先輩がデートをした事があり、その際にちょっとしたドッキリを仕掛けた事があります。
今回もそれくらいの事をされても問題ないと思うレベルです。
というか、ドッキリを仕掛けてギャフンと言わせてやりたいのが私の本音ですけどね?
「懲らしめるのも愛……か。うん、そうかもしれないよね!」
「そうそう。お互いの仲を深めるためにはそういうスパイスが必要です! ですから、ツルギ先輩をみんなで懲らしめやりましょう!」
「ヒルドちゃん。なんかその目的が一人だけ違う方向を向いてるような気がすんだけど、大丈夫?」
「勿論ですとも! さぁ、エクス先輩。ツルギ先輩との愛を深めてエッチをする流れに持っていくため頑張りましょう!」
「うん、そうだね。私、頑張るよ!」
「そんなの頑張るなってーの!?」
両手をテーブルに叩きつけ立ち上がるカナデお姉様を尻目に、私の応援で勇気づけられたエクス先輩がようやく元気を取り戻し始めました。
まぁぶっちゃけ、この二人がさっさとする事をしてくれれば、きっとカナデお姉様も諦めがつくはずなのです。
実を言うと、私の狙いはそこだったりして? くふふふ〜。
ともかく、私とお姉様の大切な時間を奪われたのはやはりツルギ先輩のせいでした。
ですから、今度という今度は絶対に許さないつもりです。
最悪の場合、あの人をスクールデ〇ズの主人公が如くヤンデレ化させたエクス先輩の手で処刑してもらうというプランも企てる必要があるかもしれません。
念の為にそれもプランの一つに加えておきましょう。
「ところで話を戻すけどさ、今つーくんはその平さんって女の人とまだ一緒にいんの?」
どこか不機嫌な様子になったカナデお姉様にエクス先輩がう〜んと唸ります。
まぁ、あの男の事だからその女性とラノベ主人公のような展開を繰り広げていることでしょう。
「さっき掛かってきた電話の感じだと、まだ外にいたみたいだから多分そうだと思うけど……」
「それならさっさと帰って来いって怒鳴ってやればいいんじゃない? つーか、ムカつくしさ!」
「そうですね。それなら今からツルギ先輩とその女を一緒に呼び出して、良く研いだ鉈を使い処してやりましょうよ!」
「いやいや、ヒルドちゃん。流石にそれは物騒だから。でもさ、なんかつーくんにギャフンと言わせてやりたいよね?」
「そのことなんだけど、今回の事で私も流石にちょっと頭にきちゃったからツルギ君がギャフンとするようなことをしてみたんだ」
「はぇ? エクスちゃんがそんな事するなんて珍しいね」
「して、エクス先輩。その内容とは?」
ツルギ先輩を全肯定しかしないエクス先輩からの発言に私とお姉が興味津々を示すと、エクス先輩が両手を腰に当ててドヤ顔をします。
「フッフッフッ、それはね。さっきメールで、『もう今日は顔を見たくないから帰ってこないで』って、送ったんだ!」
「……それだけ?」
「うん。それだけ!」
「……すぅーっ」
「あの、エクスちゃんさぁ……」
……ぬるい。生ぬる過ぎです!
お湯の温度で例えたら三十六度くらいでそれは最早人肌と同等で心地良くもあり、生ぬる過ぎでしょう!
どうせなら沸湯を飲ませるくらいでないと意味がねーですよ!
エクス先輩のした行為に流石のカナデお姉さまも落胆の色を隠せません。
もし私なら、熱々に焼けた鉄板の上で土下座をさせるか、木に括り付けたうえで下半身にロープを巻いて車で引っ張るくらいのことはするでしょう。
というか、やはりエクス先輩はツルギ先輩に甘過ぎですねこれは。
私が思うに、あの男はもっと帝愛的というか、アウトレイジ的な感じで処してもいいと思います。
あーもうなんだか腹が立ってきちゃいました!
沸々と湧き上がる苛立ちに私が箸を噛んでいると、カナデお姉さまが嘆息交じりに言います。
「なんていうか、それは流石に甘いっしょ?」
「え? そ、そう?」
「うん、そうだよ。そんな甘い事してるとさ、つーくんの事だからまた――」
と、そこでテーブルの上に置かれていたエクス先輩のスマホが振動しました。
そして、そのスマホを手に取ると、エクス先輩が画面を見た瞬間に硬直します。
一体どうしたのでしょうか?
「エクスちゃん、どったの?」
「……今、ツルギ君からメールが来たんだけど」
そう言って、スマホの画面をコチラに向けてくると、エクス先輩が宝石のように青い瞳に涙を溜めていました。
その様子に私とカナデお姉さまが訝り、スマホの画面に目を凝らしてみると――。
『エクスへ。悪いけど、今晩は北条先輩の家で泊まることになったからヨロシクな』
……最高に笑えない一文が表示されていました。
この男、マジで……。
「つ、ツルギ君が北条先輩の家にお泊りしちゃうってどうしよう!? やっぱり、ちょっとキツく当たりすぎたのかなぁ〜?」
ここにきてまさかエクス先輩がツルギ先輩にギャフンと言わされる事になろうとは、私もお姉様も完全に予想外でした。
というか、そういう事ではなく――。
「……あんのぉ~クソバカスケベがぁぁぁぁぁああああぁ!!
あまりにも自由な草薙スケベ先輩に、カナデお姉様の怒りが頂点に達してしまったようです。
あばばばばっ!? お姉様がご乱心です! ツルギ先輩、この後どうなるのか私は知りませんよぉ〜!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます