第56話 男子なら、誰もが一度は夢に見ること
「ねぇ、ツルギくぅ~ん」
甘えるような彼女の声に、俺は目を覚ました。
鎌首もたげてみれば艶めく長い金髪の白人美少女が蒼い瞳をウルウルとさせ、ベッドに横たわる俺の腰上に跨っている。
「ねぇ、ツルギくん……しよ?」
色白できめ細やかな肌に細身の身体。
しかし、それでいて出るところはしっかりと出ていて、豊満な肉体である。
そんな彼女こと俺のパートナーである『エクス・ブレイド』は、素肌にワイシャツ一枚というなんともエロくて艶めかしい姿で物欲しそうに人差し指を咥えていた。
「ねぇ、ツルギくぅ~ん。早く、しよ?」
「な、なにをだ?」
「なにをって……ツルギくんが私と一番したいことをだよ」
エクスはそう言うと、俺に身体を密着させ、長い髪を片耳にかけた。
不意に視線を下げてみると、彼女の豊満な胸元がこれでもかというくらい強く主張しており、俺は堪らずごくりと喉を鳴らした。
「え、エクス? 今日は妙に大胆だけど、本当にどうしたんだ?」
「んもぅ。ツルギくんは〜、私とエッチなことをしたくないの〜?」
エクスはムッとした表情を浮かべると、俺の鼻先を指先でつついてくる。
俺がエクスとエッチなことをしたくないなんて、天地がひっくり返ってもあり得ない話しだ。
これはアレか? 遂に来たのかエッチイベント!?
俺は身体を重ねてくるエクスの背中に両手を回すと、厭らしい手付きで彼女の背中を撫でた。
「いいのかよ? ベッドの上での俺の戦闘力はブロリーの千倍だぞ? 激しいぞ? ギシギシ鳴らしちゃうぞ? もうめちゃくちゃにしちゃうぞぅ~っ!?」
寝起き二秒でこのハイテンション。
それはもう超超超ギガMAXである。
「フフフッ、勿論いいよ。それじゃあ……」
エクスは淫靡な笑みをたたえると俺に顔を近づけ、いきなり首筋に舌を這わせてきた。
生温かいエクスの舌先が首筋から頬へと伝った直後、腰の辺りから上半身にかけて電流が走ったような感覚がして思わず「アンッ」と、声を漏らした。
「え、エクス。どうせ舐めるなら、もっと下の方を……」
「ダ~メ。私はツルギくんの顔を舐めたいの」
「顔を舐めるとかマニアックだなおい。まあでも、それはそれでいいかもしれないんんうっ!?」
まだ話している途中だというのに、エクスが俺の唇を何度も舐めてくる。
終いには、やたらと顔中をペロペロと舐めまわしてくる始末だ。
おいおい。俺は顔にバターなんて塗っていないんだぜ?
それなのに、どうしてお前はそんなバター犬みたいな勢いで俺の顔を舐めてくるんだ? 舐めるところなら他にもあるだろ?
例えば、俺の股間で眠る聖剣とか――……。
「……って、え?」
不意に目が覚めると、俺は自室のベッドの上で仰向けになって寝ていた。
そして、そんな俺の胸元にはタヌキ姿の琥珀ちゃんがちょこんとお座りしており、俺の顏をペロペロと舐めていた。
「……えっと、琥珀ちゃん?」
「あ、ツルギお兄ちゃん。おはよう!」
琥珀ちゃんは元気な声で俺に朝の挨拶を終えると、ぼわんと白い煙に包まれ幼女の姿に変化した。
「あーっ……琥珀ちゃん。朝から随分と情熱的な起こし方をしてくれてありがとう。でも、次からは普通に起こしてくれな?」
「琥珀にとってはこれが普通なんだけど、人間は違うの?」
こてっと小首を傾げて不思議そうな顔をする琥珀ちゃんに俺は頬を掻くと、その小さな身体を抱っこして言う。
「そうだな。人間は相手の顔を舐めて起こすようなことはしないもんなんだ。でも、女の子が男の子の違うところを舐めて起こしてくれることはあるけど――ぎゃふんっ!?」
スパンッと、風船が破裂したような乾いた音が室内に鳴り響き、俺の後頭部に強い衝撃が走った。
何事かと思い振り返ってみると、俺の背後でスリッパを握った部屋着姿のエクスが頬を引き攣らせそこに立っていた。
「あのさぁ、ツルギくん……。小さい女の子にそういう卑猥な知識を教えようとするのやめてくれないかなぁ~?」
「バカを言え。俺は保健体育で培った正しい知識を教えようとしただけだ」
「保健体育の授業でそんな知識を教わるワケないよね!?」
「おいおい、エクス。そんな知識とか言っているけど、それがどういうことなのかお前は知っているということだよな? んん?」
俺の反論にエクスは「え?」と、声を漏らすと急に顔を真っ赤にして視線を逸らす。
その様子に、俺はニヤリと口元を笑ませて話を続けた。
「なんだよエクスぅ~。なんやかんやでお前もそういう知識を身につけてきたみてえだなぁ~?」
「ち、違うモン! それは、なんというか……」
「なんというか?」
「つ、ツルギくんとそういうときのためにちょっとだけ、調べてみただけだモン……」
「なん……だと!?」
赤面して指先をツンツンと合わせながらそう呟いたエクスに、俺の胸がキュンとする。
俺とそういうことになったときのために調べたということは、それはつまり、この先でエクスが俺にそういう行為をしてくれるというフラグではないのだろうか!?
「エクス。俺は嬉しいよ」
「ふぇっ!? な、なにが?」
「お前が俺のためにそこまで勉強をしてくれていると知って、本当に泣きそうだ」
「ちょ、だからって、別にそういうことをするとかそういうつもりはないからね!?」
「ははっ。照れるな照れるな。可愛いなもう」
「ちょ、ツルギくん!?」
俺は琥珀ちゃんを床に下ろすと、両手をワタワタとさせるエクスをギュッと抱き絞めた。
明るい家族計画という言葉があるけれど、それに対して俺たち二人は着実に歩んで行けると思う。
なあに、あとはその場のノリでなんとかなるさ。俺たちの両親だって、きっとそんな感じで新しい命を育んできたのさ!
「さ、エクス。今晩に備えて夕飯はウナギにしよう」
「なんでそうなるかなぁ!? というか、私はまだ心の準備が……」
「ねぇ、エクスお姉ちゃん? お姉ちゃんはツルギお兄ちゃんと夜中になにかするの?」
「いいかい琥珀ちゃん? 俺とエクスお姉ちゃんは、今夜同じベッドの上で大人の創世合体をするの――だはあっ!?」
と、本日二回目となる衝撃が後頭部に走った。
しかも、今度のはかなり硬いものが叩きつけられたと思う。
でも、おかしいな? エクスは俺の前にいるし琥珀ちゃんも足元に居る。
それなら一体誰が俺の後頭部を強打して……と――。
「朝からなに盛り上がってるし。てか、小さい子にそういうシモネタとかあり得ないっしょ!」
とまあ、聞き覚えのあるその声に振り返ってみると、俺のすぐ後ろに広辞苑を握った亜麻色の髪に緩いウェーブパーマをかけたエッチな身体付きをした私服姿のJKこと俺の親友『十束カナデ』が、瞳を細めてそこに立っていた。
「なんだカナデか。というか、広辞苑で人の頭を殴るんじゃねえよ!?」
「さっきから、アタシが何度もインターフォン鳴らしてんのにシカトしているつーくんが悪いっしょ?」
「お前はシカトされたら広辞苑で人の頭を殴るのか! というか、広辞苑をそんな風に使うんじゃねえよ!?」
「はえっ? これって、つーくんの頭を殴るための本じゃないの?」
「どんな用途の本だ!? 出版社の人に謝れ!」
「エクスお姉ちゃん。ツルギお兄ちゃんって、いつもあの本でカナデお姉ちゃんに頭を叩かれているの?」
「うん、まあね」
とまあこんな感じで、ありふれた俺の穏やかな日常が始まりを告げたと思っていたのだが――。
「失礼します」
『え?』
突然部屋の入り口から聴こえた女の子の声に俺たち四人が揃って顔を向けると、そこには白いローブ姿で青く長い髪をツインテールに結んだ少女が立っていた。
「アナタ方にお尋ねしますが、こちらにエクス・ブレイドさんと草薙ツルギさんはいらっしゃいますか?」
彼女はそう言うと、ぱっちりとした瞳で俺たち四人を順番に見つめてくる。
しかし、そんな彼女に対して俺たちは目を瞬かせると、皆で口を揃えてこう言った。
『……ていうか、誰?』
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