第121話 エピローグ
師匠とレイピアさんの二人に別れを告げ、俺が研究室をあとにすると、ちょうどそこへエクスがランスくんとアロンちゃんを連れて歩いてきた。
「あ、ツルギくん!」
「よぉ、エクス。もう挨拶周りは終わったのか?」
「うん。終わったよ!」
エクスはこちらに駆け寄ってくるとそのまま俺の右腕に抱きつき、満面の笑顔で頬を寄せてくる。
その時、俺の左腕が元の姿に戻っていることに気が付いたようであり、驚いたように目を丸くしていた。
「あれ? ツルギくん、その左腕……」
「あぁ。勿論スレイブだぞ?」
「ケケケッ! どうだ俺様の擬態は? すんげえだろ?」
「うん、急に喋り出さなければね……」
人間の左腕に擬態したスレイブが得意気にそう言うと、エクスが苦笑する。
すると、ランスが爽やかな笑顔を浮かべ俺に歩んできた。
「ナギくん。今回はキミのおかげで沢山助けられたよ、本当にありがとう」
ランスくんはそう言うと、俺に握手を求めてくる。
その差し出された片手を握ると、俺は首を横に振った。
「いや、そんなことねえって。今回の件は皆の力が合わさった結果だよ」
「ははっ、そんな謙遜を。ボクからすれば、今回の件についてキミの力がなければアヴァロンは壊滅させられていたと思うよ。だから……」
「えっ?」
ランスくんは柔和に微笑むと、握手をしていた俺の片手をそのまま両手で握り直し、自身の頬に寄せた。
「……本当にありがとう。戦うキミの姿はとても素敵だったよ」
……いやいや、なにその恋する乙女みたいな表情? 確かにランスくんは女性みたいな顔立ちしているとは思うけど、俺はそっち系じゃないからね? ノンケがどうとかないからね!?
愛おしい人でも見つめるような目をしてくるランスくんに寒気を感じて俺がガクガクしていると、隣に立つアロンちゃんが言う。
「こらこら、ランスー。エクスに怒られちゃうぞー?」
「これくらい別にいいじゃないか。ボクだって、女なのだから。あんなに格好良いナギくんの勇姿を見たら惚れてしまいそうになるのは当然さ」
「……んん? ランスくん、今なんて!?」
ランスくんが口にした台詞に俺は当惑する。
あれ、この人……今、自分のことを女とか言わなかったか?
俺の片手を優しく両手で握り、頬へと寄せていたランスくんにエクスが頬を膨らませながら割り込んでくる。
「んもぅ、ランス! ツルギくんは私のセイバーだから、ダメだよ!」
「ははっ。相変わらずエクスは手厳しいな?」
「あの、エクス。ランスくんて、男子なんじゃ……?」
「ふぇっ? ランスは女の子だよ?」
……なんてこった。それは衝撃の事実だぜ。
キョトンとした顔で答えてきたエクスに俺は衝撃を受けた。
ランスくんが、女の子……だと?
確かに顔立ち綺麗で体の線も細く、男の割に声が高くて妙に甘い匂いがするとは思っていたけれど、まさか女の子だったなんて……。
「なんだよネギ坊。お前、気付かなかったのか?」
「スレイブ、オメェは知ってたのか?」
「そんなもん一目瞭然だろうが。俺様は最初からソイツが女だと思ってたぜ?」
「えー」
予想外の事実に俺ひとりが驚いていると、ランスくんがどこか不満そうに頬を膨らませた。
「おや? その反応を見るにナギくんはボクが男だと思っていたのかい? 失礼しちゃうな」
「あ、いや、ゴメン。その、なんというか……ランスくんがあまりにもイケメンだったからさ?」
「確かにボクは女性にモテるけれど、れっきとした女子だよ。なんなら、今すぐにでも確かめてみるかい?」
「そうだな。それなら、是非とも確かめさせてくれないか……誰もいない個室の中でとか」
「あのさぁ……ツルギくん」
冗談(八割本気)でそう言った俺にエクスがジト目を向けてくる。
……あらやだ。俺の得意なジョークが通じていない時のエクスの表情だわん。
こういう時は、しれっと口笛を吹いて視線を逸らすのがベターだ。
そんな風に思い、エクスから視線を外して口笛を吹いていると、通路の曲がり角から青い顔をしてフラフラとした足取りのカナデを脇から支えるヒルドが現れた。
ヒルドは俺たちの姿に気が付くと、こちらに向けて小さく手を振ってくる。
「あ。ツルギ先輩に皆さん! こんなところにいらしたんですね?」
「おぅ、ヒルド。それより、カナデはどうしたんだそれ? 生理か?」
「流石はツルギ先輩ですね。デリカシーのカケラもない発言を堂々としてくるなんてまったく尊敬できませんよ。話を戻しますけど、カナデお姉さまはアヴァロンの職員の方や偉い方からの長時間に渡る説明やらなにやらで思考回路がショートしてしまったらしく、このような状態になっちゃったんですよね〜」
「へぇ〜、そう……」
真面目にそんな事を話しているヒルドだが、カナデに肩を貸しながらも厭らしい顔でカナデの豊満な横乳に顔を押し付けている辺り説得力がない。
そんな事をしておいて、俺にデリカシーがないとか言えるところが感心してしまう。
そんなヒルドにセクハラをされつつ身体を支えられているカナデは、涙目になりながら鼻を啜って俺を見つめてきた。
「うぅ……つーく〜ん。頭が痛いし〜……もぅ、帰るぅ〜……」
「完全に補習を受けたときの状態だな。まぁ、そろそろ出発する時刻も迫っているし、日本に帰るとする――」
「ネギ!」
満身創痍のカナデに俺たちが苦笑していその時、背後からソラスの声が聴こえた。
その声に振り返ってみると、白のブラウスにタイトなデニム姿で長い金髪を一つに束ねて胸の前に垂らしたソラスが、慌てた様子で俺のもとに駆けてきた。
「よぅ、ソラス。そんなに慌ててどうしたんだ?」
「ハァ、ハァ……オジェからネギが日本に帰るって聞いたからずっと探してた」
ソラスは両手を膝上に置いて肩で息を切らすと、俺の顔をムッとした顔で見上げてくる。
「どうして日本に帰ることを教えてくれなかったの?」
「いや、別に教えなかったわけじゃねえよ。最後はちゃんとお前にも挨拶をして――」
「ンッ」
『え……ええええええええええっ!?』
俺の近くでエクスとカナデが素っ頓狂な声を上げてくる。
その理由……それはソラスがいきなり俺の首に両手を回してきて強引にキスをしてきたからだ。
しかも普通のキスではない。
これは……ディープキスだ!
「んふぅ……んぅっ」
ソラスは数秒間に及ぶディープキスのあと、俺との唇の間で煌めく糸を指先で拭い頬を染めると、両手を腰の後ろに回して上目遣いをしてくる。
「……好き」
「へ? な、なにが……?」
「私、ネギの事が好き。だから、必ず日本に行くから!」
「そ、そうなのか……?」
「そう。だから、その時は私と結婚して」
『はあぁぁぁぁぁっ!?』
ソラスによるまさかの逆プロポーズに俺を含めたその場の全員が驚愕の声を上げた。
すると、ソラスが俺に抱きつき、胸元に顔を埋めながら言う。
「それでいいでしょネギ? 私はネギとひとつになりたい」
「ちょ、なにを勝手なこと言ってるのさ!? ツルギくんは私のセイバーであり、私の彼氏だモン! ソラスさんとひとつになんて絶対させないよ!」
「そうだし! つーくんはアタシとエクスちゃんの彼氏だし! だから、そゆことするのはアタシたちだけだかんね!」
「カナデ、俺はお前がなにを言っているのかわからないよ……」
「ゴメン、カナデさん。それは流石に容認できないよ」
「二人でそこを否定すんなし!? アタシだって、つーくんのこと好きだモン!」
「いやいやいやいやそこは否定しますよカナデお姉さま!? お姉さまと心と身体もひとつになるのはこの私です!」
「ヒルド。さり気なく凄いことをカミングアウトしている自覚はあるか? お前、なんか目が怖いぞ?」
「ははっ。なんだか楽しそうだね? それなら是非ともボクたちも混ぜて欲しいな。ね、アロン?」
「あはははっ! それはいいけど、これだけ沢山の女の子を一度に相手にするのは、流石のナギくんも大変そうだねー?」
「いや、それなら問題ない。なぜなら俺の
『しれっと全員を相手にしようとするなっ!』
「ぎゃふんっ!?」
激怒したエクスとカナデの二人から同時に後頭部を殴られた俺が地面に倒れると、左腕となったスレイブがケタケタと笑う。
「ケケケッ! これで一件落着ってか?」
「そうかもな……」
その後、俺たちはなんやかんや言いながら和気藹々として、アヴァロンで出会った新しい仲間たちとの再会を約束してようやく日本へと帰国した。
ヒルドはカナデのセイバーになったため、俺たちと共に日本へ来ることになった。
その名目上は留学という扱いになっているらしく、カナデの家でホームステイする事が決まり、俺たちと同じ高校で一学年下として通うらしい。
それが決定した時のヒルドの顔は、嬉しさよりも厭らしさの方が上回っていたと思う。
コイツをカナデとひとつ屋根の下においてしまって本当に大丈夫なのだろうかという心配をしたが、それ以上に俺が心配したのは、
かなり長い間、学校を休んでいた事だ。
俺たちの出席日数は果たして大丈夫なのだろうか?
大丈夫だよな? 大丈夫だよね? お願いだから誰か大丈夫と言って!?
と、切に願うしかない……。
――第四部 完――
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