第131話 恋せよ乙女
つーくんと二人でプリクラマシンの中で抱き合ってキスしようとしてたら、そこに突然エクスちゃんが現れた。
エクスちゃんは、アタシとつーくんのチュープリを持ってて、すごく悲しそうな顔をして走って行っちゃった。
そして、そんなエクスちゃんを追っかけて、つーくんも走って行っちゃった……。
「……はぁ〜っ、やっぱこうなるし」
アタシは足下に落ちていたつーくんとのチュープリ写真を拾うと、それをジッと見つめて苦笑いをした。
ていうか、この写真のつーくんの顔とかマジびっくりし過ぎてて超ウケるし。
それなのに――。
「はぇっ? なんでアタシ……泣いてんの?」
写真の上にポタポタとこぼれ落ちた自分の涙に戸惑ってる。
どうしていつもこうなんの……?
「……つーくんのバカ」
彼がエクスちゃんを好きなのは承知の上だった。それでも諦められないくらいアタシは彼を好きだった。
そんな時に訪れたチャンスに、アタシは気合を入れて挑んだつもりだった。
それでも最終的に彼は、エクスちゃんを追っかけていなくなっちゃった。
でも、冷静に考えてみると、自分の彼氏が他の女の子とキスしてるとこ見て普通にしてられる子なんていないと思う。
少なくとも、アタシならそうだ。
つーくんとエクスちゃんがキスしたり、なんかエッチなことしてるのを見て胸が締め付けられるくらいショックだった。
あんな光景を見せられたら普通に引くし、彼のことをやっぱ諦めようかなってなると思う。
でも、アタシはそんな光景を見ても諦められなかった。ううん、諦めたくなかった。
「はぇっ? これってヤバイ!? ストーカーとか思われりすんのかな!」
まぁ、そう思われてもアタシは別にいい。だって、彼のことが好きで好きで仕方ないんだモン。
とはいえ――。
「……流石に置き去りにされんのは辛いってーの」
袖口で何度拭っても拭いきれないほど溢れてくる自分の涙がマジでウザかった。
ヤバッ、絶対に化粧とか崩れてるっしょこれ? ウォータープルーフのマスカラだけど、こんだけ拭ってたら流石に落ちてるっぽいよね。
マジ、パンダ目とかになってたら嫌だなぁ〜……って。
「つーか、これからどうしよう……」
今プリクラマシンの外に出たら、他の人たちにめっちゃ注目されると思う。
そりゃそうだよね。だって、傍から見ればなんかアタシがフラレたみたいな感じになってるもんね? 多分、化粧も崩れてるし。
そう考えるとまた涙が溢れてくる。
ハッキリ言って、このまま消えちゃいたいとか思えてマジで軽く死ねるし……。
「グスッ……つーくんのバカ! つーくんのアホ! アタシを放置してどっか行くなし……っ、ふぇ……ぇぅぅっ」
アタシはここから出ることができなくて、その場で膝を抱えて泣いた。
その横には、さっきつーくんがUFOキャッチャーで取ってくれたヌイグルミが転がってる。
さっきまではすごく楽しかったはずなのに、今はマジで惨めで切なかった。
つーか、誰か助けてよ……。
そんな事を思っていた時、突然プリクラマシンのシートを誰かが勢いよく払い除けて入ってきた。
その人影にアタシが顔を上げてみると、その子はものすごく焦ったような表情をしていた。
「カナデお姉さむわぁっ!?」
「うひゃあっ!? ひ、ヒルドちゃん!」
プリクラマシンの中で膝を抱えていたアタシに、いきなり飛びついてきたのはヒルドちゃんだった。
ていうか、なんでここにいんの? つーか、なんでそんな黒い服装してんの?
アタシの頭の中で色んな疑問が飛び交うけれど、とりあえずやめておく。
だって、ヒルドちゃんがマジで心配そうな顔をしてんだモン。
「はぁ〜っ、お姉さまがご無事でなによりでした。というか、なぜにこんなところでひとり涙を流されているのですかっ!?」
「いや、なんでって……」
……そんなの言えるわけないし。
ていうか、つーくんとデートに行ったアタシがフラレて、こんなとこでひとり泣いてたとか言えるワケないっしょ普通……。
でも、まぁいいや。逆にヒルドちゃんが来てくれてなんか少しだけ安心した。
そんな風に思いながらアタシが目元の涙を拭っていると、ヒルドちゃんの口から信じられない台詞が飛び出した。
「お姉さま、ご安心ください。例えお姉さまが、あの極悪なツルギ先輩に置き去りにされて傷心なさったとしても、アナタのヒルドがここにおります! そして、この私がカナデお姉さまの傷付いた心を熱いキッスで癒やして差し上げますね……んぅ〜」
……ちょっと待って。なんでそんなこと知ってんの?
いきなり現れたヒルドちゃんが、どうしてアタシがつーくんに置き去りにされたことを知っているの?
ていうか、エクスちゃんが急に現れたのもそうだけど、なんかおかしくない!?
「あのさ、ヒルドちゃん。なんでアタシがつーくんに置き去りにされた事を知ってんの?」
「……へ?」
真面目な顔でアタシがそう聞き返すと、キョトンとしていたヒルドちゃんが急に額からダラダラと汗を流して目を逸らした。
まさか……アタシたちのことを朝からずっと付け回してたってこと!?
「つーかさ、なんでヒルドちゃんここにいんの? それにエクスちゃんも急に現れたし、一体どういうこと?」
「そ、それはですね〜……偶然と申しますか、私とエクスさんがたまたまこの辺で買い物をしていて〜、そしたらお姉さまとツルギ先輩の姿が見えて……」
と、キョドりながらヒルドちゃんが説明していた時、覚えのある魔剣のオーラを近くに感じた。
ほら、アタシってば聖剣の精霊になったじゃん? それだから、そーゆー視えない力を感知できるようになったんだよね。
そんでこの魔剣のオーラには馴染みがある……これ、村雨先生のじゃね?
「……ねぇ、ヒルドちゃん。村雨先生のオーラをかなり近くに感じてんだけど、これもなんかの偶然とかなの?」
「む、村雨先生が近くにいるんですか? こ、これはまたなんたる偶然! セイバーである私にはわかりませんでしたね、オホホホッ!?」
……なんか明らかに怪しいんですけど。
ていうか、絶対に偶然とかじゃないっしょこの流れ。
妙に取り乱してるヒルドちゃんにアタシが目を細めてると、幼女に変幻した琥珀ちゃんを抱っこした私服姿の村雨先生が現れた。
「む? やはり十束のオーラだったか。ヒルドから話は聞いているぞ! それで、草薙はどこに逃げたんだ?」
「……村雨先生。それ、どゆこと?」
「ん? 違うのか? 私はキミが草薙に不純異性交遊の相手にされそうになっているとヒルドから聞かされて、それを阻止するためにエクスたちと協力をして探していたのだが、違うのか?」
……そーゆーことだったのね。
ていうか、その首謀者とか絶対ヒルドちゃんだわ。
アタシが恨めしげな目を向けると、ヒルドちゃんが視線を合わせないようにして口笛を吹いて誤魔化してた。
つーか、マジであり得ないんだけど……。
「それで十束。キミは草薙と一緒じゃなかったのか? それに、エクスも途中ではぐれてしまったのだが、なにか知らないか?」
「
琥珀ちゃんがそう言って、つーくんがエクスちゃんを追いかけ行った方向を指差すと、村雨先生がアタシの顔を見てからすべてを察したような表情を浮かべた。
「……そうか。なんとなくだが、キミたちになにがあったのかは理解した。それより、これからどうするつもりだ十束?」
「はぇっ? どうするって……」
先生の言葉にアタシは首を傾げる。
これからどうするって、どうしたらいいの?
そんなアタシの前に村雨先生はしゃがみ込むと、真剣な表情で問いかけてくる。
「ならキミに訊くが、キミはこのまま草薙を諦めるつもりなのか?」
目の前にしゃがみ込んだ、村雨先生がアタシの肩に手を置いてジッと見つめてそう訊いてきた。
その一言にアタシは首を横に振ると、目元の涙を袖口でグシグシと拭い、先生の顔を見つめ返した。
「んなワケないっしょ。アタシは全然諦めるつもりとかないし!」
「うむ、良い返事だ。それなら、この合戦はまだ終わっていない。化粧を直して出陣するぞ」
「村雨先生……」
「恋せよ乙女、命短しと言うだろ? キミたちには今しかできない青春がある。それなら、その青春に全力でぶつかってゆけ!」
村雨先生はそう言うと、アタシにウィンクをしてくれた。
そだね……先生が言う通り、まだ終わってないよね!
この程度で諦められるほどアタシの想いは弱くない。
上等だってーの……とことんぶつかってやるし!
もう一度気合を入れ直し、アタシが顔の前で握り拳を作っていると、控えめな声でヒルドちゃんが声をかけてきた。
「あのぅ、お姉さま? それで私は……」
「家にでも帰ってれば?」
「ひえええ〜ん!? そんな冷たくバッサリと切り捨てないでくださいお姉むわぁっ! 私も協力しますから、お許しくださ〜い!」
泣きながら抱きついてくるヒルドちゃんにため息を吐くと、アタシは村雨先生から化粧道具を借りて準備を整える。
待ってろ、つーくん……アタシは諦めないかんね!
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