第22話 第二のサポートアビリティ

 「……んちゅ……んぅっ……はむ」


 恍惚した瞳にほんのりと色づいた頬。

 生温かく湿った唇はとても柔らかくて、すごく気持ちが良い。

 ふと気付けば、エクスが俺の指先に自身の指先を絡めてきており、どこか甘えてくるようだった。

 密着した身体が熱を帯びてくると、片手で押さえていた傷口もいつしか塞がり完治していた。


「プハァッ! あ、ありがとうエクス。もう大丈夫――」


「……ダメ。まだちゃんと完治してないよ」


「え? いや、エクチュ……ンッ!?」


 傷の具合を確認して唇を離そうとするも、エクスがそれを拒んでさらに唇を重ねてくる。

 正直、それは嬉しいんだけど、この間にも体育館内では寄生型魔剣と村雨先生による攻防が繰り広げられているわけなのだから、俺としてはそっちの方が心配だ。

 村雨先生のことが気になり、キスをされながら体育館内をチラチラ覗っていると、エクスが唇を離して睨んでくる。


「そんなにあの魔剣のことが気になるの?」


「え? そ、そりゃそうだろ! 先生は俺が治療を終えるまでひとりで戦っているんだぜ? 気にするのは当然だ」


「ふ〜ん、どうだかね〜? そんなことを言って、ホントはあの魔剣のことが好きなんじゃないの?」


「バカを言え。確かに、村雨先生のおっぱいに興味はあるが、流石の俺でも状況をわきまえているぞ?」


「やっぱりエッチなこと考えているじゃないか!? まったくもぅ……コホンッ。ところでさ、いつも道場でツルギくんが竹刀を二本使って修行している姿を見た覚えがあるんだけど、ツルギくんって双剣が得意なの?」


「え? ああ、まあそうだな」


 事も無げにそう訊いてきたエクスに、俺は首肯する。

 確かに俺は親父の影響で自主トレーニングの際には二刀流を扱っていた。

 しかし、なんでそんなことをこの場でエクスが質問してきたのか不思議で仕方なかった。


「でもよ、なんで急にそんなことを訊いてきたんだ?」


「前にさ、サポートアビリティの中で『ソード』があるって話しをしたでしょ? そのアビリティを解放してツルギくんが双剣になれば、この戦闘が有利になるんじゃないかなって思えたんだけど……」


 ……なるほど、そういうことか。

 二本の大鎌を持つ寄生型魔剣に対して、こちらは村雨先生の刀を合わせても二本。

 これで俺が得意とする二刀流を扱えれば、その数は三。つまり、こちらの手数が増えた分だけあの鉄壁防御を崩せる可能性が高くなるということに結びつく。

 それを考えついたからエクスはそう訊いてきたのかもしれない。


「なかなかいいアイデアだぜエクス。んで、そのアビリティの解除方法がわからないままなのにどうするんだ?」


「そ、それなんだけど……へ、変な風に思わないでね?」


 途端、エクスが頬を紅潮させモジモジとする。

 その様子に俺は首を捻りながら、言葉の続きを待った。


「この前の戦闘で聖剣の鞘が『精霊のエクスタシーを確認』みたいなことを言ったあとにサポートアビリティが使えるようになったでしょ? それは覚えている?」


「……そういえばそんなことを喋っていたかもな。それで、具体的にどうすればいいんだ?」


「それなんだけど、なんというかその……」


「?」


 と、頭のアホ毛を忙しなく左右に振りながら、顔だけならぬ耳まで赤くしてエクスが急に寄り添ってきた。

 一体どうしたのかと思いつつ、俺が当惑していると、エクスが上目遣いになりながら言う。


「た、多分だけど……私が気持ち良くなるようなことをツルギくんがすればいいんじゃないかなって、思うんだけど……どうかな?」


「なん……だと!?」


 その発言に俺の心拍数が跳ね上がった。

 これは、例のアレをしてもいいという、フラグでしょうか!?

 エクスが気持ち良くなることをする……それはつまり、エッチな行為をしてもいいということだ。

 エクスによれば、サポートアビリティを解除する鍵は快楽にあるのではないかという。

 確かに、前回の戦闘で俺がエクスの耳を甘噛みしたあと、彼女が快楽を得てそれは起きたと思う。

 もし、それが解除方法の鍵となるならば納得がゆく。というか、それがいい。

 エクスにとって耳は性感帯のひとつだ。

 それを刺激してみれば自ずとわかることだろう。

 ならば、今回も同じように性感帯を刺激することで解除できるかもしれないという推測だ。


「その話を聞く限り、試してみる価値はありそうだな……」


「う、うん。じゃあ、早速……どうぞ?」


 そう言ってエクスは気恥ずかしそうに目を瞑ると、俺に片耳を向けてくる。

 その赤くなった耳先を舌で舐めてみると、エクスの唇から微かに吐息が漏れた。


「ど、どうだ?」


「……き、気持ち良いけど、なんかこの前とはちょっと違うかな?」


 頬を掻きながらそう答えたエクスの左手をちらりと見やる。

 やはり、あの時のようにホーリーグレイルの輝きが増すようなことはなかった。

 この様子を鑑みるに、一度でも性感を得た箇所では適用されないということなのだろうか?


「……同じ箇所ではダメみたいだな。他にはないのか?」


「えっと、そうだな~……じゃ、じゃあ」


「どこだ?」


「首筋、とか?」


「よし、わかった」


 本人から得た情報を頼りに俺はエクスを抱き寄せると、その首筋に舌を這わせてみた。

 するとその瞬間、俺たち二人のホーリーグレイルから少しだけ淡い光が漏れた。


「お、当たりっぽいぞ! それなら舐めまくってやる!」


「ちょ、ツルギくん! だからといって、そんなに舐められたらくすぐったいよ~」


 ピクピクと身体を震わせて笑いを堪えるエクスにお構いなく、俺は夢中でその首筋を舌先で舐めた。

 だが、それでもあのときのような手応えはない。

 もしかすると、あともうひとつだけ刺激になるようなことをすれば、イケるのかもしれない……。


「なぁ、エクス」


「な、なに?」


「おっぱいを触ってもいいか?」


「ふぇ!? な、なんで!」


「サポートアビリティの解除が快楽に繋がるのなら、お前にとって最も敏感である胸と一緒にすることでイカせるんじゃないのか?」


「い、イカせるとか言わないでよ!? まあ、それでもいいけど……」


「よし、なら決まりだな!」


「え? ちょ、まー!」


 制止しようとしてきたエクスに構わず、俺は彼女の服の下から右手を突っ込むと、そのまま胸を弄った。

 すると、エクスの頭にある垂れ下がっていたアホ毛がゆっくりと逆立ち始める。


「やはりそうか。エクス。少し激しくいくぞ?」


「え、え~? 激しくって、どのくらい?」


「お前が失神するくらいだ」


「そんなに激しくするの!?」


「いいから俺に任せておけ。すぐに気持ちよくして昇天させてやる!」


「その言い方だと、ものすごく抵抗があるんだけど!?」


 真っ赤な顔で戸惑うエクスを抱き寄せると、俺の戦いは始まった。

 服の下から忍ばせた右手で胸全体を撫でまわすように優しく愛撫する。

 それと並行して、俺はエクスの首筋に舌を這わせつつも、時折その首筋にキスをしてみた。


「ひゃ、ひゃう!? なんか、ものすごく……気持ちいい……イイ」


 小刻みに震えながらエクスが嬌声を漏らし始めた。

 どうやらこの方法は有効らしい。

 かなり感度が良いようだ。

 それなら、このまま続行だ……。


「あ、あぅ……そこは、もう……」


 感度に応じて声を漏らすエクスの反応を見て、俺はあらゆる方法を模索する。

 ときに優しく、ときに激しくと緩急をつけながら、俺は黙々とエクスに愛撫を続けていった。


「ハァ、ハァ、ハァ……ツルギくん……もう、私……」


「そろそろ限界か? それなら最後は――」


 と、ここで俺はエクスの耳元に口を寄せると、そっと甘く囁いてみた。


「エクス」


「な、なに?」


 ――次はどこを責めてもらいたい?


「そ、そんなこと聞かれても、私……」


 そうは言いつつも、自身の耳をエクスがちらりと見やる。

 やはり、彼女は耳が好きらしい。


「なるほどな。やっぱり最後はここなんだな? ハムッ」


「ちが、そういうわけじゃ……ひにゃああああああああああああああああっ!?」


 真っ赤に染まったエクスの耳を甘噛みすると、頭のアホ毛が元気に直立した。

 その瞬間、俺たち二人のホーリーグレイルが眩い光を放つと、体育館内からあの合成音が聴こえてくる。


『精霊ノエクスタシーヲ確認。サポートアビリティヲ解除』


 例の音声が聴こえた刹那、体育館内から聖剣の鞘が俺たちのいる場所に飛んできた。

 鞘は勢いよく地面に突き刺さると、蒸気を噴き出して沈黙する。

 それを見て俺とエクスは唖然としながら、互いの顔を見合わせた。


「……ほ、本当に成功したな?」


「そ、そうだね。じゃあ、試してみよっか? 聖剣、『ソードモード』だ!」


『了解、ソードモード『セクエンス』対象者へ着装』


 例の音声が聴こえると、鞘の背面装甲が展開され、そこから一本の剣が飛び出した。

 垂直に地面へと突き刺さったその剣は、俺の持つ聖剣と比べて少し分厚く重みがある物だった。

 よくよく見てみると、その刀身は微かに振るえており、まるで振動しているようだった。


「なんだか少し変わった聖剣だな。ともかく、これで二刀流が使えるな。ありがとうな、エクス! それじゃ、行ってくる!」


「い、いってらっしゃい……」


 地面にペタンと座り込み、呼吸を整えているエクスに背を向けると、俺は体育館内へと駆け込んだ。

 するとそのとき、寄生型魔剣に殴り飛ばされた村雨先生がこちらに転がってきた。


「先生、大丈夫ですか!?」


「く、草薙か? 傷は完治したようだな……。すまないが、私はしばらく動けそうにない」


 全身に傷を負った村雨先生が、苦しそうに肩で息を切らしている。

 俺たちのためにずっと耐え抜いてくれていたのだろう。

 ここから先は俺の出番だ。


「先生。あとは俺に任せてください」


「ああ。犬塚の事を……頼んだぞ」


 村雨先生はそう言い残すと、意識を失くしたように倒れ込んだ。

 それと同時に、俺たちを包んでいた濃霧が一気に霧散して視界が開けた。

 どうやらあの技は、先生が意識を失くすと効果を無くす技のようだ。


「さてと……この新しい聖剣の切れ味を試させてもらうぜ。エクス! 先生のことを頼むぞ!」


「え?」


「頼んだぞ!」


「わ、わかったよ~」


 体育館の出入り口から顔を覗かせたエクスにそう告げると、俺は寄生型魔剣に駆け出す。

 奴は俺の姿を捉えると、両手の大鎌を横一線に振り抜いてきた。

 その斬撃を背面飛びで躱しきり地面に着地すると、新しい聖剣でその片腕を斬りつけてみた。

 すると、微かに振動する聖剣の刃が強固な外殻をするりと抜けて、その表層を見事に抉った。


「なんだこの聖剣。メチャクチャ切れ味が良いじゃねえか!」


 バター斬るような感覚に心が躍る。

 これさえあれば、あの外殻も恐れるに足りない。


 俺の持つ聖剣の切れ味に恐怖したのか、悲鳴のような声を上げて寄生型魔剣が後ずさる。

 その様子を勝機とみた俺は、そのまま追撃をして魔剣を追い込んだ。


 右の聖剣で大鎌を打ち払って軌道を逸らし、左の聖剣で確実に斬りつけ傷を負わせる。

 腹部に取り込まれた犬塚先輩を斬りつけぬよう細心の注意を払ってさらに踏み込むと、息つく間も与えないほどの猛攻で寄生型魔剣を攻める。

 すると、奴の足取りがよろめき、腹部に取り込まれていた犬塚先輩の身体がずるりと地面に落ちた。

 その瞬間を見て、俺は村雨先生の手当てをしていたエクスに声を張る。


「エクス、今度は犬塚先輩を頼む!」


「う、うん。わかったよ!」


 俺の呼び声にエクスは走り込んでくると、そのままスライディングをして犬塚先輩を掻っ攫う。

 これで人質を心配する必要はなくなった。

 あとは大暴れするだけだ。


「オラオラオラオラオラアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 ここぞとばかりに聖剣を走らせると、寄生型魔剣が悲鳴を上げる。

 その瞬間を狙いその場で跳躍すると、俺は二本の聖剣を振り抜いて奴の頭部に一閃を放った。


「これで……終わりだああああああああ!」


 聖剣を振り抜いた勢いそのままに、空中で身体を捻って地面に着地して背後を振り返る。

 すると、重量感のある音を立てて魔剣の頭部が落下し床の上に転がった。

 その直後、魔剣の大鎌が砕け散り、その身体が黒い砂山に変わって周囲に静寂が訪れた。


「ふぃ~。なんとか倒せたぜ……あ、エクス! 犬塚先輩は!?」


「かなり衰弱してはいるけれど大丈夫だよ!」


 遠目で犬塚先輩を手当していたエクスが笑顔で手を振ってくる。

 なんとか犬塚先輩も無事だったようでホッと胸を撫で下ろした。


「草薙」


 不意に背後から聴こえた声に振り返ると、村雨先生が血を流した片腕を押さえこちらに歩いてきた。


「……すまなかったな草薙。キミがいなければ、犬塚も私もそれに他の生徒や先生方も命の危機に晒されていたことだろう」


「いやいや、お礼ならいりませんよ。俺は当然のことをしたまでです」


「そうか、キミらしい返答だ。ところで草薙、話は変わるが……」


「なんですか?」


「……私を斬ってくれ」


「はっ?」


 先生が言い放ったその一言に、俺は呆然と立ち尽くした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る