第7話 ✕✕✕な聖剣召喚

 もじもじとするエクスの口から発せられた言葉に、俺はしばし呆然としていた。


 私の胸を触って感じさせてくれだと? 

 なにそれ超エロイ! 


「……だ、ダメかな?」


 不安そうに尋ねてきたエクスに、俺はブンブンと首を横に振る。

 そんなのいいに決まっている!

 むしろ、それを断る男子がこの世にいるわけないだろう。

 しかし、実際にお触りOKと言われても、流石の俺でも躊躇してしまう。

 だって、そんなの初めてだし、俺ってば童貞じゃん? 色々と怖いじゃん? あとで訴えられたりとかしないかなとか思っちゃうじゃん?

 と、そんなチキン野郎的な発想で臆した俺は、あえてエクスの口から言質を押さえることでそういったトラブルを回避することにした。


「ほ、本当に触ってもいいんだな?」


 俺の言葉にエクスは両手をキュッと握り、静かに目を伏せると、


「……うん、いいよ」


 と、呟いて確かに頷いた。


「……いっ」


 ――イイィヤッホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ! 

 童貞のワイ完全に勝利! 

 とまあ、これがそんな思春期男子の心中である。


 俺はエクスの顔を見て大きく深呼吸をすると、その細い肩に手を置いた。


「よ、よし……それじゃあ、いくぞエクス!」


「う、うん……」


 緊張と興奮で両手が震える。

 とはいえ、このままなにもしないわけにはいかない。

 俺はエクスの肩に添えていた右手を胸元に向けてゆっくり滑らせると、彼女の鎖骨を通過し、その先にある渓谷のように深い胸の谷間へ向かった。

 だがその時、その奥へ進もうとする俺の手を拒むかのように、エクスが胸元を押さえた。


「ど、どうしたんだよエクス?」


「だ、だって! ツルギくん鼻息が荒くてちょっと怖いんだもん……」


「ご、ごめん! こんなこと初めてだからき、緊張しちまって」


 自分でも情けないと思う。

 生乳を前にして鼻息を荒げるなんて、童貞感丸出しだ。

 でも、生まれてから高校生に至るまで、女子の乳を触るなどという素晴らしい体験したことがなかったのだから仕方のないことだ。

 これでもクールな表情を維持しようと必死に頑張っているのだが、やはり心が落ち着かない。そりゃもうズキュンドキュンって、感じだ。

 でも、この危機的状況を打破するためには、この行為を遂行しなければならない。

 ていうか、早く触りたい!


「……エクス」


「ふぇっ? な、なに?」


「お前を不安にさせてすまない。でも、俺を信じてくれ」


 落ち着き払った俺の声にエクスは首を横に振ると、「ううん、私の方こそごめん」と小さく呟き、胸元を押さえていた片手をそっと退けた。

 ふっふっふっ……これで邪魔なものは排除できた。

 さあて、ここからが俺の腕の見せ所だ!


 昂る気持ちを抑えるように俺は息を吐くと、再びエクスの胸元へ右手を忍ばせる。

 すると――。


「……んっ」


 エクスの唇から艶めかしい吐息が漏れた。

 その甘い声に俺の右手が歓喜する。


 ……こ、これが、女子のおっぱいだというのか? これが、全地球上に生きる男子たちが愛してやまないおっぱいの感触だというのか!?


 その感触を例えるならそれはまさに熟練のパン職人によって練り上げられたパン生地が如く。

 指が沈むほどの柔らかさと、それをはね返そうとするこの弾力。

 それらを兼ね揃えたこれはまさに至高の芸術品と呼べるだろう。

 だがそれ以上に、この俺の心を熱くさせるものがあった――。


「つ、ツルギくん……も、もう少し優しく……ンッ!」


 ――イヤッホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ! 

 これだよコレ! この女の子の感じちゃってる反応が堪らないんだよね!


 一度始まってしまえば、そこから先はずっと俺のターン。まさにワンサイドゲーム。

 ここぞとばかりに俺はエクスの胸を揉む。摩る。摘む。弄る。蹂躙する!


 それは時に激しく、時に優しくと緩急をつけて、俺は知りえるエッチな技術の全てを駆使してエクスの胸を愛撫し続けた。

 そして……。


「つ、ツルギくん。もう少しで私……んぅっ!」


 トロンとした瞳で俺の顔を見つめてくるエクスがなんともエロイ。

 その艶めいた唇から漏れる吐息が俺の首筋にかかると、さらに興奮が加速する。

 夢中にならずにはいられなかった。

 これをやめられるわけがなかった。

 だがそのとき、俺は自分の右手に違和感を覚えて手を止めた。


「なんだ? 右手から急におっぱいの感触が消えたけど……え?」


 ちらりとその胸元を上から覗いてみたとき、俺の右手がエクスの胸の中にずぶりと沈んでいて思わず絶句した。


「……ぎゃあああああああああああああああっ!?」


 ホラー映画キャストさながらの悲鳴を上げると、俺はすぐさま右手を引き抜こうとする。

 しかし、それをエクスが拒んだ。


「ダメ、そのまま続けて……そして、私の中にある聖剣を早く……出して」


 白い頬を朱色に染めて見つめてくるエクスの表情はかなりエロ……ではなく真剣だった。

 俺はその瞳を見つめて頷き返すと、エクスの体内にあると思われる聖剣を手探りで探し

た。


「くぅ……アゥ、くぅ〜ん!」


 俺が右手を動かす度に、エクスが官能的な声を漏らして、その表情をより淫靡なものへ変えてゆく。

 本当はこのまま、いつまでも彼女を弄っていたい……。


 そんな衝動に駆られるも、俺がなんとか耐え凌いだとき、指先になにかが触れた。


「おい、エクス。コレか? コレなのか!」


「ハァッ、ハァッ……お願いツルギくん。早く……出して」


 潤んだ瞳で呼吸を乱して、俺の首筋に唇を当て、喘ぎ声を必死に堪えようとするエクスがなんとも官能的で堪らない。

 そして、俺はそんな彼女を見て興奮しながら右手を動かしつつも、必死に聖剣を掴もうとした。


「……よし、掴んだぞ。エクス、これを引き出せばいいんだな!」


「う、うん……早く、出して」


 俺の問いかけに、エクスが頷く。

 それを確認して俺は右手で掴んだ棒状のそれを力強く引き上げると、エクスの体内から一気に引きずり出した。


「あ……あああああああぁ!」


 聖剣を引き抜こうとした直後、エクスの身体がビクビクと痙攣して、頭のアホ毛がピンと直立した。


「も、もう、私……ラメエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」


 その場で腰が抜けたようにエクスは膝から崩れると、床の上に倒れた。

 そのとき俺は、エクスの体内から取り出した蒼いオーラを纏うそれを見つめて、呆然としていた。


「これが、エクスの言っていた『聖剣』なのか?」


 その聖剣は、黄金と白銀の重圧な装甲によって覆われた分厚く大きな鞘に納められていた。

 鞘の中心には掌ほどの大きさを持つ菱形の青い宝石が埋め込まれており、絶え間なく淡い光を放っている。

 それは聖剣というよりも、近代兵器のような形状をするものだった。


「つ、ツルギくん……。その聖剣を鞘ごと地面に突き立てて!」


「お、おう! わかった!」


 エクスの指示を受けて、俺は道場の床に聖剣の鞘を勢いよく突き立てた。

 すると、鞘の先端から四方にカギ爪のようなものが展開され、地面にしっかりと固定された。


「ツルギくん、そしたらその聖剣を鞘から引き抜いて」


「わ、わかった! これが、聖剣か……!?」


 機械的なギミックを有する聖剣に俺が感動していると、ふらついた足取りで魔剣が立ち上がった。

 奴はかなり憤っているようであり、俺を見るなり呼吸を荒くして、殴りかかるような勢いで走り出してきた。


「ツルギくん、その聖剣でなら魔剣を斬ることができるよ! だから、魔剣を倒して!」


「了解したぜエクス。覚悟しやがれクソ魔剣!」


 聖剣の柄を握り締めると、俺は重圧な鞘に収められていた刀身を一気に引き抜いてその場から走った。


 魔剣との距離は、互いの刃が届く位置まで到達した。

 その直後、奴が黒い刀身を振り上げたのを見計らい、その横をすり抜けるようにして俺は聖剣を走らせた。 


「くたばれオラアアアアアアッ!」


 魔剣の分厚い胴体を、俺が振り抜いた聖剣がすり抜けてゆく。

 その刹那、俺と魔剣は互いに背を向ける形となり、その場で沈黙した。


「ハァ、ハァ……斬った、のか?」


 道場内を包む静寂の中で、俺の細かな息遣いが響く。

 その数秒後、後方でどさりと重量のあるものが床へ落ちる音がして俺は振り返った。

 するとそこには、魔剣の上半身が地面に転がっており、残された下半身もそのあとを追うようにして倒れた。


「さ、流石に死んだ……よな?」


 警戒しながら歩み寄ってみると、魔剣が手にしていた黒い剣が突然砕け散った。

 それと時を同じくして、魔剣の身体も黒い砂に変化した。


「勝った……のか?」


 砂に変わった魔剣は、完全に沈黙していた。

 どうやら、俺は勝利したらしい。

 それがわかった途端、全身の力が抜けて、俺はその場に座り込んだ。


「正直、ま、マジで怖かった……」


 奴を両断した感触が、今でも震える両手に残っている。

 刃物で生き物を斬るという感触は、お世辞にも良いとは言えないものだった。


「ツルギくーん!」


 震える両手を見つめていると、エクスが安堵した表情で俺のもとに駆けつけてきた。


「はぁ〜。なんとか魔剣に勝利できたね! それにしても、ツルギくんが死ななくて本当によかったよぉ~」


 豊な胸に手を当て、エクスは溜息を吐くと、その場にペタンと座り込んだ。

 そんなエクスを見つめて俺は苦笑すると、聖剣を杖代わりにして立ち上がる。


「へへ。お互いに生き延びることができてホント良かったな」


「まったくだよ~。それにしても、ツルギくんは剣の腕が立つんだね。見ていてびっくりしちゃった」


「両親のおかげだよ。小さい頃から剣術を習っていたからさ?」


「そっか。通りで凄いと思った。うん、格好良かった!」


「へへ、ありがとよ。んで、この剣は鞘に戻せばいいのか?」


 俺がそう訊くと、エクスは「うん!」と、微笑んで鞘を指差した。

 言われるがままに、俺が聖剣を鞘へと納刀すると、鞘が光の粒子に変化して宙を舞った。

 すると、光の粒子は空中を彷徨ったあと、エクスの胸元に吸い込まれていった。


「なるほどな。そうやって聖剣は、主のおっぱいの中に戻って行くのか……」


「ちょっと、ツルギくん。絶対いやらしい事を考えているでしょ?」


「バカを言え。俺は世界平和について考えていたさ?」


「世界平和を考える人が、そんなだらしない顔をするわけがないじゃん!?」


 ……いかんいかん、どうやら考えていた事が顔に出てしまっていたらしい。


 確かにエクスが言う通り、俺は彼女の胸を見て鼻の下を伸ばしていた。


「そういえばさ、ここって異空間の中なんだろ? どうやって元の世界に戻るんだ?」


 周囲を見渡してそんなことを不意に思う。

 魔剣は倒せたけれど、俺たちは依然として異空間世界の中だ。

 一体どのようにして、元の世界に戻るのだろう。

 そんな疑問も、エクスがすぐに答える。


「それならすぐにわかるよ。ほら、《ミラー》が崩壊し始めた」


 得意げに口元を笑ませるエクスにそう言われて首を巡らせてみると、突然道場内の苛るところに無数の亀裂が生じ始めた。


「ななな、なんだ? 今度は何が起きるんだ!?」


「落ち着いて。これは魔剣との戦いが終わったことで《ミラー》が崩壊しただけ。直に元の世界へ戻れるよ」


 エクスがそう言った直後、周囲の景色が一瞬で砕け散り、あの神社の中に変わっていた。


「《ミラー》は戦闘が終わると発動させた地点へと帰れるようになっているんだ。そして私たちは魔剣を倒しその異空間世界からこの場所に帰ってきたというわけだよ」


「よ、よくわからんが、とりあえず元の世界に帰還したってことか?」


「そういう……こと……かなぁ〜」


「なるほどな。それでエクス、色々と聞きたいことが山ほどあるんだけど――」


 と、俺が首を巡らせたとき、隣に立つエクスがフラついて地面に倒れそうになっていた。


「エクス!?」


 地面に倒れる寸前で、俺はエクスを抱き止めた。

 だが、俺の腕の中にいるエクスは、意識が朦朧としているのか、今にも瞼を閉じそうだった。


「おい、エクス! しっかりしろって! いったいどうしたんだ!?」


「言い忘れたことがあるけれど……私は身体から聖剣を取りだして戦闘を終えると……極度の睡魔に襲われるの……だから……」


「エクス?」


「スー……スー……」


「まさか……寝たのか?」


 あどけない寝顔を浮かべて、スヤスヤと寝息を立てるエクスを見て思わず溜息が漏れた。

 なんだかよくわからないけれど、エクスは聖剣を取り出して戦い終わると眠ってしまうらしい。


「まったく、可愛い顔で気持ちよさそうに眠るなこいつは……」


 エクスには色々と聞きたいことがあるけれど、それは彼女が目覚めてからにしよう。


 空を見上げると、あれほど降り続けていた強い雨もすかっりと止んでおり、星が瞬く夜空に変わっていた。


「本当に、戻って来たんだな……」


 元の世界へ生還できたことをしみじみ感じながら、俺は頭のアホ毛を風に靡かせて眠るエクスを背負い、自宅へ向かい歩き始めた。

 頬を撫でる風は少しだけ冷たいけれど、背負ったエクスの体温が温かくて心地良かった。


「さて、家に帰るか……。ん? そういえば、何か大切なことを忘れているような気が……」


 エクスを背負ったままスマホを確認してみると、夥しい数の着信記録とメールで画面が埋め尽くされていた。

 そしてその全てが、カナデからのものであると知り、冷や汗が流れた。


「……まぁ、アレだ。これは、見なかったことにしよう!」


 その後、俺はスマホのバッテリーが切れたということにして、カナデからの糾弾を上手くやり過ごした。

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