第96話 ハイブリッドセイバー
俺の目前で聖剣を構える討伐隊の面々は、その顔に恐怖を張り付けていた。
まあ無理もない。
今の俺はスレイブの力で半分だけ鎧化し、オマケに魔剣のセイバーとなっているのだから。
「ケケケッ。今のネギ坊は魔剣と聖剣の両方の力を持ったいわゆるハイブリッドセイバーってとこか?」
「なにそれ超格好良いな! ……さてと」
俺が一歩動くと、奴らはそれに過剰反応し、額にびっしりと汗を張り付け表情を強張らせている。
なんというか、これは俺が思っているよりも相手は相当ビビっている様子だ。
「よぉ、相棒。まだテメェの身体を上手く扱えねぇだろうから加減を間違えてアイツらを殺しちまわねえように気を付けろよ?」
ケタケタと笑うスレイブに俺は短く息を吐くと、首を横に振る。
「バカを言え。これでも俺の身体なんだ。どんなに弱い相手でもちゃんと手加減くらいはできるっつーの」
「おのれ、我々を愚弄するとは……行くぞ貴様ら!」
隊長らしき男の怒号に他のセイバーたちは覚悟を決めたのか、魔剣を構えた俺に向かって駆けてくる。
そんなセイバーたちを視界に捉えると、俺は魔剣を逆刃に構えて飛び出した。
「一応、みね打ちにはするけど、骨の二、三本は諦めてくれよ――」
先頭から突っ込んできたセイバーのひとりが振り抜いてきた聖剣を俺は下段から斬り上げ相手の体勢を崩すと、そいつの腹部に回し蹴りをくれた。
俺の回し蹴りが相手の腹部へしなるようにクリーンヒットすると、そのセイバーはガレージの壁をぶち抜き外へと吹っ飛んだ。
これで四つ目の大穴がガレージの壁に完成した。
なんだか、現代アート展にでも出品したくなるようなデザインになった。
「コラッ、ネギ助! アンタはうちのガレージをぶっ壊すつもりかい!?」
人型の穴が空いたガレージの壁を見ていると、俺の背後でソラスを抱きしめていたエミリアおばさんが怒鳴ってくる。
……ヤバイヤバイ。穴の修理費分まで働かされたらアヴァロンに戻れるのがまた遠くなっちまう。
「す、スンマセン! 次からは気を付けますんで勘弁してください!?」
「ネギ坊、次だ!」
スレイブの声に振り返ると、今度は三人のセイバーが聖剣を振り上げ同時に襲いかかってきた。
俺は三人から繰り出される鋭い斬撃を魔剣で打ち払いながら、その動きをしっかりと見据えて次の行動を吟味する。
相手は男が二人に女がひとり……って、おっぱい大きいなこのお姉さん!?
プロテクターの胸元から見える谷間がめっさエロいんですけど!
「よぉ、相棒。オメェは本当に大したスケベ野郎だぜ……」
俺の思考を読んだのか、スレイブが呆れたような声を漏らす。
まさかコイツもエクスと同じで読心術を使えるのか!? いやん、俺のプライベートが丸裸にされちゃうわん!
「……どうして俺がエロい事を考えているとわかった?」
「ケケケッ! 俺様の能力は【同化】だ。そんで今の俺様はネギ坊の身体と同化しているから血流量や心拍数で性的に興奮しているって事がだいたいわかっちまうんだよ」
「なるほどな。そんな医学的な観点で俺の思考を読み取ったか……スレイブ、恐るべし」
セイバー三人による息つく間もないほどの連携攻撃を完全に見切った俺は彼ら彼女らの斬撃を魔剣で容易く受け流し、スレイブと余裕で会話をしている。
それが相当気に食わないのか、先程から俺に攻撃を仕掛けてくるセイバー三人の表情が怒りに満ちていた。
とはいえ、俺にはまだまだ余力があるため、全く疲れることがないし、そろそろ相手をするのにも飽きてきた。
「もう面倒だから終わりにすっかな。スレイブ、やるぞ」
「おうよ!」
俺に刃を振るってきた二人の男性セイバーが持つ聖剣を片方は左腕で受け止め、もう片方を魔剣の刃で防いだ。
そして、俺は左腕で受け止めた方のセイバーの聖剣を振り払い相手の胸倉を掴むと力づくで引き寄せ、その腹部に膝蹴りを入れた。
それと連続して、俺は魔剣で受け止めていた相手の方に振り返ると、膝蹴りで失神させたもうひとりのセイバーを投げつけた。
突然仲間を投げつけられセイバーの男性は、仲間を受け止めようと身構えたが、その時には既に、俺が彼の背後に回り込んでいて、逆刃にした魔剣で後頭部にみね打ちを決めていた。
「はい、お終い」
俺に倒され地面に横たわる男性セイバー二人を見て、残された女性セイバーが身体を震わせて戦慄している。
そんな彼女にゆっくり歩み寄ると俺はニタリと笑い、魔剣を逆刃から元に戻して目にも留まらぬ速さで幾重にも白刃を走らせた。
そして――。
「……フッ。つまらぬモノを斬ってしまった」
俺の捨て台詞がガレージに漏れると同時、聖剣を両手で握り震え上がっていた女性セイバーのプロテクターがごとりと音を立てて地面に落ちる。
すると、そこから次々に彼女が纏う戦闘服の上着がバラバラになり、はらりはらりと地面に舞い降りた。
勿論、彼女のブラジャーも含めてだ。
一体なにが起きたのかわからず、暫し呆然としていた彼女だったが、自らの美しく豊満な胸元が外気に晒されていると気が付いたのか、両胸を手で隠して「きゃあっ!?」と、可愛らしい声を上げてその場にしゃがみ込んだ。
うん、実にいい反応だ。
それに、とても素敵なおっぱいだった……。
「……これぞ、草薙流裏奥義『
「よぉ、相棒……。オメェのその無駄にすげえ力をもっと別のことに使えねえのか?」
「無駄とか言うなコラッ。とてもすんばらしい奥義だろうが! それより……」
と、言いつつ俺は魔剣を肩に乗せると、部下であるセイバーたちをあっさりと倒され、顔面蒼白した隊長らしき男を睨みつけた。
その後方では、精霊の女の子たちが真っ青な顔で震えており、ガレージの隅でハムスターのように集まって身を寄せていた。
あれ? なんかこれだと、俺の方が悪役みたいじゃね? そんなことない? 気のせいかなぁ〜?
「ば、バカな……我ら討伐隊の中でも随一の優秀なセイバーたちを集めたというのに、全く歯が立たない、だと?」
「残念だけど、相手が悪かったな」
「ケケケッ! 俺様とネギ坊に勝てる奴なんざ人間ではいねぇだろうな?」
「おのれぇ……魔剣に堕ちた者め。かくなる上は、この私が直々に粛清してくれるわ!」
隊長らしき男は激昂して聖剣を構えると、その場から勢い良く駆け出し、俺に斬りかかってきた。
だが、俺はその刃を難なく左手で掴むと、指先に力を込めて隊長らしき男の聖剣を呆気なく砕いた。
「なっ! 私の聖剣が砕けただと!?」
「アンタの聖剣は随分と脆いな。そんなんじゃこの俺は――」
と、俺は隊長らしき男の胸倉を掴んで高々と頭上に掲げると、大きく振り回してから勢いそのままに男の身体を地面に叩きつけた。
「――倒せねえんだよ!」
「ぷぎゃひぃっ!?」
間抜けな声を漏らしたあと、隊長らしき男は地面に陥没して白目を剝き、口から泡を吹いて痙攣していた。
なんというか、コイツが一番ザコだった。
「よし、いっちょあがりだぜ!」
「ケケケッ! 全く歯応えのねぇ連中だったな?」
「まあな。つーか、今の俺を相手にするには役不足だったっつーことだな」
「ケケケッ! 俺様たちだろ?」
「ハハハッ! そうだな?」
俺とスレイブがケラケラと笑い声を上げていると、地面に陥没した隊長らしき男の懐からノイズ混じりのくぐもった声が聴こえた。
それを怪訝に思い、男の懐に手を入れてみると、奴の内ポケットから通信機が現れた。
「なんだ、通信機かよ……」
「いや、待て相棒。どうにも通信機から切迫した声が聴こえてこねえか?」
スレイブにそう言われ、俺は通信機を耳元に当てると、そこから聴こえてくる男性の声に意識を集中させた。
『――こちらアヴァロン本部! 大至急、応援要請を乞う! 繰り返す、こちらアヴァロン本部! 只今、アヴァロン本部内にて大量の魔剣と交戦中! 繰り返す、只今、アヴァロン本部内にて大量の魔剣と交戦中! 近くにいる討伐隊は大至急アヴァロン本部に帰還すること! 繰り返す――』
「大量の魔剣と交戦中って……ウソだろ?」
通信機から聴こえた耳を疑うようなその内容に、俺は言葉を失い総毛立った。
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