2、サラの気苦労 (その一)
朝起きて顔を洗ったら、サロモンのお墓まで走り墓を掃除する。サラと朝食を食べたら、山で薬草探しつつ体術や魔法と龍気の鍛錬。昼はサラが作ってくれた弁当を食べ、日が落ちる前には家に戻る。
井戸からの、朝と夕の水汲みは俺の役割。風呂を沸かすため、夕方の水汲みは結構な量が必要になるのでサラには任せられない。サラにできないということじゃない。力仕事は男の俺が極力すべき仕事だと思うからだ。
夕食後、取ってきた薬草をサラに渡す。
サラはそれを持って里へ行き、お金に替える。ついでに繕い物や子守りなどの仕事を貰って、生活費を稼いでる。仕事が早く丁寧でセンスもいいからサラの繕い物は人気がある。また明るく優しい上に気配りもうまいから子守りの仕事も頻繁に頼まれている。
サラは俺より忙しい。
十分楽に生活している。
サロモンが生きている頃よりも楽なくらいだ。サラに任せていれば全て良い方に進む。
兄のくせに情け無い?
数々の転生を繰り返してきたくせに役立たず?
知らん! 聞こえん!
適材適所だ。
有能な
肉体労働しかできないだけじゃねぇか?
逆ギレすんな?
ほっとけよ!
……ごめんよ、俺。つい自虐逆ギレしてしまったな。
もうじき冬が来る。
冬には冬でしか取れない薬草があるし、高値がつくものも多い。だが雪があって歩ける距離は短くなりがちだから多くの量は取れない。
できれば冬前に二人分の旅費をと頑張ってきた結果、既に予定していた金額はとうに貯まっている。もう少し貯めたら、二人なら旅行中に稼がなくても三年程度旅行できるほどだ。
うん、今の俺とサラは小金持ちになっている。
これも全てサラの監督のおかげだ。
俺だけだったら、いくら高額の薬草をたくさん取ってきても、里で使ってここまで貯まっては居ないだろう。猫人のお姉さんに貢いでいたかもしれないし、狐人の未亡人と酒浸りになっていたかもしれない。女性に溺れて旅に出ようなどと思わなくなって居たかもしれない。
自慢の妹よ、ありがとう。
「お兄ちゃん、お金はいくらあっても困らないんだからね。二人で頑張ろうね」
俺よりも多くの人生を経験してきたかのような妹の言葉に、数々の転生経験を生かせない自分に涙する。やっぱ、場数をいくら踏んでも教訓を生かせないんじゃ無駄なんだろうね。
うちが相当お金を貯めてると知って襲ってきた山賊をいくら追い払っても……。
罠にかかった獣の量が多すぎてうちだけじゃ捌けない時に、獲物ゼロだった猟師さんへ渡して泣いて感謝されても……。
崖崩れで道が塞がれた時、魔法と龍気を使って邪魔な岩を壊し、崩れた岩を吹き飛ばし、行商人さんや里の皆に感謝されても……。
歩く女難への妹の視線は変わらない。
俺への評価はまったく不動。
でもね?
女の人と話すこともないままじゃいつまでたっても見る目なんて養われないと思うんですよ。
「ねえ、サラ。女の人を見る目ってどうしたら養うことできるのかな? 」
勇気を出して聞いてみました。また、悪い癖が出たのねと、蔑むような目で見られるかもしれないけど言いました。
呆れた声で答えられると思うけど頑張りました。
だが、違った。
「気になる人ができたら私に相談しなさい。そして私の指示に従いなさい」
冷静かつきっぱりと言われました。
まるで新人と上司の関係です。サラの自然な上から目線が素敵です。
「それって……サラの好みのタイプじゃないとダメってこと? 」
俺は知ってる。
過去を思い出すと、女性が褒める女性は、男性の好みから外れがちだ。
女性が自分より美しい女性、色っぽい女性を褒めることなんか無い!
男ウケするような女性には、必ずと言っていいほどケチをつけていたじゃないか!
絶対にだ!
偏見と非難されようとも、今のところ俺の経験がそう言っている。まぁ今回の転生で、
「いいえ、私の好みに合わない女性だとしても、先の猫人さんや狐人さんのような極端な問題がある女性じゃないなら、一応意見は言うでしょうけど反対しませんよ」
「ホント? ……ホントにホント? 」
「お兄ちゃんの好みの女性に何でもケチはつけないわよ。だから私に隠れて女性と関係作るのはやめてくださいね。さあ、明日も早いんですからそろそろ寝てください」
そっか、妹の検問さえ抜けられればいいのか。
なんか、力が抜けたぜ。
ま、今のところ検問抜けさせたい女性はいないから考えなくていいんだけどね。
俺の絶対にだ! はサラ相手には通じない。
俺は俺を信じろ? その前に妹を信じろ。
……俺はそれを今日学んだ。
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