26、奴隷解放第一段階、開始前(その四)

 我が国の目下最大の問題は住宅問題。

 多い日だと百名、少ない日でも十数名が入国してくるので、建設が追いつかない。

 新たな入国者には、大きな体育館のような場所で住宅の完成を待って貰っている。


 食事は配給。


 大変申し訳無いのだが、入国させずにいるよりは彼らは安全なので、かなり無理をしているけれども、入国検査を通ったら全員入国させてる。


 但し、俺の国にいる以上は居る者を不衛生な状態にしておくことは無い。

 衛生的な住宅を建てるために入居を待って貰っているのに、それまで不衛生なままで放っておくなんてありえない。


 ということで、彼らが一時的に生活してもらってる体育館のそばには、入浴施設がある。一回に二十名は入れる男女別大衆浴場だ。


 風呂はイイ……●●ンが生み出した文化の極みだよ。


 だいぶ古いけど、某有名アニメのセリフは風呂のためにあると俺は信じて疑わない。


 身体の汚れを落とす魔法があるらしいが、そんなものは邪道だ。何らかの事情で緊急避難的に使用するのは仕方ないが、風呂だ、風呂、風呂に入れ!


 時間制限などない、湯も使い放題で、ゆっくりと入れる風呂は好評で、これだけでも入国した甲斐があったと言ってくれる者も多い。


 だが、ここは温泉ではない。

 風呂裏に置いたボイラーで湯を沸かし、使用済みの水は濾過して殺菌して循環させている。フフフ……、これも研究の鬼と化したドワーフさん達の成果だ。


 移住する際、ドワーフが居るから仕事はないんじゃないかと心配していた鍛冶師さん達も、建築資材、特に鋼管作りに追われてる。”仕事がなくて困るんじゃないかと思ってた時期が私にもありました”と言っていても不思議ではない。


 まあ、報酬はまだ安い……無視できるほど安いのでとても心苦しいのだけど、仲間である亜人や魔族のためとタダ同然で働いてくれて助かっている。シモーナ曰く、”食費しか受け取ってもらえないのだから仕方がない”ということだが、本当に助かってるので感謝は忘れないようにせねば。


 魔獣や魔族の一部は、食料さえあれば金など要らないという方々も大勢居るので、それでは不公平だし今後どうしたらいいのか考えることは多い。


 風呂といえば、最初巨人族の風呂をどうしようか悩んだ。

 皆と同じ風呂は物理的に無理だし、風呂を作るにしても場所をどこにしようか悩んだ。水やお湯の使用量が半端ないしね。


 だが、身長五メートル強の巨人族とは言え、衛生面を放置しておくことは俺が許さん。


 それで、首都から少し離れてるけど、川のそばに、巨人族が三名ほど並んで座れるほどの深さ三メートルの穴を作り、中をコンクリートで固めて、そこにお湯を流し込み巨人専用のお風呂を作った。作業場となる森林や山岳地帯から彼らの足で片道三十分くらいかかるのですまないけれども。

 でも風呂は好きなようで、毎日楽しみにしてるらしい。彼らの住居はその風呂のそばに建てようと計画してる。まだしばらく先になりそうだけど、彼らは気にせず、現在住んでる洞穴でも構わないと言ってくれている。だが建てるけどね。


 でね?

 ……巨人族三名並んで風呂に浸かってるとね……一メートル以上もある顔だけが三つ並んで見えるのよ。湯で蒸気し気持ちよさげな薄笑いしてる顔が並んでるの。巨人族の女性も薄笑いして浸かってる。


 すっげー笑えるんだ。


 最初見た人は三つ並んだ大きな顔にびっくりするんだけど、慣れてくると皆大笑いする。

 

 魔獣にも風呂には入れと言っている。

 意外と魔獣のほうがきれい好きなので、それはいいんだが、やはり背とかお尻を洗えないから、そこは手助けが必要になる。これも今のところ巨人族のお仕事になってる。だって魔獣の身体ってでかいんだもん。ついでに飛竜も洗ってもらってるのだが、飛竜は数百頭居るから困ってる。

 

 現在、魔獣や飛竜の身体洗浄用に洗車機を用意せねばと、ドワーフに依頼しているのだが、そこまで手が回らないという。もうしばらく巨人族の皆さんに手伝って貰わねばならない。


 風呂の話ばかりになってしまったけど、今日の仕事は入国者からの現状聞き取り。


 建築土木作業に人手を多く割り振ってるので、こういった仕事はできるだけ出来る限り俺もやっている。一緒に飯を食べたり、風呂に入って聞き取りする。


 聞き取りと言っても”しばらく我慢させて申し訳ない”と頭を下げるのが一番の仕事だけどね。

 ”国王が頭を下げるという行為はそれだけでもかなり不満を減らせるので是非”というヴァイスの進言に従っている。まあ、俺も申し訳ないと思ってるので、頭を下げることに抵抗など無い。入国してきた者達は皆、不満など無いと言ってくれるのだけど、やはり気持ちは表した方がいいに決まってる。


 住居ができ、生活を始める際に少しでも気持ちよく生活を始めてもらいたいからな。


 それに、オルダーンで助けた親子のことも気になっていたし、一度は状況を確認したいと思っていたのだ。


 母親は、エルフ達と共に入国者用の炊き出しを手伝っているという。

 毎日数百名分の料理は大変だろうと言うと、全然楽だという。体調が少しでも悪ければ休めるし、子供達は午前中学校で今までよりも手がかからない。雨風の心配もない、空腹の心配もない、無理な仕事も無い、寒さで辛い思いもない、捕まって奴隷にされることもない、命の心配はまったくない。


 これだけでも十分だと言ってくれた。

 うちの国の宣伝に使われてることも、お役に立てるならと微笑んでくれた。


 ご主人が生きていてくれたならもっと良かっただろうにと思ったが口にしなかった。彼女は前向きに生活しようとしているのだし、それは他人が軽々しく口にすべきことではない気がした。


 どんなことでも不満があったら、俺にでも常駐している係にでも気軽に言ってくださいねと言うと、洗濯場が少し狭いかもと遠慮がちに言ってくれた。


 ここの担当者に確認すると、その問題は既に把握していて、洗濯場を広げるのは難しくないけど、排水処理施設が限界らしい。施設の増設をドワーフへ依頼しているが当分無理だと言われたということらしい。そうだな、住宅地の上下水設備を優先して貰ってるからなあ。


 なるほど、これは仕方ないからサラに頼もう。


 サラに思念で連絡すると、今からでもやってくれると言うので至急頼むと伝えた。

 排水処理施設さえできれば、洗濯場を広げて貰える。


 他にはないかと母親に聞いてみると、そろそろ寝具が足りなくなりそうだと言う。

 そんなものは俺が複製すればいい話だからと、早速、二百名分の寝具を複製した。


 ナザレスとの訓練の成果か、ちっとも疲れない。


 再び母親とここの担当者に聞くと、母親は特に無いと答えたが、担当者が”穀類と野菜は十分足りてるけど、肉類が多少足りないかもしれない”というので、明日以降は食肉の搬入を増やすと約束した。食用になる魔獣を一日十頭増やせば足りるかな?と聞くと全然足りますと言う。まあ、デカイからね、食用魔獣。象の二回りくらい大きい。


 但し、それなりに強いので、誰でも捕獲可能というわけじゃない。

 ある程度は力がないとね。


 だから、マリオンへ連絡した。

 ”今日からでも、食用魔獣捕獲を訓練に取り入れてくれ”と。


 ”何頭くらい必要なの?”と聞かれ”毎日十頭程度”と答えると、”それくらいなら楽勝ね”と言ってくれたので、”それを解体処理後に入国者施設へ送るよう手配して欲しい”と返事して終わる。


 畜産も力を入れているが、毎日増える入国者数に今のところ生産量は追いついていない。来年までには、もっと生産量を増やせるので当面は狩りと漁で不足分を補う。


 魔族は意外と食料消費は少ない。

 亜人のほぼ半分くらいだ。

 巨人族くらいかな、亜人よりも消費量が多い魔族は。


 その理由は、推測でしか無いが摂取した同じ量の食物から作るエネルギー効率が違うのだと思ってる。またサエラのようなサキュバス、サキュバスと同じような魔族は基本的に口から食物を摂取しない。他者の生命力などを吸収していれば生きるためのエネルギーはそれでいい。厳魔やアマソナス、ゴルゴンやデーモンは、食料を亜人ほどは多く必要としない。ハーピィや小人族も厳魔達よりも必要量は少ない。ラミア族かな、亜人並に必要とするのは。今後魔族でも様々な種族が仲間入りすると思うけど、食料に関してはさほど問題にならない。


 亜人に関してはそうはいかないので、食料の増産は急がなければならない課題だ。

 と言ったものの、さほどというかまったく心配していない。

 だって皆頑張って成果出してるもの。



 よし、この状況ならそろそろ進めてもいいな。

 リエンム神聖皇国の奴隷を連れ出す。

 まずはサロモン王国隣接地域からだ。

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