26、奴隷解放第一段階、開始前(その三)

 スィールが第四王妃、リエッサが第五王妃になった。

 

「この分だと各種族から王妃が生まれそうなんだけど……」


「さすがにそれは無いでしょうね。……多分」


 プイッと顔を逸らしたベアトリーチェの言葉が弱い。

 自信はベアトリーチェにも無いらしい。


 俺としては、王妃全員を大事にしたいので、これ以上は勘弁していただきたい。

 気持ちはあっても俺は一人で時間という制限もある。


「だってあなた、アンヌさんとエルザさんも貴方以外は目に入ってませんよ?」


「そう言われてもだな……」


「これからもそういう方増えるんじゃありません? 」


 正妻のベアトリーチェが他人事のように言う。


「リーチェ、前にも聞いたことあるかもしれないけど、ヤキモチ妬いたりしないの?」


「そりゃそういう時もありますよ。でも、我が家は皆仲良いですからねえ。女同士一緒に寝ることも多いですしね。昨日もマリオンさんとサエラさんと三人でお話しながらそのまま私のベッドで寝てしまいましたし。貴方も誰かを贔屓しませんし、ちょっとしたヤキモチなど、今の幸せな生活を送っていればすぐ忘れちゃいますし消えちゃいます」


「それならいいんだ」


 ベアトリーチェの言葉に安心した。

 まあ、俺が誰かと愛し合ってる時も、”寂しくなったのでご一緒させてください”と途中参加してくるしなあ。それを誰も嫌がらないんだから、最初は戸惑ったけど今では気にしなくなった。リエッサやスィールもきっと同じようになるんだろう。


 ベッド、大きいの作らなきゃいけないかな……。


 まあ、いい。

 さて、俺はナザレスの虐め……いや、訓練に行くか。

 きっと今日も死にそうになるんだろうなあ。


・・・・・・

・・・


 うん、予想通り。

 もう動けない。


 ナザレスって俺の体力が尽きる寸前が判るんだろうな。

 俺の体力も日々あがってるはずなんだが、訓練が終わるといつも俺はギリギリになる。


 ”ゼギアス、貴方はとにかく体力向上が全てだと考えなさい。貴方の魔法力は私よりも全然上なのです。その魔法力を活かすためには、一にも二にも体力です。最初よりだいぶ上がってきましたがまだまだ全然足りません。”


 龍気より体力の消耗はかなり少ないとは言え、魔法を使用すると体力を消耗する。魔法自体は魔法力に依存するけど、その制御は体力に依存するので、制御が難しい強力な魔法や複雑な術式の魔法を使えば体力も比例して消耗する。長時間使っても同じく消耗する。


 ナザレスの魔法に対抗するための結界を維持するには、強力な結界を張らなければならない。だからどうしても体力を多く消耗する。魔法力にはまだ余裕が全然あるけど、体力が先に尽きて結界を維持できなくなる。


 だけど、体力はそう簡単には増えない。

 エルザークに言わせると、俺の体力増加はかなり速いスピードで上昇してるらしい。だが、まだまだだという。


 うん、きっとそうなんだろうな。


 もっと頑張らなきゃな。


 俺は今、サエラに膝枕して貰いながら体力の回復を待っている。

 ハンカチで汗を拭くサエラの手の動きがとても気持ちがいい。


「主様、この国はいいですね」


 サエラは人前ではゼギアス様と呼ぶようになったが、親しい身内や二人きりだと今も俺を主様と呼ぶ。これはどうしても直らないのだそうだ。


「そうかい? でもまだまだなんだ」


「この国を楽園と呼んで、入国しようとする人が後を絶たないのも当然です」


「でも、本当にまだまだなんだ。食料は足りてはいるけど、選ぶ余地は少ないから配給のようなものだし、人手も足りないから皆には余暇をあまりあげられないしねえ。他にも足りないものがたくさんあって、まだまだだよ」


「欲しいものを選べるのは当然だと、仕事もできるだけ好きなことに就けるのが当然だと主様は考えてくださいます。休みがあって当然だと考えてくださいます。私達にとっては、そう考えてくださる方が私達の王だというだけで素晴らしい夢のようなことなのですよ?」


 ああ、なるほど、俺にはこの世界の常識が足りないから、こうやって雑談しながら教えてくれるのか。ありがたい。


「そう考えてくれるのは嬉しいけど、俺は現状に満足しちゃいけないと思ってる」


「はい、それは判っていますよ? だから私は、いえ私達は貴方が夫で誇らしいのです」


「そうか……そう思ってくれるならもっと頑張れるな」


「無理はダメですよ? 昨夜もスィールさんと、主様はもっと周囲に甘えるべきと話していました」


「ん? 今でも十分頼ってるじゃないか」


 エルフには様々な作業を頼んでいるけど、今は国内の連絡網の整備を頼んでいて、ベアトリーチェには状況を逐一確認してもらい、ヴァイスと協力して進めてもらっている。マリオンは前線からは離れたけど、戦闘訓練教官として助けて貰ってる。


 サエラには国内の各施設で不満や問題が発生していないか、毎日様々なところへ出向いて貰っている。スィールも今まで同様に、支援系の魔法を支援部隊隊員に指導して貰っているし、リエッサも前線からは外れてもらったけど、やはり肉弾戦の指導を新たに入国してきた方たちの兵士希望者に指導して貰っている。


 王妃だからといって、能力がある者を外せるほどうちは人材が足りていない。


「仕事のこともそうですが、家に戻ったら私達にもっと甘えていただきたいのです」


「んー、十分過ぎるほど甘えてると思うんだが……」


「もっともっとです」


「嬉しいけど、今以上に甘えたら俺はダメな男になってしまう」


「では覚えていてくださいね? 私達は主様に尽くしたいともっと癒やしたいと思ってるのです。それが私達の幸せなんです。これは皆一緒なんですよ?」


「ああ、ありがとう」


「この国はとてもいいところです。この国で生活できる私達は幸せです。この国を今以上に良い国にしようと頑張る主様にももっと幸せになっていただきたいのです」


 俺の顔を撫でてくれるサエラの手がとても心地よい。

 ずっとこのまま居られたらと思うよ。


 でも、これ以上甘えたら、俺は社会復帰できなくなる。

 女色に溺れてダメな奴になってしまう。


「大丈夫だよ。サエラや皆がそばに居てくれるだけで俺は幸せだよ」


「ベアトリーチェ様が、主様はとても寂しがりだと言われてましたが、本当ですね。でも心配しないでください。けっして主様から離れたりしませんから」


 そうだったらいいな。

 俺も皆に寂しい思いさせないようにしなければな。


 そろそろ体力も回復してきた。

 汗を風呂で流して、今日の仕事始めなくては。


 フフフ、早速、サエラに背中を流して貰おう。


 …………うん、ダメじゃん。


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