26、奴隷解放第一段階、開始前(その二)
「……そういうことなんだ。俺はお前達二人のこと、これ以上好きにならないようにしてる。関係が深くならないようにしてる。その理由が今話したこと。二人を嫌いなわけじゃない。信用していないということじゃない。俺の臆病さが理由なんだ」
こんな話を誰かに聞かれるのは嫌だから、二人を連れて人気の無い、首都から離れた山頂まで転移してきた。
転がってる岩に三人で座り、俺の気持ちを正直に話した。
俺の話をスィールもリエッサも真剣に聞いてくれている。馬鹿にするような視線も呆れるような視線も見せずに聞いてくれた。ありがたい。
「私達が、ゼギアス様から離れて他の雄のところに行ってしまうとか、他の雄と交尾することが怖いから、私達とは今以上の関係になりたくない。そういうことなんですか?」
相変わらずリエッサははっきりと言う。
こういうところ好きなんだけど、もう少しオブラートに包んだ物言いしてくれると嬉しい時もあるんだよ。
「ああ、情けないがそういうことだ」
「私達はゼギアス様がそう仰るなら、ゼギアス様一筋で生きますよ? その方が私達もありがたいですし。多分、一つお判りになってらっしゃらないことがあります」
スィールが説明してくれる。
魔族の雌が一人の雄に縛られることを嫌うなんてことはない。但し、雄もその雌を大事にするならばではあるが。
今のような……ゼギアスから見て、雄雌ともに性に自由に思えるような状態になったのは、雄の事情が大きかったからだという。飽きた雌の相手をしなければならないのは嫌と考える雄が多いから、雌にも自由にさせるようになり、そして雄の面倒を見るのを嫌った雌が雌だけの集団を作り、そのような集団からゴルゴンやハーピィやラミアなどの雌しか産まない種族が長年の中で生まれたのだという。
スィールもリエッサも、ゼギアスが自分達を蔑ろにするとは思ってない。
可能な限り大事にしてくれるだろうと思ってる。
だから、ゼギアスが自分だけの雌でいろと言うなら、その方がありがたいし嬉しい。きっとゼギアスは自分の相手を遠ざけたりすることなど無いだろうから。
ふむ、雄に捨てられたり嫌われたりして、自分の子を持てなかったり、生活の不安を抱えるくらいなら、最初から雄に縛られない生き方を選んできたってことか。
なるほどね。
「アマソナスも、相手が強いならという条件が、今スィールが話したことに加わりますが、やはり一人の雄に縛られることは好ましいですよ。雄の奪い合いも生じませんし」
そうか……。
「それに、魔族は誓いや契約には絶対従います。それはゼギアス様もご存知でしょう?」
「ああ」
「私もリエッサも、既に自分の命と身体はゼギアス様お一人のものと、部族長を辞めるとき部族の仲間たちの前で誓っているのです。その誓いが無ければ部族長を辞めることを皆が認めるわけがないのです。ゼギアス様が心配されてるような、私達がゼギアス様から離れるとか、ゼギアス様以外の雄と関係を持つことなど、ゼギアス様と今以上の関係にならなくてもありえないのです」
「……重いな」
「ええ、そう思われると思い、今まで話さずにおりました。しかし、ゼギアス様の誤解を解くには話すしかないと考えました」
そうかぁ……あっ、ということは……
「うん、判った。そこまで思ってくれてありがとう。二人ともずっと俺のそばに居てほしい。お願いするよ。今晩、皆にも話すから、うちに来てくれ。」
心配していたことが杞憂だと判り安心した俺は、タイプの違う側室が新たに増えるとちょっと浮かれていた……かもしれない。
・・・・・・
・・・
・
俺が、魔族の事情を詳しく知らなかったことと、二人が誓いをたててくれていたこと、何より俺も二人にずっと傍に居てほしいと思ってることを、夕飯後皆に話した。
「スィールさん、リエッサさん、ごめんなさい。お兄ちゃんがこんな常識すら知らずにお二人を遠ざけていたなんて……。これは私の責任です。ごめんなさい」
サラが立ち上がって謝罪してる。
「え?」
常識だったの?
「私にも責任があります。正妻としてきちんと夫の考えを確かめておりませんでした。ごめんなさい」
ベアトリーチェも謝る。
そ、そんなにも知っていて当たり前なことを俺は知らなかったの?
「ダーリン、魔族の部族長が辞めるんだもの、その責任に見合った代償があるくらい考えなかったのかしら?」
ええ、まったく考えもしませんでした。
面目もありません。
俺のことは今まで一度も貶さなかったマリオンまで非難の目で見てる。
「主様、私もかばえません……」
サエラが呆れた顔してる。
ベアトリーチェ以上に俺に甘いサエラすらも俺に目を向けない。
うーーーーーん、この世界の常識って地球の常識と違うことくらい当たり前で、気をつけていたつもりだったんだけどなあ。
「ま、まあ……俺も一つ常識を身に着けたってことで……。ラミアやハーピィの部族長は交代していないし……スィールとリエッサはベアトリーチェ達と同じくらい大事にするし……」
「お兄ちゃん!」
あ、来た。
逆らうことを許さないサラの本気の怒りの表情が目の前にある。
「はい!!」
「そんな当たり前なことで、今日まで二人を遠ざけていた責任をとれるとでも?」
「そんなに怒ること?」
「同じ女性として、二人の気持ちを考えると当然です。最近、甘やかしていたようです。今日はみっちりとお説教です。いいですね!」
「はい!!!」
俺はこの後サラだけでなくベアトリーチェとマリオンからも説教されることになる。
説教は深夜まで続き、スィールとリエッサが与えられた部屋で眠りについても、俺が解放されることは無かった。
しばらく忘れていたが、俺は歩く女難と呼ばれる男だったのだ。
もう二度と絶対忘れない。
絶対にだ!!
あてにならない俺の”絶対”だが、今回はあてになって欲しい。
三名の女性によるジェッ●●トリーム説教●タックは、ナザレスの訓練よりキツイです。
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