39、フラキアの状況と皇国との協定(その一)
ゼギアスはミズラと共に、フラキアに来ている。
紅茶の生産状況を確認しに来たのだ。
紅茶に限らず、この世界に無いものを商品化する際には実物を知ってるゼギアスによる確認が必要となる。だから作業の要所要所でこうして確認に来る。
フラキアの高地で採れた茶は、地球のダージリンの味と香りに似ている。
ストレートで飲んだほうが美味しい製造法。
ミルクティーで飲んだほうが美味しい製造法。
アイスでなどなど、いろいろと研究している。
今のところ栽培場所は一箇所しかなく、といってもかなり広い栽培地域ではあるが、そこで採れたお茶で試している。いずれはフラキアの各所でお茶を栽培し、味や香りがいつでも揃うように配合する必要も出るだろう。
ティーポットとティーカップはサロモン王国製陶磁器で、ティーサーバーもサロモン王国が誇るガラスで、更には蒸らす時間の目安を知らせる砂時計も三分・四分・五分の三種類用意してある。ガラス製品はオルダーンのアンテナショップでしか通常は販売しないが、紅茶に関係するものに限ってフラキアでも販売する。
あと、オルダーンで栽培した果物のジャムの瓶詰めも売る。
是非、ロシアンティーも楽しんでいただきたい。
宣伝文句も考えてある……というか、地球での記憶からパクってある。
老化防止にダイエット効果などなどを判りやすく説明しつつ、要は、女性にとって素晴らしい飲み物ですよとアピールするのだ。販売所では淹れ方と飲み方もしっかりと教えるし。
ナッハッハッハッハ、紅茶の特徴を活かしたバリエーションある商品の威力を思い知るがいい。
フラキアに来た理由はまだある。
これからどのように紅茶を広めるかをフラキア自治領主に実際に体験して貰うこと。領主の家族との試飲会。
ミズラにも楽しんで貰いたい。
転移魔法を使えばほぼ一瞬で、飛竜やグリフォンで移動すれば三日程度で来れるとは言え、やはりフラキアとサロモン王国は離れてるから、機会があるなら里帰りさせたいのだ。
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リエラのレシピがあっても、ケーキを作れる料理人がフラキアにはまだ居ない。ケーキなどパンケーキくらいしか無いこの世界だ。手の込んだケーキを作れる料理人など居なくて当たり前だ。だからフラキアの料理人数名が、リエラのもとで現在特訓中。
今日はリエラが作ったケーキを転送して貰ってる。
種類を多く味わって貰いたいので、プチケーキを数種類。
カップケーキや果物のタルトとショートケーキなどを数種にシュークリームを用意してある。
テーブルの上には、それらケーキが並べられた大皿と、ティーポット。参加者各自の目の前にはティーカップとお皿、ジャム数種などが揃えられてる。
自治領主とその家族は、色鮮やかなケーキに見惚れているし、部屋に漂う紅茶の香りに心を奪われてるようだ。
俺はケーキと紅茶の楽しみ方を説明する。
興味をもったケーキを給仕役の侍女が各員の取り皿へ取り、ティーカップに紅茶を注ぐ。
紅茶の試飲会というか、ケーキセットの試食会というかが始まる。
この世界では甘味の種類が少ない。
せいぜい果物のいくつかくらいだ。
地位のある家の人々でさえ、そういう環境で生活している。
領主の娘達は、貴族や士族のような地位もお金もある家に嫁いでいるのだ。
感想を求める相手としては最適だろう。
ケーキを口にした領主と家族は、絶句していた。
続いて紅茶を含んで貰うと、また絶句。
だが、頬が緩むのをおさえられないようで、皆笑顔だ。
様々なケーキを口に入れ、そして紅茶を飲んで笑顔になる。
その様子を俺とミズラは、特にミズラは嬉しそうに見ている。
「紅茶の香り、上品で芳しくフラキアに相応しい品ですわね」
奥様のアリア・シャルバネスは紅茶の香りに魅入られたようだ。
「味も緑茶よりまろやかで、口当たりがよろしいですわね」
第二夫人ケイティは緑茶より気に入ってくれたみたい。
「お茶にミルクを入れるなんてと少し不安だったのですけど、優しい味でホッとしましたわ」
第三夫人ゾフィーはミルクティーを認めてくれたようだ。
奥様たちは、自分の領地で栽培した紅茶とその味がとにかく気になったようで、紅茶の感想を話してくれた。
娘達は、紅茶も気に入ったようだが、やはりケーキに心奪われたよう。
「これは驚きしかありませんわね。このような料理……ケーキというものは見たこともありませんでしたが、何と美味しいのでしょう」
長女のティアラが感想を述べつつもまだ食べたい様子。
「ええ、そして口に残った甘さを紅茶が洗い流し、同時に鼻に抜ける香りが心地よくて、ええ、私共が日頃飲んでるお茶ではこのような快感は得られませんわ」
次女のナミビアがケーキと紅茶の組み合わせを褒める。
「紅茶だけでも香りを楽しみ美味しく召し上がれますのに、ゼギアス様の勧めでジャムを口にしてから紅茶を飲みますと、ジャムの香りが過ぎたあとに紅茶の香りがやってくる。ケーキを口にしたときとはまた別の快感がありますわ」
三女のカエラがロシアンティーにも感動してる。
「私は次に食べられる時が、もう待ち遠しくてたまりません。お父様、紅茶の売れ行きを心配することなどありません。夫にも必ず取り扱うよう言いますわ。大丈夫です絶対に売れます。フラキアでしか生産していないのですから、ボロ儲け間違い無しです!!」
豪商の家に嫁いだ四女のリーザは、声に力を込めて紅茶の成功を保証する。
他にもミズラ同様の養女が二人、アドリアナとエヴァがこの場には居て、やはり驚きと感動を伝えてくれた。
領主と第二夫人の間には長男レンダルトが居るが、まだ三歳ということでこの場には居ない。
この場に居る全員が紅茶とケーキに満足したようで、予想通りとはいえ俺は安心した。
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ククククク、このセットにはこの世界の人には馴染みのない罠がある。
そう甘味は食べ過ぎると太る!!
そこで、紅茶のダイエット効果もしっかりと宣伝することで、紅茶の消費量は増えるに違いない!
もうダイエット器具も売り出しちゃおうか?
ケーキで太らせておいて紅茶とダイエット器具を売る……マッチポンプ商法か? フフフ、いいな、夢が広がるぜ。
こんなことも考えていたが、紅茶とケーキを気に入ってくれた自治領主達の様子を見て、素直に喜んでるミズラにバレたら怒られそうだと思い、アホな考えを頭から消した。
「今日お出しした紅茶は一種類ですが、今後も研究して味の種類を増やします。葉の大きさや収穫時期、栽培場所などでも味は変わりますから、いずれお好みの紅茶を選べるようになります」
満足した表情してる全員の顔を見渡しながら、紅茶の可能性を説明する。
そして販売戦略の説明も付け加えて、集まってくれた方々へのお願い……本日集まってもらった最大の目的を始める。
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