20、ジズー族との戦い(その二)

 行軍中、俺は敵について考えていた。


 南下したデーモンの相手は、同じデーモンの部族。

 デーモンは一枚岩ではないと捕虜からも聞いていたので同種族同士の戦いと聞いても驚きはない。


 部族名はバルバ、リーダーはリアトス、魔法も使うが、弓での攻撃を得意とする部族とのこと。今回の戦いが終わったら、協力関係を結べないものか。敵の敵は味方みたいな感じで仲間になってくれると助かるな。


 現在戦ってるデーモンは、リーダーのマルファが率いるジズー族。


 ジズー族はいくつかあるデーモンの部族の中で現在最大の頭数を有する部族で、前リーダーの時代には、各部族をまとめ比較的温和な体制だったらしい。

 現在のリーダーマルファが率いるようになってから、他国へ侵略支配を目論むようになった。


 デーモンって、青黒い肌で、髪の色は赤や、緑など様々だけど、同族の場合、どうやって見分けてるのかな?あ、服装で見分けられるか……。


 デーモンの服装は、地球で言えばローマ帝国軍人の平服に似ていてちょっと格好いい。軽装なのに上着に施された刺繍が高級そうな感じでそそる。平服と軍装、うちは今のところバラバラだけど、そろそろ揃えてもいいかもしれん。格好の良いデザイン、募集してみるか。


 そろそろ敵が居る地域だ、さて、敵はどう出るかな。

 アロンは既に手を打ってあると言っていたな。

 お手並み拝見するとしよう。


・・・・・・

・・・


 戦場に到着して状況を確認すると、膠着状態にあることが判った。

 数に優るジズー族の攻撃をバルバ族は持ちこたえているようだ。

 バルバ族のリーダー、リアトスは優秀なリーダーなのだろう。


 膠着状態にあったところに俺達が到着したので、ジズー族は俺達から見て左側に移動し、隊を密集隊形に再編成している。ジズー族の隊は左右に敵を揃えることを嫌い、隊形を維持しながら後退していく。

 二正面からの防御は不利。

 そのくらいは判っているようだ。

 俺はヴァイスから教えられるまで、理論的には判らなかったけどね。


 こちら側は、敵に二正面状態で戦わせるのが有利。

 だから、バルバ族とは合流せず、ジズー族の移動に合わせて左へ移動していく。

 うちが攻撃を仕掛けると、敵の背後にバルバ族が襲いかかれるような状況を作ってる。


「バルバ族の背後に敵の伏兵を確認しました。こちらから動いて、伏兵を誘い出しましょう」


 上空からアロンが伏兵を確認したようだ。


 厳魔が動き出す。

 ジズー族の正面から突撃していく。


 俺達の攻撃から撤退した者から情報を手に入れてるのか、厳魔の突撃に合わせて敵は左右に隊を開く。厳魔を左右両側面から挟み撃ちするようだ。


 じゃあ、敵の右側にアマソナス左翼部隊が突っ込み、左側にはダヤンが率いる部隊が……と想定していたのに、ダヤンの部隊は右翼部隊の後方を回って、更に右側へ移動し始めた。


 なるほど、敵の左側は厳魔に任せて、右側を先に叩くのか……。


 うちらの動きに合わせてバルバ族も敵の右側へ攻撃を始めた。

 すると、アロンの予想通り、バルバ族の背後に敵の伏兵が現れた。


 挟撃体勢のバルバ族の攻撃が弱まる。


 これは戦局が不利に動くかと思ったその時、伏兵の横からダヤン率いる部隊が突撃する。


 そうか、伏兵の相手させるためにダヤンを迂回させたのか。


 敵の伏兵が慌て、バルバ族への攻撃が緩んだ。

 バルバ族はこの隙に体勢を整え、アマソナスとともに敵に右側へ再度攻撃し始めた。




 うちの長距離攻撃隊は、厳魔の支援に集中している。


 状況だけ見ると俺達が優勢に見えるが、敵の数はこちらよりまだまだ多い。

 ここらで敵左側へダメージ与えたいなと思っていたところに、アロンが言ってた”手”が現れる。


 なんとマリオン!

 リエンム神聖皇国側の警戒に就いているはずのマリオンが、最近仲間になったグリフォンに乗っている。 


「ダーーーーリーーーーン!貴方の愛するマリオンが助けに来ましたわぁ~」


 いつも通りテンション高いね。


 そのマリオンの後ろには四頭の飛竜が続いてる。

 飛竜の背には、アンヌとエルフ達。


 マリオンだけグリフォンに乗ってるって何故なんだ?


「さぁて、私はダーリンのように優しくはないですのよ~」


 敵の背後からマリオンは火系魔法をぶつける。

 優しくないと言う割には、かなり手加減してる。


 マリオンに続いてアンヌとエルフ達もそれぞれ風系や炎系の魔法を敵にぶつける。


 マリオン達は、敵の反撃を食らわないよう、距離をとって攻撃している。魔法の威力は弱くなってもいいから、敵に当たりさえすれば良い。そんな感じだ。


 ふむ、アロンの目的は敵の集中力を失わせることだな。

 俺はアロンの意図を読んだ……気がしてる。


 多少の怪我で済む程度とは言え、背後から魔法をぶつけられては目前の敵に集中できない。


 目の前には厳魔の破壊力ある攻撃が間断なく襲ってくる。

 弓も次々と降ってくる。

 そこにマリオン達の嫌がらせ……。


 アロンはマリオンの性格を判って、この役目を任せたな。


 目の前の戦闘に集中できない敵はその数をみるみると減らしていく。

 アマソナスとバルバ族に挟まれた敵も徐々に勢いを失ってるのが判る。


 ダヤンの相手は伏兵で最初から多くない。

 ダヤンが得意な一撃離脱戦法に振り回され壊滅寸前だ。


 やがて、敵は撤退の指示を出したらしく、逃げるように駆けていった。


 そして再び、リーダー達の情報交換が始まる。


「キマイラの状態異常ブレスはウザいな。エルフとゴルゴンが状態異常を治す際に出来る少しの間がこちらの攻撃を遅らせてしまう。キマイラを相手にする時は、横列連携して波状攻撃で一気に仕留めるようにしよう」


「デーモンもこちらには魔法攻撃は通じないと知って、物理的手段で攻撃してくるようになった。それもガーゴイルと連携してるようだ。これはちと面倒だぞ」


「では長距離攻撃はガーゴイルを集中的に狙うようにします。今回も一応ガーゴイルを先に狙うようにしてたのですが、次からは徹底します」


 うん、大丈夫そうだね。


 リーダー達が話し合ってる間に、怪我人の治療や回復魔法による体力回復が行われている。


 みんなやるべきこときちんとやっていて、俺は鼻が高いよ。


「ダーーリーーン。どう? どう? 愛するマリオンが来て嬉しい? 嬉しいわよね?」


 そりゃあね。嬉しいのは確かなんだが、そのテンション何とかならないかな。二人で居る時や、家の中なら問題ないけど、さすがに人目を気にしないわけにはいかないんだが……。


「ところで、どうしてマリオンだけグリフォンに乗ってるんだ?」


「そんなのフカフカのモフモフだからに決まってるじゃない」


 へぇ……理由はそれだけ?

 飛行速度はグリフォンも飛竜もそう変わらないけど、飛竜の方が防御力高いし、いざとなったら炎ブレスもあるし、安全なんじゃないの?


 マリオンは俺の心配をよそに、身体を擦り付けるように俺の腰に手を回し抱きつく。


「あらん、私の事心配だったのね。優しいんだから、もう~。でも大丈夫よ。この美しい身体に傷なんか付けたらダーリン泣いちゃうものね。あ、そうそう、新しいネグリジェ作ったのよ。ダーリンが愛する妻達全員でよ? それでね、ほら、ダーリンって私の胸に顔を埋めて寝るの好きじゃない? だから胸の切込みはきつめにしたの。あれなら、ネグリジェ着たままでも顔を埋められるわよ。あとね……」


 慌てた俺は、マリオンの顔を胸に埋めるようにしっかりと抱き、これ以上俺の性癖が公にならないよう口を塞いだ。嘘じゃないだけに困る。


「ちょっ……それ以上は……な? ここでは止めておいてくれると嬉しいな……」


 だって、その手の話にとても敏感で研究熱心な二種族の、”そうか、胸はただ出すだけじゃ足りないのか。見せ方が大事なんだな”……とか、”ネグリジェとは何だ……雄が喜ぶアイテムなのか? ”……とか囁きが聞える。 


 男性兵士の中からも”ゼギアス様はおっぱいが大好きなんだな”とか聞えるし、そりゃ大好きだけど、このような場で話すことじゃないだろう。周囲にはデーモンやガーゴイルなどの死体だって転がってるし、血の匂いだってするんだぞ。


「ダーリンは相変わらず照れ屋さんねぇ。でもいいわぁ。ダーリンに強く抱きしめてもらえたんだもの。ここに来て良かったわぁ」


 抱きついたまま離れず、俺の胸に指を滑らせながら、”できるだけ早く帰ってきてねぇ、家にはお楽しみがいっぱいなんだからぁ”とマリオンが甘えた声で言ってる。


 俺は近くに居たアンヌに


「すまないが、バルバ族のリーダー、リアトスと会って、後日、俺かヴァイスが挨拶に行くから、都合の良い日時を確認してきて貰えるか?」


 奥さんに抱きつかれながらじゃ威厳も何もあったものじゃないが、俺もすべきことをしなければならない。アンヌは立礼して駆けていく。


「アロン、俺をからかいたくてこんな手を?」


「そのようなことはありません。こういう時、マリオン様が一番上手に遊撃的な仕事をこなしますので、それ以上の意味はありませんよ」


 本当かなあ。

 ヴァイスハイトが言うなら疑わないんだが、アロンは最近他人で遊ぶことを覚えたからなあ。旦那持ちのアマソナスに適当なこと教えて、旦那が半泣きしていたのを見たぞ。後でそのアマソナスから怒られていたようだけど。あれは絶対わざと適当なことを教えたのだと俺は確信している。


 だから油断できないんだ。


「じゃあ、私はそろそろ帰るわね」


 グリフォンの背に乗って、両手で何度も投げキッスしてくるマリオンに手を振って別れた。


「さて、今後ですが、我々は急ぐ必要はありません。殲滅するのではなく降伏させるのが目的なので」


 アロンの指示に従って、ゆっくりと敵の本拠地へ向かうことにする。

 一日半もあれば本拠地には到着するだろう。


 俺達は隊列を組み直し、周囲の警戒だけは怠らないようにして行軍を開始した。

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