11、港町オルダーン (その二)

「ああ、多分出来るよ。今、オルダーンに何人住んでるか判らないからどの程度の日数かかるか判らないけどね。呪いってのはさ、要は、魔属性魔法の一種だ」


 ちょっといいかい? と一声かけてから、その女の額に手を当てる。


「うん、あんたにかけられてる呪いの……魔法の仕組みは判った。三十分もあれば解呪できる。あんたよりも深く魔法をかけられてる人ならもう少しかかるだろうけど、それは診てみないとはっきりしとした時間は判らないな」


 呪いとは、条件で発動する魔属性魔法。発動条件さえ判ってしまえば、その条件を消去……解呪することは難しい作業ではない。だが、発動条件も魔法で組まれているので、魔属性魔法を理解し操作できる闇属性龍気か魔属性魔法を使用可能な者にしか解呪できない。そして発動条件さえ消せるなら、呪いの症状を引き起こす程度の魔属性魔法など簡単に消すことが出来る。発動条件が消されているのだから消さなくても呪いの症状は生じないけど、それでは気持ち悪いから必ず消しておく。


 ただし、呪いの症状が既に生じている場合、つまり今回の痣のような場合は痣を消す魔法も必要で、それは相手が人間の場合、無属性か聖属性の治癒魔法が必要になる。ただし、今回の痣は全身にまわると死に繋がる種類だから、無属性の治癒魔法だとほぼ効果はない。だから聖属性の治癒魔法使いが必要になる。


 俺が発動条件の魔法を消し、治癒はサラやベアトリーチェ等エルフにマリオンのような聖属性治癒魔法使いに手当てしてもらえばいい。人数が一人や二人ではないから日数はかかるだろうが確実に治せる。


「さっきはすまなかった。先程のようなことをしたのに、こんなことを願うのは恥知らずと思われるかもしれない。だが、頼む。オルダーンに来て治してはくれまいか? 私でできることは何でもする。いくら費用がかかろうと街の全員で必ず支払う」


 頼む、頼む……と涙も拭かずに俺に必死にすがってくる。


「いいよ。でも、俺はさっきも言ったけど用事があって、ここに居るイワンとドワーフの里へ向かってるんだ」

「ゼギアスさん、俺も同行して手伝うよ。できることは何かしらあるはずだし、ゼギアスさんの身体が空いたら必ず連れて行くからさ。そっちを優先してあげてよ。オルダーンのことは前々から可哀想だと思っていたんだ」


「そうか、すまないな。じゃあ、ちょっと待っていてくれ、今からサラに連絡するから。そしたらあっちから治癒魔法使えるエルフたちを飛竜で連れてきてくれる」


 そう言って、サラへ思念伝達魔法を飛ばす。


 サラは残ることになったが、ベアトリーチェとマルティナを含む・・・・・・全員で五名の治癒魔法使いが来てくれることになった。マリオン達から連絡があった場合や、不測の事態が起きた時の連絡役としてサラは残ることになった。


「うん、これでよし。じゃあ、行こうか。エルフ達もオルダーンの場所判るみたいだから、現地で合流することになった」


 ふと俺は気づいた


「あんた、荷物を取ってきなよ。俺とイワンはちゃんとここで待ってるからさ」

「私の名は、アンヌ・ソルディーノ。アンヌと呼んでくれ。本当に先程はすまなかった。では急ぎ荷物を取ってくる」


 そう言って、干していた布で顔を隠すや駆け去っていった。


「イワン、お前、いい客ができたと思ってないだろうな?」


 俺はアンヌの駆け去る様子を見ながら、話しかけた。


 ギクッと音がしそうなほど身体を反応させ、俺から引きながらイワンは離れた。


 俺の表情はきっと無表情という表現しかできないものだっただろう。

 顔だけをイワンに向けると


「ゼギアスさんには敵わないなあ、はは、ははは、はははははははは……」


 イワンは乾いた笑い声を出し引きつった表情していた。


「はっきり言っておくぞ。適正な価格で商売するなら好きにしていい。だが、今回のことを、さも自分の手柄のように話して恩を売り、高値で商売しようという考えがあるなら、今のうちに改めておけ。彼女達の不幸を利用しようとするなら、今彼女たちが受けてる呪いを俺がお前にかけてやるからな」


 さきほどアンヌがうけてる呪いの仕組みは判った。

 仕組みが判った以上、俺も使える。


「もし今後も俺やエルフと商売していくつもりがあるなら、相手を見て商売しろ。可哀想な奴の足元見るような商売はするな。まあ、相手が領民虐めて儲けてるような貴族とかなら好きなだけ毟り取ってやれ。それで困るようなことがあったら助けてやる」


 ニヤリと悪い顔を見せてイワンの肩をポンッと軽く叩いた。

 俺の言葉を聞いてイワンは表情を楽にした。


「判りましたよ。ゼギアスさんの言う通りにしますよ」


 まあ、信用するかはこれからのイワン次第だけど、そう悪い奴とは感じなかったし、俺の勘はそうそう外れない(女性は除く)。


 再び、雑談して過ごしていると、アンヌが戻ってきたので、早速オルダーンへ向かうことにした。


・・・・・・

・・・


「あなた、お待たせしました」


 オルダーンの入り口でイワンと会ったのだろう。ベアトリーチェはマルティナ達を連れて、アンヌの自宅、ソルディーノ家に来た。


 俺が解呪を始めてから四時間経っている。

 もう深夜だ。


「イワンさんには今日はもうお休みくださいと伝えました。それで私達はどう動けば宜しいですか?」


 今日は全員ここで休んでもらって、明日の早朝から解呪済みの患者の治療にあたってもらうことにした。俺はソルディーノ家の方達全員を解呪したら、街の人達のうち呪いの進行が進んでる人から解呪していく。


 今のところ一番重いのはアンヌの父で、解呪に一時間近くかかった。

 次に重かったのがアンヌの母とアンヌ。一人三十分ほどかかった。

 そしてアンヌの叔母と弟二人。こちらは十五分ほどで解呪した。


 残るは使用人達の八名だが、アンヌの弟と同程度だから今夜中に解呪を済ませるつもり。


 解呪よりも痣の治療のほうが時間がかかるんじゃないのか? とベアトリーチェに聞くと、実際やってみなければ正確なことは言えないけれど、アンヌの父は半日かかりそうだが、あとは一人につき2時間以内で治療できそうとのこと。


 うん、進行が進んでいる者から治療していけば、命を心配する人はかなり少なくすみそうだ。


「無理させることになるけど頼む。呪いで苦しんでると聞いて可哀想でさ……」

「あなた、気にすることはありませんわ。それにここのところ忙しくてそばに居られる時間が無かったでしょ?  こんな状況ですけど、近くに居られて少し嬉しいですし」


「ありがとう。俺はもう少し解呪を進めておくよ。リーチェは先に休んでいてくれ」

「判りました。少しですがお食事を持ってきました。途中でも終わった後でもいいですから必ず食べてくださいね?」

「ああ、助かるよ。お腹すいてたんだ」


 俺が使用人の解呪中で手が離せないのを見て、ベアトリーチェは俺に近づき頬にキスして笑顔を見せてくれた。


「先に休みます。おやすみなさい」


 うっし! 気合が入った。

 急いで、解呪を済ませてベアトリーチェの横に飛び込む!!


 今夜はベアトリーチェを抱きしめて寝ることができそうだ。


 俺はベアトリーチェの優しい香りを思い出し、今日は大変だったけど、最後は素敵な眠りにたどり着けると元気になった。

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