11、港町オルダーン (その一)
昨夜の寂しい気持ちを忘れ、イケメンドワーフと共に飛竜に乗ってドワーフ達の元へ向かう。俺は刀工の”呼ばれし者”と会えると期待にワクワクしていた。
俺の中ではその刀工の呼び名(仮)は既に決まっていた。
”マサムネさん”
やっぱ日本刀と言ったら正宗だろう。
名刀と呼ばれるものが他にも色々あるのは知ってるよ?
菊一文字、童子切安綱、大典太に数珠丸とか知ってるよ?
でも俺の中では正宗が一番。
理由はと聞かれたら、そんなものはないと答えるしか無い。
敢えて言うなら、博物館で見たとき、綺麗と感じたのがきっかけかもしれない。
けっしてゲームで最初に覚えた名刀の名前が正宗だからではない。
そこは先走りして決めつけないで欲しい。
おっと、同行してくれてるイケメンドワーフ君の名前を伝えてなかった。
彼の名前はイワンという。
ちなみに、独身。独身のイケメンなんか特に危険だよ。
まあ、エルフの男性はほぼ全員がイケメンだから、いつもどこか敗北感を感じながら付き合ってる。顔や態度には出さないけどね。
彼曰く、「私は他の種族からはウケがいいのでドワーフには珍しく行商人やってますが、同族にはとてもウケが悪いんですよ。この外見のせいですかね」とか言っているがそれがどういう意味なのかよく判らなかった。
でも、話してると気さくで良い奴っぽい。
イケメンで気さくな良い奴……。あまり好きになれないタイプだね。嫌いにもなれないんだけどさ。
途中で休みを入れなければ六時間位で到着する距離。
だけど、六時間飛竜に乗りっぱなしというは慣れない人には辛いだろう。
ということで、あと二時間も飛べばドワーフの村という辺りで、小さな里を見つけたので、そこで休憩をとることにした。その街から少し離れたところに泉があったので、飛竜にはそこで休憩していてもらうことにした。
俺とイワンはその里で休憩できそうな飲食店に入り、軽食と安いワインを飲んだ。
たわいもない雑談していると、目の周り以外を覆った人が俺の横に立って
「お前は魔族か?」
と女の声がした。
俺とサラの父はデュラン族だが母は魔族と人間の混血。
だから、どう答えたら良いものかと悩んだ。しかし、俺と魔族との関係なんてよく判ったな。俺達から教えないうちに判ったのは今までエルザークだけだったのに。
「魔族とは言えないけど、魔族と全く無関係ではないかな」
「お前が関係する魔族とは妖魔族か?」
「いや、違う。妖魔族とは関係ないよ」
母の父親が魔族だったらしいが、確か、空魔族と母から聞いた覚えがある。
「嘘は言って無いようだな、ならば手出しはしないが、出来る限り早めにここを去れ。私はちょっと特殊でな。近くに魔族が居ると判るんだ。見えなくても判るから、隠れていても無駄だぞ」
「うーん、用の途中で長居するつもりはないけど、強制されるのは嫌いだな。それともここには魔族が居ちゃいけない決まりがあるのかい? そうなら別に逆らう気は無いが」
実際、ここに落ち着いて三十分も経ってないんだ。
「決まりはない。だが私は魔族が嫌いなんだ。憎んでると言ってもいい。この里には魔族が居ちゃいけない決まりはないが、魔族を殺しちゃいけないという決まりもないんだが、判らないか?」
腰に下げた剣に手をかけている。
うーん、どうしたものか。
雰囲気から、それなりの使い手とは判るが、俺の相手になるほどではないことも判る。
このまま仕掛けてくるようなら気絶させてしまうか。
多少腕に覚えがある程度で他人を脅す態度は気に入らない。いつでも自分の思い通りになるわけじゃないことを教えたほうがいいかもしれない。
そう考えながら、その女の目を黙って見ていると
「判らないようだな。今日ここに来たことを後悔しろ」
剣を片手で抜きざま、ヒュッと横に薙いできた。
俺は両腕に無属性の龍気を纏わせ、片手で剣を受け止めつつ、その女の鳩尾に空いた拳を突き入れる。
身体をくの字に折り、ゴフゥッっという声と共に吐瀉物を出して、その女は俺に向かって倒れてくる。しょうがないなあと言いつつ、女を片手で抱きとめた。
店には迷惑かけられないから、吐瀉物の掃除をイワンに頼み、飛竜が待つ泉へ先に行くと伝えた。
泉に着いて、とにかくこの女の顔を覆ってる布を外し、洗ってあげないとな。
……吐瀉物で汚れていて臭う。いくらこの女が先に手を出してきたのだとしても、この状態で放置するほど俺は鬼ではない。
わざわざ隠してる女性の顔を黙って見るのも気が引けたが、このまま汚れた状態で放っておくのも気が引ける。幸いここには俺しか居ないし、見るとしてもイワンくらいだ。後で俺が怒られるかもしれないが、どのみちこの女は俺を切ろうとするくらい嫌ってたんだから、更に嫌われようと構わない。
俺は女から布を取り外し、いつも携帯している水筒に泉から水を汲んできて布を洗い、そばにあった背の低い木にかけて乾した。
天候もいいし、いざとなったら火属性魔法で乾かしてもいい。
そのうちイワンが戻ってくる。その時にでもどうするか考えよう。
飛竜は綺麗好きで水浴びも好む。
急ぎの用事がないと知ると、どこかで水浴びしてくるくらいだ。
今日も目の前の泉で水浴びをしたのだろう。身体のあちこちが湿っている。再び乗る時、お尻の辺りが湿ってるのは気持ち悪いだろうから、この時間を利用して拭いておくことにした。
俺が鼻歌交じりに飛竜の背を拭いているとイワンが到着した。
「ゼギアスさん、この女は多分オルダーンの者ですよ」
慌てた様子でイワンは俺を呼んでいる。
「オルダーン?」
「ゼギアスさんは知らないんですね。オルダーンというのは……」
イワンは横で眠る女を気にしながらも説明してくれた。
十数年前、港町オルダーンと妖魔族の一部族との間で戦争があった。
その戦争はオルダーンの勝利で終わったが、敵の部族長は死に際に当時オルダーンに住んでいたおよそ三百名に向けて呪いを放った。
その呪いは、身体のどこかに火傷痕のような痣を作り、その痣は身体中にどんどん広がっていくという。そして身体全体に痣が広がるとその者は死んでしまう。
生まれる子供にもその呪いは引き継がれるので、そこの住人はオルダーンの外とは繋がりを切られてる状態だということだ。
「なるほどね。呪いか、それはちと可哀想だな。解呪は俺だけでもできるけど、痣の治療となると妹のサラやベアトリーチェ達の手助けが必要だな」
そうつぶやくと、ガバァァァァという勢いで女が身体を起こし
「か……かか……解呪できるというのは本当か!!」
ヨロヨロしながらも立ち上がり、俺に向かって歩いてくる。意識を取り戻し、俺とイワンの会話が聞こえたのだろう。
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