10、食器売りのゼギアス (その三)

 今日の成果をサラへ話し、お土産の服と売上の残りを渡すと、サラは大いに喜んでくれた。今日の売値の二倍でなら確実に毎回売れると俺の感想、マリオンも同じ感想だった……を伝えると、毎日二十個作ることにしますなどとサラは言い出した。


 だが、毎日、それも数を増やすと面倒なことになるとサラに伝える。


「お兄ちゃん、どうしてなの?」


「どんな商品でもその商品を商売軸にした商人達が居る。頻繁にかつ大量に売ると、そういう商人に目の敵にされるのは判るだろ? あと、良いモノを作る職人や入手してくる商人は、金持ちや権力ある人から見ると財産なんだ。つまり手元に置きたがるんだよ。いずれはお偉いさんから情報を入手するために、一人は相手方に入り込む者が必要になるだろうし、その際は御用商人として入るのも良いけど、今はダメだ。人が足りないんだからね」


 だから、今日の売上を考えると、一日十個すら作る必要がなくなったのであって、生産量を増やす必要もないし、たくさん売っちゃいけないのだと説明し、当面は週に二回売りに行くとも付け加えた。


 サラは納得してくれた。


 但し、今のところ原料のいくつかはサラの力なしに用意できる状況じゃない。ハーバー・ボッシュ法でアンモニア作るための設備は完成してるし、アンモニアソーダ法で必要な設備も用意した。メタンもバイオガスで取り出す予定……なのだが、脱窒が何度やってもうまくいかず、他のことを優先して今は中断している。きっとちょっとした何かが足りずに成功しないんだと思ってるが、そのちょっとしたことがなかなか見つからない。ああ、専門家に聞ければ楽なのに。


 なので、当面はメタンを作るためにサラの力を借りることはお願いした。


 しかし、良かった。

 これでいくつか余裕ができた。当面必要なお金を十分手に入れる目処がついたから、お金稼ぐことに集中しなくても良くなったし、サラも時間に余裕ができるはずだ。


 エルフ等にガラス工芸の上達するための時間が与えられたとも言える。

 生活に必要なお金はこちらで用意するから、じっくり技を磨いて欲しいと言えるようになった。


 何より、俺とマリオンがジャムヒドゥンまで行商に行かなくて良い日が増えた。

 俺達のスケジュールにいろんな予定を入れられる。


 マリオンには、神聖皇国の動きを監視してもらってる。彼女が居ない時はエルフに頼んでいるが、マリオンが居る時は彼女一人でほぼ対応できるから楽なのだ。それに戦闘神官が出てきたら、マリオンには判別できるので、俺が出るべきか否か決断しやすい。


 ちなみに、連絡は今のところ飛竜に乗ったエルフが主に担っている。

 神聖皇国側と泉の森までは飛竜が、泉の森には基本的にサラが居るので、俺の力が必要な時はサラが転移魔法や思念伝達魔法を使って俺に連絡することになってる。


 思念伝達魔法、これは俺とサラが転移魔法を訓練する間に生まれた魔法。目的地への生物を含む物体の移動を可能にするのが転移魔法で、目的とする人物のもとへ意思を届けるのが思念伝達魔法。物体を移動させるより魔法力負担がかなり低く繰り返し使用してもたかが知れている程度なので、相互に思念伝達魔法を使用した会話することが可能。


 但し、目的地が人物で、同じところにいつも留まってるわけではないので、目的地代わりに相手を特定できるモノが必要となるし、事前に捜索する必要がある。捜索も魔法で行うから、思念伝達魔法は単独では使用できない場合が多い。それでも使用者の魔法力次第で距離はかなり遠くても意思の伝達が可能というのは役に立つ。


 俺とサラはお互いに龍気を使える特徴があるし、兄弟なので相手の思考パターンなどを認識しやすい。また今のところはお互いのスケジュールを伝えあっているので、相手の所在地も把握しやすい状況だ。


 マリオンとベアトリーチェにも練習させているし、いずれは魔法を使える多くの者に使えるようになってもらいたいと考えてる。使える人が増えたら、思念伝達網を張り、誰もが連絡しやすい環境を整備するつもりでいる。手紙のような日常的に使うプライベート情報での利用は無理でも、急報のような情報なら誰でも利用できるようにしたい。


 将来の目標は置いておいて、俺とサラ、そしてマリオンとベアトリーチェの滞在地はできるだけお互いに把握しておける状態にし、連絡取りやすい体制にはなっている。


 ということで、翌日ドワーフの集落へ行くこととその理由をサラに説明した。


「お兄ちゃん、どうして刀鍛冶が必要なの?」


 現物を見ていないサラに刀の魅力を判って貰えないのは判る。

 だが、刀は男のロマンというこの気持ちは是非判ってもらいたい。


 だから力説した。

 もう恥も外聞もなく、刀そのものの機能や美しさなどの素晴らしさとその刀を所持する格好良さに男が憧れる気持ちを言葉だけじゃなく動きもそえて力説した。


 しかし


「お兄ちゃんは自分が刀を欲しいから、その人を仲間に引き入れたいのね」


 まあ、そうなんだが、間違ってはいないが、そんな身も蓋もない言い方されちゃうと寂しい。俺の好きなことや嫌いなことをよく理解して、その上で俺がやりたいことを優しい言葉で後押ししてくれる(女性関係は除く)サラが、刀に何の興味も感じていない上に、俺のこの刀への熱い思いもどうでも良いと考えてることもよく判って寂しい。


「でもドワーフのところへ行くのはいいことよ。顔見知りの種族を増やすことに反対はしないわ」


 俺のロマンはどうでもいいが、実利に繋がりそうだから良いというそんな冷静な態度の妹。


 ……うん、許してくれるならそれでもいいよ。

 いいさ、家に帰ればベアトリーチェが笑顔で俺の気持ちを後押ししてくれるはずだ。


 期待を胸に帰宅した。

 だけど、予定通りというかお約束通りというか……。


 今日はベアトリーチェに急用が入り、今夜は別のエルフのところでマルティナと共に一泊してくると置き手紙が我が家の扉に挟んであった。


 くそっ……今夜はダンゴムシになってやる……。

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