7、神龍エルザーク (その二)

 えええ! こんなデカイ龍がそばに居たら、目立つし邪魔だし、俺は何もできなくなるんじゃないか?


「あの? エルザークは大きいから、それは困るんだけど……。他の条件じゃダメですか?」


「我のように存在と虚無の意味を知る者は、自身の身体の大きさや形などどうとでもできる。お前の望む姿や大きさになれば問題ないのか?」


 おおお、これはゲームにもよくあった設定だな。

 姿形や大きさを自由意志で自由に変える能力。


「そうですね。せめて俺と一緒に来ている者達と同じくらいの大きさ、できれば人の形であれば、貴方の条件を受け入れられます。あと……」

「何じゃまだ何かあるのか? 早く言ってみるが良い」

「一緒に行動するとなると……、エルザークの常識と俺達の世界の常識が違って問題が起きた時はこちらの常識に従っていただきたい」


「ああ、それも構わん。我がお前と共に居たい理由は、お前のこれからを見てみたいからだ。他には、退屈をしのげれば良いのでな。少なくともこの世界に直接干渉することはない。気になることが起きたらその都度話すが良い。受け入れられることならばお前に従おう」

「ありがたい」


 とりあえず、エルザークには人化してもらうことにした。

 このままでは平然としているサラはとにかく、挙動不審のマリオンが何か仕出かさないか不安だ。散々ビビった挙句に逆ギレして魔法攻撃とか十分考えられるし。


 早速、人化して欲しいと伝えると、エルザークの身体が白く輝き、みるみる小さくなっていった。輝きがおさまると、そこには俺と同じくらいの大きさの男性がいた。


 腹立たしいが、俺よりイケメンなのは間違いない。

 渋いダンディな四十代男性に見える。

 年上好きの女子に騒がれそう。


 黒髪にやや褐色の肌、瞳は金色のまま。身長は俺と同じくらいだから百九十センチくらいか。


「これでどうだ」

「あ、私達にも言葉が判る」


 一連の状況の変化を見守っていたサラが言う。

 人化したエルザークの言葉はサラやマリオンにも判るらしい。


 俺は何が変わったのか判らないのだけど、後でエルザークに聞いてみよう。


「やっとこれで私にも出番がありそうですわ……」


 いや、マリオン。

 ここで君の出番は多分ないよ。

 とりあえずこの場では、もう話は終わりみたいなもんだし、戦いもないんだよ。


 二人には帰り道に説明するからと言って、この場は大人しくして貰うよう頼んだ。


「それでこれからどうするんじゃ?」


 俺はエルザークにこれからの予定を説明した。

 この辺りを拠点として国を興すのだから、生産や防衛の体制も整備しなくてはならない。やるべきことはたくさんある。


 だが、俺の独断で決められるわけではない。

 今後を睨んだ組織を作り、意思決定のシステムも決めなければならない。

 とりあえず、拠点として利用できる場所が見つかったのだから、一つ一つ課題を越えていけばいい。


「要は、具体的なことはまだというわけじゃな。何、我は別に構わんよ。あと我の眷属も自由に使うがいい。奴らも暇じゃったからな。身体も鈍っておるじゃろう。いい機会じゃ存分に働かせてやってくれ」

「眷属って?」

「外で見なかったか? 飛竜じゃよ。人化はできんし、あ奴らの言葉はそこのゼギアスとやらと我しか判らぬであろうが、お前らの言葉は理解できるぞ」


 ここに来るまでの間に飛竜の姿はまったく見かけなかったと言うと


「あ奴らめ、ダラケておるな。ククククク、久しぶりに躾てやらねばなるまい」


 悪い顔をしてエルザークがニヤリと笑っている。

 神龍の躾がどういうものか想像できないが、きっと恐ろしいものなんだろう。まあ、それは俺には関係ないから知らなくてもいいのだけどね。


 とにかく俺達は拠点と神龍、そしてその眷属を手に入れることに成功した。あまりに呆気ないので、本当にこれでいいのか? と少し心配だ。ここに来るまでの俺達の緊張を返せと言いたい気もするが、まあ結果良ければ万事良しと考えよう。


◇◇◇◇◇◇


「眷属共を躾てくる。なに、一時間程度で戻ってくる。お前らはこの辺りを調べるのだろ? 好きにしておれば良い」


 そう言ってエルザークがどこかへ消えたあと、神殿と神殿の周囲を調べることにした。エルザークが戻るまで神殿の中をサラとマリオン、神殿の周囲を俺が調べる。


 当初は、この辺り全体を探索するつもりだった。だが、予想以上にかなり広い地域だった。おおよその見当では泉の森の十倍以上の広さのようだから、予定を変えて、エルフ等と相談して開発したほうが良いとサラとマリオンと相談して決めた。


 決して面倒になったからではない。


 草食獣、肉食獣、魔獣は多く、当面食の心配はなさそうだ。

 だが先々を考えると、生産の基礎を固め、徐々に拡充していき、大勢がここに住んでも食の心配が無い状態にしなければならない。


 亜人や魔族の争いはほぼ食料問題に起因する。


 食糧問題の解決こそ、グランダノン大陸南部をまとめるために必要不可欠の課題だ。


 ノーフォーク農法の導入は当然必要になるし、糞尿処理のための下水道設置や衛生的な社会構築に必要な技術や設備も必要になるだろう。ノーフォーク農法に適した作物は調べていけばなんとかなる気がするけど、上下水道は必要だと判っていても、整備するための技術や知見が俺には無い。


 とにかく人だ。人を集めなければ。

 一段落したら、やはり旅に出て有能な人材を集めよう。


「お兄ちゃん。そろそろ一時間経つから戻ってきたよ」


 神殿の階段を下りながら、サラが俺に声をかけてくる。マリオンは何かを手にして階段を下りてきた。


「何を持ってるんだ? マリオン」

「お宝~と言いたいところだけど、多分、この神殿で仕事してた人の日記じゃないかしら」


 ふむ、いつの時代のものかは判らないが、この神殿のことを知る手がかりになるかもしれない。


「で、マリオンが解読するのか? 多分、字読めないだろう?」

「悔しいけれど、その通りよ。でもどんな情報でも欲しいじゃない?だから持ってきたんだけど……」


 褒めてもらえるかもと思っていたのかもしれない。

 急にシュンと意気消沈してるマリオン。

 減らず口をいつものように返してくると踏んでた俺は慌てた。


「いやいや、マリオンの言う通りだ。俺も読めないだろうから、どうしようか?」


 サラに顔を向けると


「読めそうな人や解読できそうな人も探すしかないでしょう」

「そうだな。とにかくいろんな面で人が足りない。質量ともに足りない。さっきもそれを考えていたんだ。人探しの旅を早めに始めなくちゃいけない」


 内心では”呼ばれし者”の中に、地球の近代以降から技術や知識を持った人が居たらいいと思っていたし、近代以前でも偉人レベルの人が来ていたら助かるなぁなどと思っていた。


 ◆求む”呼ばれし者”

 ・採用条件:呼ばれし者で健康であること

 (年齢・性別・種族、別世界での職種・経験年数・生存年代:問いません)

 ・採用試験:なし

 ・雇用形態:正規雇用

 ・待遇:応相談


 こんな感じで大陸全土に募集かけたいもんだ。

 呼ばれし者はそう多く存在しないらしいのだから、募集に応じてくれた人は全員雇用したい。


 でも労働時間がなあ……労働基準法みたいなもの作っても守れそうもないよな。


 などと俺は現実逃避していた。  


 まあ、とりあえず情報をコツコツ集めるしかない。


「待たせたな」


 上から声がする。

 飛竜に乗ったエルザークが降りてきた。

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