7、神龍エルザーク (その三)
エルザークを乗せた飛竜とあと二頭の飛竜が俺達の前に降りる。
「お前等も乗れ。歩いて帰るより随分楽じゃぞ」
そりゃそうだね。
横を見ると、サラもマリオンも目をキラキラ輝かせている。飛竜に乗ってみたいのだろう。その気持は判る。
でも手綱のようなものが見当たらない。落ちたりしないのか?
「手綱がついてないけど大丈夫か? 鞍がないのは仕方ないけどさ……」
俺が抱いている心配を口にすると
「手綱とは何じゃ? 」
飛竜に掴まるところが無いと簡単に落ちてしまうから掴めるものが必要なのだと説明した。
「なるほどな。では、崖に生えてるツタでも取ってくるが良かろう。今回はそれで間に合わせられると思うがどうじゃ?」
エルザークの提案に賛成して、俺は太く丈夫そうなツタを選んで切り取ってきた。
飛竜の首に一回り巻いてから、サラやマリオンが掴まれるよう輪を作る。
「よし、皆乗るがいい。道案内は……」
「それは私がします。私が示した方へ飛んでください」
サラが方向と着陸地点を指示するというので従うこととなった。
一頭にエルザーク、一頭にサラと俺、もう一頭にマリオンが乗った。
「では飛竜さん、お願いします」
サラのその声を合図に三頭はその場から飛び立った。
◇◇◇◇◇◇
「ふう、これはとても楽ね」
行きはほぼ半日かかった道のりが、飛竜に乗ると二時間もかからずに移動できた。
マリオンが嬉しそうに言うのも判る。
泉の森の外れに降り、そこからは歩いた。
皆が居る所へ龍が降りたら大騒ぎになる。
なので少し離れたところから移動している間に、サラにはアルフォンソさんへ事前に龍を連れて行くことと安全なことを伝えて貰う。
向こうにも、皆への説明や、心の準備なり、子供達を家に戻すなり時間が必要だろう。俺達はのんびり向かうことにした。
俺はエルザークに神龍とはどういう存在なのかを訊く。
神龍とは、この世に一頭しか存在しないのだという。
別に複数いちゃいけないということではなく、非常に稀な存在だから、過去エルザークが生まれる前にも一頭しか居なかったらしいとのこと。エルザークの前の神龍がこの世界から他の世界へ旅立ったあと、その時点で龍王だったエルザークがその後神龍に進化したらしい。
先代はエルザークが神龍にまで進化すると判り、この世界をエルザークに任せ、他の世界を見てみたくなったのではないかと言う。
これからエルザーク以外の神龍が生まれたとき、エルザークはどうするのかと聞いたら、その時の気分次第だという。ただ、神龍が同じ世界に二頭以上存在するのは好ましくないらしい。理由は、神龍が龍王を含む龍達の頂点だから、二頭以上居たら指示命令系統がうまくいかなくなるという。そもそもこの世の理を理解し、更にその理を利用できる神龍まで進化できる龍は天文学的な非常に低い確率でしか存在しないとのこと。少なくとも今まではそうだったとのこと。
まあ、数千年以上の間にエルザークしか存在していないのだから、そうなんだろうな。
龍には、飛竜・火龍・地龍・水龍の四種がある。
飛竜は小型だが、飛行できるし、炎を吐く。
火龍は飛竜より大型だが、飛べない。飛竜より高火力の炎を吐く。
地龍は火龍と異なり雷属性のブレスを、水龍は氷属性のブレスを吐き、やはり飛竜より大型。
飛竜は、この世にたくさんいるが、それでも四百頭までは居ない。
火龍や地龍、それに水龍はそれぞれ五十頭も居ない。
飛竜を除く龍からは、進化して龍王を守る護龍が生まれる。
護龍は、龍王一頭にほぼ三頭か四頭。
護龍は進化前の火龍達と異なり、頭も良く、人化もできるようになる。
王と頂く龍王に仕え、龍王を守る。
護龍が進化すると龍王と呼ばれる龍が生まれる。
龍王はこの世に多い時でも二頭しか存在しない。
通常は一頭。
護龍の賢く強いモノのうちで、最も強い龍が進化して龍王となる。
龍王は、いわば神龍の意思を体現する存在。
神龍がこの世に直接関与してしまうと、結果も含めて全て神龍の自由になってしまう。そんなことは許されないと先代の神龍もエルザークも考え、この世に直接関わることを極力避けているのだそうだ。稀に龍王が暴走したときに直接手を下したことが一度あったらしい。
エルザーク曰く、この世を自分の思い通りにしようという龍は神龍になれないだろうとこと。
なんとなく判ったような判らないような、俺はそんな気持ちでエルザークの話を聞いていた。
「じゃあ、神聖皇国の守り神ケレブレア様は、どういう龍なんでしょうか?」
マリオンがエルザークに質問する。
その口ぶりから護龍か龍王なのではと期待しているんだなと感じた。
まあ、最近までケレブレアを信仰する国教で国民を統べるリエンム神聖皇国で神官やってたんだから当然の反応か。
「あれは、はぐれ龍だな」
「はぐれ龍?」
「ああ、龍王に成れなかった護龍のうち、たまに新たな龍王の支配下に入ることを嫌って、龍の社会から飛び出る龍がいる。それがはぐれ龍だ」
「ケレブレアはそのはぐれ龍なんですか?」
「ああ、だから人間社会に直接介入し、思うがままに振る舞ってる。そのうち龍王の怒りに触れるかもしれん」
「龍王が直接攻めてくるんですか?」
「いや、そうはならんだろう。そのためのリエンム神聖皇国だ。いわばケレブレアを守る人の壁だ。戦闘神官とやらは、龍王にとっての護龍のようなもの。龍を従えられないから人を従えておる。愚かなことだ。龍王の下につかなくても、一人で社会から離れて生きれば良いのだ。だが、それができない。できない奴だからいくら能力が高くとも龍王になれんかったというのに」
エルザークは溜息を一つついて、ヤレヤレとでもいった風に頭を横に振っている。
マリオンは、戦闘神官はケレブレアにとっての護龍であり、リエンム神聖皇国はケレブレアにとっての人の壁だと聞いて青ざめている。二十年ほど生きてきた間、信じていたことの事実が、想像していたことと大きく違ったのだから仕方ないだろう。あとで慰めてやるか。
「では、龍王はどのようにしてケレブレアにお仕置きするのかな?」
「ケレブレアを倒せるような誰かを育てるのよ」
俺の質問にエルザークは即答する。
「いわゆる邪龍を倒す勇者を育てるみたいなもんか」
前世で遊んだゲーム知識が出てしまう。
「まあ、そのようなモノだな。他人事のように言ってるが、お前がその勇者とやらに選ばれるかもしれんのだぞ」
「俺はリエンム神聖皇国を倒そうとかケレブレアを倒そうとか考えてないよ。ただ、亜人が奴隷にされるのが嫌だから喧嘩を買うだけで。向こうがこっちに手出ししてこないなら、俺はそれでいいんだ」
「それだけの力を持つのに大人しいな。お前は我のところまで到達できはしないだろうが、近いところまでは到達できる資質を持っておるのだぞ?」
「俺は好きな女や仲間と楽しく生きられればそれでいい。国を造るのも、俺の希望を奴らが邪魔するからだ」
「まあ、良い。好きにするがいい。お前が今のまま変わらずに居られるのか、それとも変わるのか、それも見てみたいしな」
こちらにサラが駆けてくる姿が見えた。
「お兄ちゃん、飛竜はこの辺りで待ってもらいたいって」
「お前らは静かに寝ておれ」
エルザークの指示に従ったのか、寝そべって目をつぶる飛竜達。
神竜エルザークを伴い、俺達はアルフォンソの家に向かった。
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