19、幾つかの課題 (その三)


「今日から、その、二人には俺のそばに居てもらいたい……んだが、いいかな?」


 俺の言葉を聞いた二人はお互いに顔を見合わせた。


「それってダーリンの女にしてくれるってことかしら?」


 マリオンが今にも抱きついてきそうな表情で聞いてくる。

 ああ、人間は雌とは言わないんだな。


「あ、ああ、そうだ」

「私も一緒にでいいんですよね?」


 サエラも既に臨戦態勢だ。


「う、うん……そういうことだな」


 マリオンとサエラは小さくガッツポーズしてる。

 やけに気合が入った肉食獣を目の前にしてるようで、俺はちょっと腰が引ける。


「それと、しばらくは、もしかするとずっとになるけど、贅沢させるような余裕はないんだけど……?」


 返ってきた答えはベアトリーチェの予想通り。


「あら、逆に私達がダーリンを養ってあげますわよ。ダーリンの女でいられること以上の贅沢なんか要らないわ」

「そうですよ。主様の雌になれるのですもの。主様が贅沢したいのでしたら、私、何をしてでも贅沢させて差し上げますわ」


 魔族は雌というのか。


「いや、俺のことは俺が稼ぐからいいんだよ」


 どうも男として甲斐性見せなければならない気がして、彼女達の言葉を素直に受け止められない。


「フフフフフ、そんなに心配しないで大丈夫よ、ダーリン。困らせることはしないから……あ、ベッドの上では多少は良いわよね?」

「私もです。サキュバスが受け継いできた秘技の数々で主様に尽くします。ええ、尽くしますとも」


 マリオンはジュルルと涎をすすってるし、サエラも滲み出るフェロモンを隠す様子もない。

 二人とも喜んでいるのは良かったと思うんだけど、異常に気合が入っているのが怖い。


 だいたい、俺を困らせることって何だよ。

 それに秘技の数々って、俺……社会復帰できなくなるんじゃ?


 ゴルゴンにはその気にならない男をその気にさせる技がある、試したくなったらいつでも声をかけてくれと、スィールが明るく言っていた。人間とは違って魔族にはいろいろ技があるようだ。正直、試そうとは思わなかったけどね。

 何か怖いじゃない?


 ましてやサキュバスの秘技だよ?

 想像もできない。

 つい期待で……いやいやいや、これ以上考えたら負けだ。


 俺が二人をぼんやり見てると、ベアトリーチェが近寄り三名で抱き合っている。清らかな雰囲気のベアトリーチェ、色気の塊マリオン、可愛らしい仕草のサエラ。外見や雰囲気はそれぞれ違うけど、美しい女性達に好かれて嬉しいのは嬉しいのだが、夜のことを考えると喜んでばかりじゃいられない。だって、目の前に居るのは飢えた肉食獣達なのだから……。


 まあ、俺には聖属性と闇属性の龍気がある。

 いざとなったらそれらを使って、彼女達を疲れ果てさせるだけだ。

 睡眠不足は身体に毒だからね。


 俺に側室二人ができた経緯は以上である。


 けっしてベアトリーチェ以外の女性を強く望んだわけではない。

 いや、ゴメン、期待がなかったわけじゃないけど、積極的に側室を作ろうとしたわけではないに言い換える。


 しかし、面白いもんだよね。

 初夜の翌日以降の態度が、二人で大きく異るんだ。


 マリオンはそれまでのドS発言が減って、大人しくというかやや可愛らしくなった。

 表に出ると今までとほぼ同じなのだが、家に戻ると違いが出る。


 サエラは逆でこれまでは人前や俺の前に出ると恥ずかしがってたのに、少なくとも俺の前では自信ある態度になった。


 あと、たまにベアトリーチェを加えた三名でいろいろと楽しげに話す様子を以前より頻繁に見かけるようになったな。一緒に暮らしてるのだから不思議ではないのだけど、その笑顔、特に……話しながら俺に向けるマリオンの笑顔がやけにエロいのが気になる。


 何を話していたのとベアトリーチェに聞くと、女同士でしか話せないキャッキャウフフな話しですよと返答があった。他の二人も教えてくれない。


 男同士でしか話せない話しもあることだし、女同士でしか話せないこともあるよな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る