51、フォモール族滅亡後日談(その二)

 奴隷の使役は今後認めないと国王オレジノが宣言したライアナは相当荒れた。奴隷を使役して領地を運営している者、奴隷の捕獲と売買で商売している者、それらの者達が反抗したのである。


 フォモール族滅亡を俺達が知らせた日、貴族を含む大勢の国民の前で、ゼギアスの横でオレジノが奴隷の使役は辞めると宣言した。その場では文句の一つも言えなかったのに、喉元過ぎればという奴であろう、やはり無理だと騒ぐ者が大勢出てきたのである。


 その話を聞いた俺は、オレジノの様子を見守ることにして一切動かずにいた。

 オレジノ国王の覚悟と意思を確かめたかったのだ。


 オレジノはかなり頑張ってる様子。


「ゼギアス国王との約束を反故にすると言うのなら、先日のフォモール族討伐にかかった戦費をお前達が払ってこい。あと約束を反故にするのだから違約金も払ってこい。国庫は北部再建でほぼ空だから払えん」


「約束を反故にしたと怒ってサロモン王国が攻めてきた場合、私は奴隷解放賛成派と一緒に逃げるぞ。フォモール族に手も足も出なかったのに、奴らを簡単に討伐したサロモン軍に勝てる見込みがあるのか?」


「フラキアもカンドラも、もちろんサロモン王国友好国の全てが奴隷を使役せずに、国を運営している。それなのにライアナではできませんとはどういうことだ? いいか? それらの国は我が国よりも、収益をあげてるのだぞ?」


 などと言って、オレジノ国王は奴隷解放反対派を突っぱねている。


 奴隷解放反対派貴族の多くは奴隷商人から賄賂を貰っていて、賄賂という利益が無くなると領地収入だけでは苦しい。新たなことにチャレンジして失敗する可能性を増やすよりも従前の体制のままで居たいのだ。


 オレジノはフラキアへ訪問した際に、カンドラの領主が感じたことと同じことを感じ、時代の流れに取り残されることを怖れていた。現状のままでは、近い将来オレジノを利用する客が居なくなると。フラキアのように生まれ変わるためには、サロモン王国の協力が必要不可欠。


 特に、同じ者でも、奴隷でいたときより一般の労働者として生活させたほうが生産性があがったし、街も明るくなったと、今まさに国内から奴隷を無くそうとしてるカンドラ国王フリーゼンの感想は、オレジノの奴隷の使役を認めないという姿勢を強く後押しした。


 だが、奴隷解放反対派もそうそう引き下がれない。理屈で勝てないなら実力でと、奴隷商人達から金を借りて傭兵を募りクーデターを起こそうと画策した。


 国王と長女カリンを殺し、奴隷解放反対派から次の国王をたてようと考えたのだ。

 国内の複数箇所で騒乱を起こすと、警備員が向かって鎮圧するだろう。その時宮殿が手薄になる。そこを襲おうと策を弄した。


 金で雇われた者たちが、”奴隷解放などすれば食べていけなくなる”などとデマを流し、サクラ役が住民を煽り、各地で騒乱は起きた。民の動揺を抑えるため、警備員達はデマを正していくのだが、時間がかかっている。奴隷解放反対派の目論見通りの流れが出来、あとは国王と長女を拉致するか、殺害するだけという段階となった。


 だが、宮殿に押し入った者達は、自分達がフォモール族と同じ目に遭うかもしれないとは判らなかった。宮殿の門番にはコカトリスを引き連れたゴルゴンが二名居て、騒いで門を破ろうとした者は問答無用で石化された。


 宮殿の周りを囲む壁を乗り越えようとした者は、上空で巡回監視しているグリフォンに咥えられて門番のゴルゴンのところで落とされやはり石化される。軍を常駐させるのは無理でもグリフォン二頭とゴルゴン四名、コカトリス四頭、そして石化解除役のエルフ一名を常駐させるくらいは人手不足のサロモン王国でも可能だ。


 フォモール族に対してのように石化後に破壊などしないが、サロモン軍がフォモール族にした情景を大勢が見て知っていたため、石化されたら終わりという恐怖がそこにはあった。石化された者は後に一人づつ石化解除され、警備員の尋問を受けることになる。そしてクーデターに関わった貴族たちは捕まり領地没収の上処刑されていった。没収した領地は、奴隷から解放された者達に安く貸されるようになる。


 この頃からゼギアスはライアナの主力産業としてトウモロコシを推奨し、栽培支援を行うようになった。ちなみにカンドラには米を主力産業に推奨している。

 これによりザールートの小麦と合わせて、二十一世紀の地球での三大穀物の産地を分けて揃えることになる。種や籾はサロモン王国の提供……もちろんゼギアスが地球から持ってきたものだ。ライアナ、カンドラ、ザールートの三国で穀物市場を握ってしまえというゼギアスの目論見である。そして……ライアナのトウモロコシのおよそ三割はバイオマスとしてバイオエタノールを生産する予定。

 将来のエネルギー源として開発するつもりなのだ。


 フフフ……蒸気機関は既にあるから、鉄道を走らせる必要も見えてきた。

 転送魔法や飛竜やグリフォン等による空輸だけだと輸送量に限界があるので、鉄道は何とか敷設したいのだ。


 原料生産は各国に任せ、製造をサロモン王国が一手に引き受けるというか、ここだけは他に一切渡さん。例外はフラキアの紅茶……これからは各種緑茶も……くらいなものだ。あそこだって関係者以外には製造法は伝わらないように工夫している。そして商品は各国にのみ卸すから、一般の方への販売益は各国に入るようにする。


 サロモン王国友好関係国以外では、同じ作物を栽培しようとしても困難な理由がいくつかある。一に肥料、ニに土壌改良、三に害虫駆除と病害防除である。肥料を大量に生産できるようになり、土地面積辺りの生産量が大きく向上してる。要は、友好関係国にしか肥料を売らなければ、同じ作物を栽培してもコストが高くなるので競争力に欠ける。しかも友好国の場合、販売先でサロモン王国という大口がある。


 土壌改良や害虫駆除等のお手伝いもサロモン王国では友好関係国には安く提供している。地球で手に入れた知識を土台として、この世界でも数年に渡って実験研究してきたのだ。真似しようとしてもまず無理でしょう。


 フフフ、我がチームは圧倒的優位にあるのだ。


 とにかくオレジノが奴隷の使役を止め、現在可能な範囲で公平な社会を目指す姿勢は判ったので、ライアナの再建に少しづつ協力することにした。

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