22、ゼギアス後悔する(その一)

 グランダノン大陸南部は広大だ。

 地球で言えばアフリカ大陸ほどもある。


 自然は豊かで、この世界ではまだ注目されていないけど資源も豊富。

 だが、そこに住む亜人や魔族は、過去しばしば争いあい、その数が増えることはなかった。幸か不幸かそのおかげで食料の調達に困る種族は少ないはずだった。


 だが現実は違った。

 龍やその他の怪物が住む地域も多く、亜人や魔物はそれらの影響を受けない地域での生活を余儀なくされている。


 亜人や魔物が入り込まなかった地域の一つ、通称神殿の森。神殿には龍が住み、その配下の飛竜達がその地を守っていると言われていた。この森はグランダノン大陸南部で最大の森林山岳地帯でグランダノン大陸南部のおよそ五分の一ほどの広さを持つ。太古の時代には、ここに国があったという伝承もあるが定かではない。


 そこに今一つの新たな国が生まれようとしている。


 ゼギアス・デュラン。

 後世、神にもっとも近づいた王と呼ばれ、新天地の王とも呼ばれることになるこの男が今、育ての父サロモンから名を借りたサロモン王国を神殿の森に建国し、初代の王となる。


◇◇◇◇◇◇


 サロモン王国建国の噂は、グランダノン大陸全土に衝撃を与えた。


「我が国民、我が同胞たる亜人や魔族を奴隷とすることは決して認めない」


 この宣言は、奴隷が社会資本の一部であり、重要な労働力であったリエンム神聖皇国とジャムヒドゥンにとって見過ごせないものだった。今までは、奴隷など亜人狩りでいくらでも調達できるものと考えていた両国は、今後手に入れにくくなる事態を重くみていた。


 ただ、リエンム神聖皇国とジャムヒドゥンでは事情が多少違う。


 リエンム神聖皇国の奴隷は全て亜人、魔族、もしくは亜人や魔族の血が混じった者に限られていたのに対し、ジャムヒドゥンでは亜人達だけでなく、人間の一部……占領された際に捕らえられた者や経済的困窮などで奴隷に身をやつした者も多く居たため、サロモン王国の誕生が生む影響への危機感が違うのだ。


 これはサロモン王国の宰相となったヴァイスハイトの進言によって、現時点では奴隷制度の撤廃は時期尚早とし、人間の奴隷については触れないことに決めた。


 目的は、二つ。

 当面、リエンム神聖皇国とは戦い、ジャムヒドゥンとは、現時点では完全な敵対はしない。両大国と同時に戦う機会を減らす必要がある。


 そもそもリエンム神聖皇国とジャムヒドゥンとは現在も交戦中で、両者が手を結ぶ可能性は高くない。もし、サロモン王国の誕生により、圧倒的な不利益を被るリエンム神聖皇国とそこそこ不利益を被るジャムヒドゥンとの間でサロモン王国への共同した戦争を起こすための休戦協定を結ぶような事態が生じたなら、ジャムヒドゥンに有利な条件が求められるだろう。


 ジャムヒドゥンは、条件にいくつかの村落を求め、ジャムヒドゥンで足りない奴隷を補おうとするだろう。そうなった場合、サロモン王国へ共同で戦争を仕掛けたとしても、ジャムヒドゥン側は戦うフリだけで本気では向かってこない。何故なら、リエンム神聖皇国とサロモン王国の戦力が削がれたなら、漁夫の利を得られる可能性が高くなるからだ。


 二大国間に溝を入れるのが目的の一つ。


 また亜人や魔族の奴隷を確保しにくくなったとしても、奴隷制度ありきで成り立っている社会を既得権を持つ者達が変えることなどない。するとリエンム神聖皇国でも人間を奴隷とする状況が生まれるだろう。そうなれば、人間だから奴隷にはならないと考えて生活している多くの人達に恐怖や不満がたまる。それは国内に不安定な状況を生む。反乱なども状況次第で起きる。それは国力の低下に繋がり、リエンム神聖皇国の弱体化を生むだろう。


 リエンム神聖皇国の弱体化を狙うのが目的の二つ目。


 そのために、奴隷制度そのものより、奴隷にされてる種族を問題視する姿勢を見せたのだ。ゼギアスとしては本来気に入らないのだが、ヴァイスだけでなくその他の者達からも何度も説得されて渋々納得した。


◇◇◇◇◇◇


 サロモン王国は、神殿のあった場所を中心とする”グローリー オブ エルザーク”を首都とした。”グローリー オブ エルザーク”では長いから、皆略して”首都エル”と呼ぶ。ゼギアスもだ。各地に散らばっていた里の人達をここに集め、仲間となった各種族からの移住希望者も多数で、現在は人口二十万人ほど。


 だが、日増しに増えてるので、嬉しいのだが住居等の準備が追いつかず、経済担当してもらってるラニエロはいつも顔を青くしている。アロンが連れてきてくれた人材からも数人補充したのだが、事務処理は増える一方。都市政策担当を誰かに専任させたいのだが今のところ適材は見つからずにいる。早く見つけないと、ラニエロが泣き出しそうで心配だ。


 そして、エルフの各部族、ドワーフ、厳魔、アマソナス、デーモン各部族、更に続々とサロモン王国に参加希望する種族達の生活圏を領土とし大きく広がった。グランダノン大陸南部のおよそ半分がサロモン王国領土である。


 但しその領土内には、オーガやトロールなどの未だ非友好的種族の生活圏もある。また、龍が怖れられていたように同じく怖れられている怪物の生活圏もある。これらは領土内の安全を確保するためにも対応が急がれている。建国にあたって軍務を統括することとなったアロンが担当し、現在検討中である。


 現在、グランダノン大陸南部にある未接触の亜人や魔族等のところへは、今後使者を送り、協力関係を可能な限り結んでいく予定。これはジズー族元族長マルファに臨時の外交官役を務めてもらい、ヴァイスの指示のもと順次交渉してもらう。外交は宰相のヴァイスに兼務して貰っている。ここに人材が足りないのが最も頭が痛い。


 財務関係はシモーナに任せている。当初はもっと忙しく大変な部署だと考えていたのだが、食料も資材資源も自給自足で調達可能なうえ、最大の問題になると考えていた人件費がさほど増えなかった。理由は、住居と食料さえあればその他は要らないと考える者が国民のほとんどだったから。亜人や魔族すげえ。


 俺は、”今のところはとても助かる。だが数年後には必ず皆が自由に使える給与を渡すから”と言ってる。だが、元の生活と比べると、敵に襲われる心配はないし、決まった時間以外は働かされることもない。住居や食料は安く提供されているし、お金が多くあっても使うモノも思いつかない。だから気にしなくていいと返答がくるのだ。


 うーん、今までは生きるだけで精一杯だったからそう言ってくれるのだと思う。だが、俺としては皆に生きることを少しでも楽しんで貰いたい。ガラス工芸でも陶芸でもその他のどんなことでもいい。自分が働いて得た給料でもっと楽しんで生きて欲しいと思うんだ。


 まあ、あと数年は皆の気持ちに甘えるだろうけれど、数年後にはガンガン働いてガンガン生活を楽しむようになって貰えるよう、俺は頑張るつもりだ。


 相変わらず人材不足で困ってはいるが教育も何とか進められているし、諜報関係もアロンが連れてきてくれた中のモルドラという人間が中心となって整備しているようだし、国も徐々に整っていくだろう。



 港町オルダーンにも触れておこう。


 あくまでも辺境の一都市に過ぎなかった港町オルダーンだが、俺達は国として接することに決めた。国として認める必要があったのかといえば、オルダーンには無く、サロモン王国にはあった。うちと共同研究している様々なモノがあるオルダーンには、法令なども整備して貰う必要があったし、他国との交渉の際、オルダーンに間に入ってもらう必要が出た時、単なる一辺境都市のままでは都合が悪かったのである。


 現領主のコリン・ソルディーノと相談し、コリンを国王とする小国オルダーンが誕生することとなった。

 同盟国となったオルダーンには、うちの農業製品、工業製品をうる店舗が置かれ、またサロモン王国への公式的入出国可能な管理所を置かせて貰っている。その為、大陸中から移住希望者や旅行希望者がオルダーンに訪れている。


 また以前はサバトルゴイまで出かけて売っていた商品も、オルダーンでのみ売るようにした。我が国の商品を求める者達がオルダーンへ集い、お金を落とすようになるのに、そう時間はかからなかった。


 様々な国から様々な種族、様々な職業や階級の人が集まると、治安が悪くなったり、トラブルが起きやすいのだが、アンヌとゼルデが責任者となり取り締まっている。問題を起こした者には入国禁止だけでなく罰金や投獄もある。


 だが、俺は甘かった。

 奴隷を欲しがる者にとって、オルダーンは効率よく亜人を攫える最後の場所になっていたのだ。そのことに気づくのが遅かったために、俺は心底後悔するハメになる。

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