53、出産と伝染病(その二)
エドシルドの宮殿前に到着した俺達は、門番に訪問の約束がある旨を伝えた。
俺達のことは連絡されていたようで、そのまま中へ案内される。
俺とヴァイスハイトは、黒を基調とした腰まわりにグレーのラインが入った、リエラがデザインしたちょっと王族風のスタイル。ベアトリーチェは白のマリオンは薄いブルーの、インドのサリーのような薄い生地でできたワンピースドレス。
エドシルドでは見かけない衣装だから目立ってるようだ。
特にヴァイスは厳魔なので物珍しいのかいろんな人がジロジロと見てる。大陸全土で見ると厳魔は個体数少ないからな。だが、そんなことで動じるヴァイスではなく、その長い金髪をたなびかせて一番うしろを歩いてくる。
俺達は小さな会議室のような場所に通された。
着席して待っていてくださいと言うので、俺の左右に王妃、そしてマリオンの隣にヴァイスという形で座った。普通応接間じゃないのかねぇと思っていたら、やはり通す部屋を間違えたようで、何度も謝罪されながら応接間へ通された。「些末なことだから気にしないように」と温和な笑顔を作って伝えておく。
他国での好感度あげるためには、ちょっとしたところでの気遣いが大事だよね!
あざとい?
……聞こえないなぁ。
応接間には既に国王夫婦らしき人と政務関係者らしき人が待っていた。
俺達は、部屋を間違えたことを謝罪され、そしてあらためて挨拶を交わし、ソファに座った。
「本日わざわざ来て貰ったのは、是非会いたいと思ったからだ。ご足労かけて申し訳ない」
俺達は黙って頷く。
「エドシルドの加盟国にも貴国と友好関係を結んだ国も増え、私の国も貴国とは一度話し合いたいと思っておるのだ。この機にエドシルドにも助言助力いただけないものかな?」
ケラヴノスは俺の顔を真正面から見ている。
良い笑顔だが、まあ作り笑顔だろ。
「私どもの国は奴隷を使役する国とは付き合わないとご存知ですか?」
「ああ、知っておる。聞くところによると、貴国は奴隷を使役せずに国を営む手段をカンドラに教えたという。是非、我が国にもお教え願いたいものなんだが」
「しばらくは無理ですね。ご存知のようにカンドラ、何よりライアナの復興に人手を割いておりまして、どちらかの仕事が終わるまでは手を広げられません」
これは事実だ。けっして意地悪ではない。
ケラヴノスの空気が気に入らないとか、早くミズラのもとへ戻りたいとかそういう理由ではない。
「そこを何とかできぬものかな?」
出た、この手の奴は無理と言われるのが嫌いなようで、無理と言われると尚更押し通そうとしてくる。
「残念ですが」
その時、ベアトリーチェが俺に耳打ちしてきた。
”この城には流行り病にかかってる人が居るようです。”
ベアトリーチェは俺が話している間、広い地域で人の声を拾う魔法を使っていた。
結界魔法の応用なのだが、ベアトリーチェの聴覚を強化した領域を広げ、その領域内での会話はどんなに小さな声であろうと聞き逃さない。
「それより、この城では流行病にかかってる方が居るようですね。早急に対処しないと皆死にますよ?」
ベアトリーチェが聞いた情報から察するとペストだ。
隔離するなりしないと蚊や蚤を媒介して広がってしまう。
俺の言葉を聞いたアンダール皇太子が立ち上がり、”何故それを?”と訊いてきた。
「私の妻は二人とも医療行為も行うのですが、特に正妻のベアトリーチェは流行病を察する能力があるのです」
嘘を混ぜて俺は答えた。
使用した魔法のことなど教える必要ないからね。
……警戒されるのも面倒だし……。
「奥方は流行病を治療しているのか?」
「ええ、我が国では今はもう生じていませんが、近隣で生じた際には治療しています。まあ、うちの医師たちの誰かが治療し、妻が出向くことは滅多にありませんが」
俺はアンダールの問いに答える。
「正妻殿は……治療できるのでしょうか?」
「ええ、手遅れでなければ確実に」
これも事実だ。そのための魔法はベアトリーチェは全て使える。マリオンもいくつか使えるし、二人とも治療・回復魔法は得意で手遅れなまでに病状が進んでいなければ必ず治せる。ここには居ないが、もしサラも居れば命さえあれば治せるのだ。
目の前で国王と皇太子が言い争ってる。
「会談は中止し、ゼギアス殿に頼んで治療をお願いすべきです」
「……いや、しかし」
「ラスタとパティス、それにモニカの命がかかってるのですぞ? 父上!!!」
「それはそうなんだが、もう手遅れだと宮廷医師が……」
皇太子の声がどんどん大きくなる。もう怒鳴り声に近い。
国王は額に汗をかきながらも、俺への要求を通させたい意思で皇太子に抵抗している。
付き合うのが面倒になってきた俺は、
「どうするのか早く決めていただけませんか? 私も暇じゃないんで」
ミズラのところへ早く戻りたい態度ありありだった。そんな本音を察したヴァイスハイトがチラッと俺を責めるように見たが顔をそらした。……だって大事なのはミズラだものね。
「わ、わかった、アンダール。そなたの良いようにするがいい」
皇太子の必死な勢いに押され国王が折れたようだ。
「ゼギアス殿! 是非、診ていただきたいので、こちらへお願いいたします」
俺達のそばまで足早に近づいてきて、必死の形相で俺に頭を下げてきた。
「判りました。リーチェ、マリオン、一緒に来てくれ。ヴァイス、国王と話すことがあるなら任せる。内容はあとで報告してくれればいい」
俺は皇太子の後をついて、宮殿の奥へ入っていった。
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