53、出産と伝染病(その一)

 地球でしばしば語られるように、中世以前の女性の死因の第一位はペストで第二位は産褥死さんじょくしである。医療が未発達の時代、子供の死亡率は高く、二十歳まで成長できるのは五割を少し越えるくらいだった。結果として、多産が当たり前となり多産多死の状況が生まれた。


 十七歳で結婚し、およそ四十歳までの間に七回から十回の出産を経験したらしい。

 出産は女性にとってリスクある行為で、二年おきに出産を経験するのでは産褥死が死因第二位だったのも頷ける。


 この世界でも地球と似たような状況であった。

 治癒・回復魔法を使える者が多く、また妊娠確率が低いエルフを除くと、亜人の女性も人間と同じく多産多死傾向。魔族はもともと妊娠確率が低い上に、生存率もそう高くない。


 サロモン王国では、エルフで治癒・回復魔法を使える者のうち軍に所属しない者には医師として働くことを願い、各地で助産の仕事もやってもらっている。

 最近では魔法力を持つ亜人の中でも治癒・回復魔法使える者を増やそうと医師のエルフに同行させ勉強させている。


 魔族専用の医師も最近は少しづつ増えている。様々な魔属性の治癒・回復魔法が魔法研究所で開発されたので、デーモンやゴルゴンだけでなく、さほど強い魔法を使えないハーピィやラミアの中からも医師が生まれている。


 サロモン王国の種族構成は妊娠率が低い種族が多いので、産婦や生まれた子供のケアは国の死活問題なのである。


 だから俺の家で子供が次々と生まれるのは、国民にとって素晴らしい喜びらしい。子供の居ない夫婦などは俺の姿を見て拝むし、結婚する気はなくとも子供は欲しい魔族の女性には、是非妊娠させて欲しいと俺に迫ってくる者もいる。


 当たり確率の高いパチンコ台じゃないと言いたい。だが、ミズラの妊娠のあと、サエラにスィール、そしてリエッサにも懐妊の兆候があり、確変パチンコ台状態に見られても仕方ない状況。俺のそばに居るだけで妊娠しやすくなるだとかデマが広まっているようだ。


 ……視認できる妊娠の神のように接するのは止めて欲しい。


 ちなみにペストなどの細菌やウィルス対策として、害虫駆除魔法の応用で体内から駆除できる魔法が開発されてるのだが、多少困難な術式が必要で使用できる者が限られている。だが、害虫駆除魔法と同じく広い地域を対象に使用できるので、個別に使用しなくても良いからとても便利。サロモン王国ではこれまで流行病は出ていないが、これから出たとしても対応が可能なのでかなり安心している。


 魔法研究所グッジョブ!


 このまま行くと二十一世紀の日本よりも病気に強い国になるのは確実だ。

 喜ばしいことである。


 我が家ではベアトリーチェの出産時にはサラとスィールが回復魔法などでサポートし、俺が聖属性龍気でホルモン調整して痛みを和らげた。これぞホルモン調整の本来の使い方である。

 けっして嫁さんを悶えさせるための性技ではないので、そこは気をつけて理解して欲しい。

 他の王妃の際はベアトリーチェが魔法でサポートし俺が痛みを和らげた。おかげで産褥死もなく、うちは皆元気である。


 そして今回出産するミズラにはサラとベアトリーチェ、そして俺が付き添う。

 サラとベアトリーチェのどちらかだけでも大丈夫だろうと思うのだが、ミズラは双子を身籠ってるので、念のために二人が来てくれた。


 子供は無事に産まれ、ミズラも無事だったのだが、多少難産で時間はかかった。

 心配な俺はミズラの手をずっと握っていた。


 出産というのは男には経験出来ないのでどれほど辛く痛いのか想像もできない。

 これまで六人の出産全てに付き合ってきたが、全然慣れない。

 今回もミズラの辛そうな表情見てるだけで俺の顔色は青くなっていたことだろう。


 医師のエルフは”十日は付き添いますから安心してください”と言ってくれたし、サラも”フラキア見物しながらミズラさんが回復するまで滞在してるから。お兄ちゃんは心配しなくていい”と言ってくれたが、エドシルドなんかどうでもいい気分になっていた。


 双子は二人とも男の子で、これが初孫になるファアルドはボロボロと涙を流してミズラを労っていた。

 もう今から、目に入れても痛くない状態で孫の顔を見ている。


「あなた、エドシルドに一緒に行けなくてすみませんね」


 ケラヴノスと面識のあるミズラは、”私が一緒のほうが話が早いこともあるのに”と言ってくれたが、”エドシルドなんかどうでもいいから、とにかく身体を大事にして欲しい”と伝えた。


 エドシルドは奴隷を使役してる国だから、俺が友好的である必要はない。

 「ミズラが元気になるまで行かない。実際、気が進まないし、エドシルドなんかどうでもいい」

 そう言ったら怒られた。仕方ないから四日後に行くと伝えて貰った。

 どうせ転移で行くのだ。移動日数なんか考えなくていい。ミズラのそばに三日は居るし、三日は絶対に動かんと宣言した。


 サラもベアトリーチェも、まあ三日ならと了承してくれたし、出産の間中雑用してくれていたマリオンなどは


「ダーリンの気が向いたら行けばいいのよ」


 そう言ってくれた。だが……うん、それだと行かないかもしれないね。

 行きたいとまったく思わないし、我が国は友好国の手伝いで手一杯で他の国のことかまってられないし、それが落ち着く頃にはサエラ達の出産が待ってる。


 まあ、とにかくエドシルドには一度行ってくるさ。……面倒だけど。

 そしてさっさと用事をすませて、すぐ戻ってくればいい。


 この時はすぐ戻れると思っていたのだ。


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