14、新たな仲間 (その一)

 ベアトリーチェから聞いていたように、ブリジッタは学校設立に前向きで自分に担当させて欲しいと言ってくれた。ブリジッタが担当してくれるなら何も問題ないので感謝を伝えた。

 当面は文字の読み書き、四則演算、そして早いうちに地理と歴史を大人と子供双方を対象に教えられる環境を作る。これをエルフ全体で共有することを目標に進めていくこととなった。当初は当然試行錯誤になるだろうし、批判も生じるかもしれないけど負けずに頑張ろうと話し合った。


 金庫番のシモーナも学校設立は賛成してくれたので、俺はシモーナの頭を悩ませないよう、さらに収入を増やすことを決意する。


 で、最低限必要となるものが紙と筆記具だ。

 紙と筆記具は学習上必要不可欠だ。


 この世界の紙は麻系繊維を利用したもので、安価に、一般の人も日常的に利用可能なほど大量に用意するとなると材料の確保が大変だ。木材は大量に手に入るので、できればパルプを作ってそこから紙を作りたいが、そうなるとパルプを漂白するため過酸化水素などの漂白剤が必要になる。じゃあ、漂白剤も作ればと言いたいが、結局はサラの仕事が増えるだけになりそうで手を出しにくい。


 まあ、炭酸ナトリウムは既に作ってるのだから、硫黄を含んだ岩を燃やして亜硫酸ナトリウムは作れそうだな。やってみなければ上手くいくかわからないけど。


 筆記具は鉛筆でいいだろ。これはすぐにでも作れるから、あとは大量に作る方法を考えればいい。こちらは比較的楽に作れそうだ。


 ……ふう。


 こういうとき、二十一世紀の日本をもとに考えてしまうのが悪いんだろうなと最近思う。今回で言えば、質の良い紙を作れれば我が国の特産品にもなるなとも考えて、この世界の現状でもできることを後回しにして考えてしまう。


 消しゴムについてもそう。

 よくよく考えると、鉛筆で書いた文字など、紙の表面に汚れが文字の形で乗ってるだけなんだから、魔法で除去しちゃえばいい。その程度の魔法はエルフなら誰でも簡単にすぐできる。質の低い消しゴム使うよりよほど綺麗に消える。

 そう、今のところはエルフにできることは考える必要ないんだ。


 それを思いつくまでは、ゴム探さなきゃとか、消しパンにすればいいとか考えていた。消しパン使う手段は現状でも使えるからいいんだけどさ。


「サラ、やっぱり旅行しないか? 俺とベアトリーチェと三人でさ。長期旅行するんじゃなく、短期の旅行をさ……」


 ブリジッタとの相談を終えたあと、ブリジッタとベアトリーチェが楽しそうに姉妹で会話しているので、二人の邪魔にならないよう俺はサラの家に来ている。


「いろいろやりたいこと、やらなきゃならないことを考えてるうちに、この世界のこともっと知らなきゃいけないなと」


「そう、お兄ちゃんがそう考えたなら私は反対しないよ。今手をつけてるものが片付いたら行きましょうよ。一度にできるのはせいぜい二週間で、戻った時には仕事がたくさん待ってるのでもいいならね。ただ、シモーナさんやマリオンさん、他にも幾人かにはちゃんと相談してからね」


「ああ、そうだな。みんなにも判ってもらわなきゃいけないよな。俺が始めたことだもの」


「そうね。年に何回か……一度の旅行は二週間程度で、四回くらいならいいんじゃない。この世界のことを勉強したいんでしょ? みんな判ってくれると思うわ。それに思念伝達用ネックレスさえアルフォンソさん達に渡しておけば、いざという時いつでも戻ってこれるしね」


 サラも賛成してくれそうだし、少し元気が出てきた。

 早速、俺の希望をシモーナさんに伝えるため、彼女が仕事してる部屋へ行った。


「私も一緒に行きたいですが、今手をつけてる仕事が当分片付きそうにないので残念ですが行けそうもありません。余裕がある時は連れて行ってくださいね」


 残念そうにシモーナは賛成してくれた。


 マリオンは今日も神聖皇国側の監視のため、元の俺の家辺りに居る。転移で移動してもいいが、天気もいいので飛竜で移動することにする。


「別にいいんじゃない? だけど……私もダーリンと一緒に旅行したいけど、サラちゃんとベアトリーチェさんも行くんじゃ私は離れられないわね。とっても残念だわ~」とやはり賛成してくれた。


 その話が終わった後、マリオンと最近の神聖皇国の動きについて話していたら、ジャムヒドゥンから連れてきたシャピロ達がラニエロと共にやってきた。


「ラニエロ、お疲れ様。どうだい彼らは?」


 ラニエロには、彼らの様子を伺っておいてくれと頼んでいた。


「特に問題はないですね。あと、亜人狩りから守った亜人達が皆ゼギアス様に感謝していることをきっかけに、奴隷を積極的に解放しないのは何故かと聞かれました」


「そうか。ありがとう。彼らとももう少し話してみるか」


 俺はラニエロにしばらく休んでいてと言い、シャピロ達のもとへ近づいた。

 彼らはこの辺りで採れた果実から作ったジュースを飲んで、家の前に置いたベンチに座り一息ついている。 


「よう! 何か不便なことはなかったか?」

「ゼギアスさん。不自由なことなど何も無い。食事も寝る所も、俺達にとっては贅沢なもんだった」

「そうか、不満がないならいいや」

「なあ、ゼギアスさん。あんたは何故奴隷解放に動かないんだ?」


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