14、新たな仲間 (その二)

 早速、それも単刀直入に質問してきたか。

 こういうせっかちなところは俺にもあるんで、気持ちは判るし、嫌いじゃない。


「今、解放したらどうなる?」

「奴隷たちは辛い生活から離れられるだろ?」

「それだけか?」

「奴らが怒って攻めてくるだろうな。だが、あんたが居れば大丈夫なんじゃないのか? 里の人達からあんたの凄さを散々聞かされたぞ」


「じゃあ聞くが、神聖皇国が本腰を入れて、多くの兵を分散させて、何箇所から同時に攻めてきたら? 俺は一人しかいないぞ?」

「……そうか、あんたが居るところは守れても、他ではたくさん殺されるかもしれないというわけか」


「そうだ。今だってそれを奴らはやれるけどやらないでいるのは何故だ?」

「向こうが攻めて来ない限り、こちらからは手を出していないから?」


「それもあるだろう。俺達はその他にこう考えてる。まだ奴隷の手が何とか足りてるからだと。皇都でも奴隷の手が足りなくなりそうだと感じ始めたら、本気で攻めてきて亜人狩りするだろう」

「だから今は奴隷解放できない……」


「そうだ。やる以上は絶対に勝たなきゃいけない。負けたら全て振り出しに戻る。もしかすると今より悪くなるかもしれない」

「今は準備する時期?」


「ああ、俺はそう考えてる。少しでも早く、こちらの防御態勢を整えなければならない。そのためには協力者がもっともっと必要だ。そして人を多く抱えるなら、養えるだけの体制が必要だ。食べるものや住むところ。戦うためや守るための装備。戦いに必要な訓練と時間。敵の情報。他にもまだあるだろう。俺達には足りないものが多いんだ」


「俺は何をすれば役に立てる?」

「俺達と一緒に過ごす中で探せ。俺は、俺達は同じ目的のために努力する者達のためにはできることを惜しまない。だから、やりたいこと、やれること、それを自分で探せ。協力は必ずすると約束しよう」


「今夜時間を貰えるか? あとで仲間たちと相談して、俺達の考えを伝えたい」


 じゃあ、夕飯を一緒に俺の家で食べよう。ベアトリーチェの飯はうまいぞと伝え、マリオンのところへ行く。


「マリオン、お願いがあるんだ」

「ダーリンのお願いなら何でも聞いちゃうわよ」

「まだ少し先の話になるだろうけど、戦闘訓練の教官やってくれないか?」

「私でいいの?」

「いや、お前しかいない。俺にはお前しかいないんだ」


 マリオンが蒸気した顔をして腕を自分に巻きつけ身悶えしている。


「ダーリンったら……。今、やばかったわよ。口説き文句みたいだった。ああ、幸せ~。でもこれ以上、ダーリンに惚れさせてどうするのよ!!」


 うーん、確かに……。


「これまで仲間として一緒に戦ってきたし、手伝ってもらって、マリオンなら大丈夫だと思ってるんだ」


 シャピロの焦りとか気持ちを感じて、俺自身も早く体制を整えなければという気持ちが強くなっていた。生活の向上や人件費捻出などのために必要なことばかり考えて、戦いの体制が最初と変わってないことが心配になってきたのだ。


 サラ、マリオン、ラニエロ、あとはアンヌに攻撃魔法が使えるエルフ達、俺の戦力といえば俺を加えてそのくらいだ。もっと戦力を増やさなければならないな。そしてこの中で戦闘訓練指導できるのはマリオンだけ。


 シャピロがどう判断するかはまだ判らない。

 でもこれからは、戦闘員も増やさなければならない。

 そして少数でも強い軍に必要なのは、組織力や戦術や強い意思。


 今、手を打てるのは個々人の戦闘力アップと組織力。

 マリオンなら統率力も身につけてきたし、大丈夫、成果をあげてくれるだろう。


「いいわ。やれるだけやってみる。でもダーリン、これは貸しよ? フフフフフフフ……」


「なあ、マリオン、俺はお前のことは嫌いじゃないし、どちらかと言えばかなり好きだし信頼もしてる。だが、愛してるかと言われれば正直判らない。そんな相手でもいいと思うのか? 」


「あら、真面目に受け止めてくれてるのね。そうね。最初はそれでも良かったけど、今は少し違うわ。愛されて求められたいわ。さらに欲がでてきたのね。だから私の目標はダーリンの愛を手に入れることに変わったの。覚悟していてね~」

「……そうか、ありがとうな。」


 頭を下げるとマリオンの腕が俺の頭を掴む。

 俺がふと顔をあげると、口づけして舌もねじ込んできた。

 クネクネと暴れる舌にあっけにとられて身動きできずにいたら、体臭と混じった香水の香りが鼻をくすぐりボーっとしてきた。

 俺から離れるのを惜しむように、マリオンが俺の顔を離す。


「油断してたわね。フフフご馳走さま。でもサラちゃんには内緒でお願いよ~。知られたら怒られちゃうから~」


 まだ素に戻れない俺に笑顔を見せて、マリオンは去っていった。


 ベアトリーチェにはいいのかよ、しかし相変わらずだな。

 離れ際にあいつの顔触れて、それがとても心地良いと感じたことはあいつにも教えてやらん。


 ちょっとしたトラブルはあったが、マリオンの了承も得たことだし、旅行と戦闘訓練指導員の件は片付いた。さて、少し時間もあることだし、いくつかの里を回ってから戻るとするか。

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