10、食器売りのゼギアス (その一)
森羅万象の龍気を意識して使えた俺は、エルザークの指導の下効率的に使えるよう訓練を続けた。きっかえさえ掴めば後は順調……とまでは言えなくても、一歩一歩着実に使いこなせるようになっていった。
転移では、発動時に森羅万象龍気を使用して知らない土地を見て、転移自体は魔法で行うという技も使えるようになった。俺はこの後、地球と繋がる”穴”と”道”を龍気で造るという大仕事が待っているので、その練習へと移行していった。
はっきり言ってしんどいです。
最初はこちら側に穴を造るだけで精一杯でした。
でも効率よく、要は燃費良く龍気を使えるようになると向こう側にも穴を造り道で結ぶことができるようになった。
そのままの状態で維持できる時間が十分を越えたあたりから、魔法の同時使用を練習した。
二つの異なる世界で魔法を使うというのは想像以上に疲れた。
様々な情報を手に入れるにはやはり図書館だと、以前住んでいた地域にある図書館へ意識を飛ばしたまでは良かった。だが、必要な本を選んでる最中で力尽き、本をコピーしてこちらへ転送するどころの話じゃなかった。
「これでは独力で必要な情報を手に入れるのは数年かかるかもしれんな」
エルザークのつぶやきを聞き、マリオンに回復魔法を使って手伝ってもらうことにした。それでも一冊の本まるごとの情報を手に入れるのは難しかった。マリオンが回復する体力の量より、俺が消費する量の方が圧倒的に多かったからだ。
サラに手伝って貰うほうが良いだろうとは思う。マリオンよりもサラの方が回復魔法の使い手としては上だからだ。だが、この後サラには製造の力を使ってもらわなきゃならないし、何でも妹の世話になるのは兄として嫌だった。
俺だって妹に見栄を張りたいことがある。
マリオンに手伝って貰ってるのに妹に見栄なんか張れるのかという、そんな声は俺には聞こえないのである。
じゃあ、マリオンと一緒にベアトリーチェに手伝って……。
嫁にも見栄を張りたい俺にはそんな声も聞こえないのである。
マリオンならいい理由はなんだよ?
そんなの簡単。
俺への体力回復に全力で魔法使えばマリオンも疲れて大人しくなるからである。
マリオン相手に張る見栄なんか持ち合わせないし。
身勝手な理由だと言われようとも、マリオンが大人しくなればいいのだ。
まあ、先々、手伝ったんだからダーリンの身体で云々という要求が来るかもしれないが、その時は別の手を考える。今は、地球から情報を手に入れるのが大事なのである。
ではやはりサラに手伝って……。
却下、断固として却下だ。
当面はマリオンの支援だけで目的を達成する、これが目標。
俺は内なる他人の批判に負けず、マリオンの支援を頼りに毎日チャレンジした。
やがて、塩基性耐火材の製造に始まり、様々な原料を作るための炉の情報を多く手にいれることができた。ここまで来るのにエルザークから俺達の力を教えられてから約一月以上かかった。ちなみに、炉の冷却関係は全て魔法で行う。大量生産はまったく考えていないから大きな炉は必要ないし、継続的な運用も考えていない。当面は、不純物の含有量が少ない原料さえ生産できればいいのだ。
それにサラの負担も減らしたいしね。同じ構造のものでも大型のものを製造するとそれだけ龍気を使わなきゃならない。
それはできるだけ避けたいのだ。
将来的には様々な原料や資材を作りたいが、当面は透明度の高いガラスである。
ガラス工芸ならば、日用品からアートまで幅広い。また、この世界にもガラスはあるが、透明な板ガラスはない、レンズもない。質の高い原料を用意すれば、あとは炭酸ナトリウムやアンモニアを作ればいい。
まあ、簡単に言うことはできるけど、アンモニアの製造が一つの壁になると思ってる。だが肥料の問題も解決できるから何としてもアンモニアの製造は成し遂げたい。
今でもサラの力でハーバー・ボッシュ法なんか使わなくてもアンモニアは作れる。ダイナモ作って直流発電機用意しちゃえば水素は作れるし、窒素に至っては地球から知識を手に入れなくても作れちゃうからね。鉄もあるし。
でもサラの力にばかり頼ってちゃいけない。
サラには必要最低限設備の製造以外では力をできるだけ使わないようにしてもらいたい。
まあ、今はお金が急いで必要なので、設備以外の原料の製造でも頼りがちになってしまうけど、ある程度人材が揃ったら、原料も設備も自分たちで作れるようにならなきゃいけない。
人材集めと地球からの知識の蓄積。
そしてガラス製品の製造と販売。
この二種類を最重要課題として今は動く。
他にも多くの課題があるけど、そちらは時間に余裕があるからエルフ等に任せる。
こう決めて、人材と協力してくれる種族を探す日と、森羅万象使って地球から知識を得る日とを分けて毎日過ごしている。
◇◇◇◇◇◇
ガラスを作るための原料と設備を一通り用意したあと、一日十個に限定してサラにガラス工芸品を作ってもらっている。着色料なども用意して貰った上で作ってもらっているから、地球で見て素敵だと感じた工芸品を作ってもらえる。俺の記憶にある画像イメージをエルザークが読み、その情報をサラにイメージとして伝えることが可能だからできること。
他にもサラに頼んで作ってもらいたい設備はあるけど、当面はそれよりも金を稼がなきゃならないので……不本意だが……。
事前の予想通り、様々な原料を前にしてサラが力を使うと様々な製品が生まれ、その様子を見たエルフ達の驚き様はすごかった。見物者には子供達も居て、サラは一躍彼らの尊敬する人最上位になったらしい。
ガラス工芸品は、サラのようにではなくても、エルフでも作れる。そのことを説明し希望者には作り方を教えると言うと、希望者が殺到した。火傷など危険があるので、子供達は除外した。その代わり、子供達には陶芸を教える予定だ。釜入れだけ大人がやれば子供でも危険はないだろう。
子供達を除いても、まだ希望者は多すぎた。
だから皆に絵を書いてもらい、その出来で優先順を決めた。
先々は希望者全員がガラス工芸に参加できる環境を用意したい。
サラが作った製品を、俺とマリオンはジャムヒドゥンへ売りに行った。
何が売れそうか市場調査も兼ねて……。
とりあえず、この手のものは男性よりも女性のほうが興味を示すだろうと、食器を作ってもらい持ってきた。そしてまずは食器や台所製品を売る店を探し、そこでサイズやデザインごとの値段を調べた。俺は同程度のサイズで最も高い商品の値段だけ覚え、その五倍で売ってやろうと考えていたのだ。工芸品を見る目など素人の俺の目から見ても、持ってきたガラス食器はここらで売ってる商品とはモノが違うと断言できるし、安売りなどする気はない。
売る場所は、金を持っていそうな階級の人達が住む区画のそば。
俺はガラス食器を一枚手に取り、大声で叫ぶ売り子となった。
「冷やかしに見てくれて構わないよ~。でも、見ていただければそこらで売ってる食器とはモノが違うとすぐ判る。もちろん手にとって貰って構わないよ~でも気をつけてね~割ったら弁償してもらうよ~」
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