34、あれから三年後(その二)
ナザレスとの訓練はこの三年間も続けられていた。
今では、ナザレスの攻撃に俺の結界は耐えられるようになったし、多属性の結界を自由自在に使いこなせるようにもなった。
エルザークに拠ると、ケレブレアになら勝てるところまでは成長したという。
だが、ケレブレアと一緒に戦闘神官達も相手にするとなると五分五分で、もっと強くならなくてはならないと言う。
うーん、リエンム神聖皇国は弱ってるのだから、そこまで強くなる必要があるのかな。正直なところ、十分過ぎるほど強くなってると思うんだよ。
だが、エルザークは満足していないようで、ここまでで成長した基礎体力をもとに森羅万象の龍気をさらに鍛えよと言う。現在、森羅万象でできることは、あらゆる対象に触れその情報を知り、知り得た情報で対象を操作すること。今度は、現在という時点で可能な力を過去という時点で可能にすることだという。つまり、過去に起きたことを操作しろと言ってるのか? と聞くとそうだという。
そんなことが可能なのか? と聞くと、少し過去に遡った程度ならゼギアスにも可能だという。少し過去というのはどれくらいなのか? と聞くと、まあ、せいぜい五分じゃなという。まあ、一秒遡るだけでも俺にとっては大変だから、一分が良いところじゃろと笑っている。
いや、一秒でも過去に遡って対象を操作するってだけで、俺はもう自分が人とは別の生き物のように思える。そう言うと、別次元に触り、別次元と接触してる時点で既にこの世の生き物とは別の生き物なんだと。
うーん、俺はもうこの世のものではないらしい。
初めて知った。
そして過去を操作することは次元に触れることよりも、理屈の上では簡単なことらしい。次元じゃなく時間に触れると考えればよく、時間は俺や対象が存在する次元の時間だからだって。ただ、自分が時を遡るだけでなく、対象の時間も同時に遡ることができなければ対象の過去を操作できないので、そこが大変なんだと。
常日頃思うのだが、俺は頭が悪い。
理論派ではなく確実に感覚派だ。
あれえ? わかんねえけど、できちまったあと叫ぶ派なのだ。
言われることは何となく判るのだが、具体的なイメージが掴めない。
エルザークの導きで目指す状態を実際に体感させられ、その状態での感覚で”これかあ”と判るから、今までやれと言われたことはやれたが、何故できるのかと聞かれても答えられない。
せめて五秒過去に遡って対象操作できんと実戦では使えないから、とにかく五秒を目指すのじゃとエルザークに言われた。
この三年で老師役に磨きがかかったエルザーク。
そろそろ黒のサングラスと亀の甲羅背負わすぞ!
まあ、エルザークはエロくないからなあ、エロかったらエロザーク仙人とでも呼んでやるのに。
「誰がエロザーク仙人じゃ?」
また俺の思考読みやがりましたね。
自分の役割は終わったとナザレスは龍王のもとへ帰った。
三年ちょっととは言え、毎日顔を合わせていたナザレスが居なくなるのは少し寂しい。だが、会いたくなったら北のエイスクトル大陸まで来い、その時は護龍三頭で相手してやると言ってたから、俺がナザレスのところまで行けるようになったら会いに行けばいいんだ。護龍三頭と戦うのは怖いし、今はまだケレブレアに察知されると面倒だとエルザークから言われて行けないけれども。
ナザレスの協力で強くなれたのだし、とても感謝している。
ケレブレアとはこの先どうなるのかは俺は判らないけれど、リエンム神聖皇国やジャムヒドゥンと戦う時、俺の力は必ず役立つだろう。うん、とても感謝してる。
ありがとう、ナザレス。
それで、俺はこれから何をしたらいいのかエルザークに聞いた。
「一秒前の自分を把握するんじゃ」
これがね、”一秒前の自分”と言われても、意識してる俺の時間は刻一刻と過ぎていくので、”一秒前の自分”がどの自分のなのかを掴むのも難しい……というかまったく判らん。
そこでいつものようにエルザークが、”一秒前の俺”の状態を意識させてくれるのだが、自分でやろうとしてもさっぱり。
「最初はそうであろうよ。だが感覚を掴めばお前はできるのだからとにかく感覚を掴め、さすれば後は慣れじゃ」
なんか適当なことを言われてる気がするが、これまでエルザークが言うことで……結果を思うと間違ったことはない。さすがは神竜である。だから文句を言わず、疑問も抱かずひたすらやるしかないだろう。
毎日およそ三十分、エルザークの力で”一秒前の俺”を何度も意識させられている。同じ状態など一瞬も無いのだから、毎回違う”一秒前の俺”を体感するので、まだ感覚上でも掴めそうにない。地道に訓練するしかない。
体力的にはナザレスとの訓練よりは全然楽だが、精神的にはストレスがかなり溜まる。
そう、奥様達と子供達の癒やしが俺には必要なのだ。
エルザークとの訓練が終わるとシャワーを浴びて、手が空いてる奥様の誰かか、それとも子供のところに行ってはデレデレする。
これがとても大事。
おかげで訓練で溜まったストレスから解放され、リフレッシュした状態で仕事に勤しめる。
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