34、あれから三年後(その三)

 コムネスでの戦いでサロモン王国の捕虜となったバーミアン・ジャヘルムは、リエンム神聖皇国が奴隷を解放した際に、


「もう戻ってもいいぞ? お前を捕まえておく理由なくなったから」


 ゼギアスからそう言われたが、サロモン王国に留まることを選んだ。


 魔法力と体力を奪われる腕輪など着けさせられて、サロモン王国で軟禁と変わらぬ状態で居るより、リエンム神聖皇国に戻った方が良いだろう? とゼギアスに怪訝な顔をされたが、戻ったらどうせ敗戦の責任を取らされて幽閉されるだろうとバーミアンは言う。


 幽閉された生活を送るよりも、身体的には不便だが、比較的自由に生活させてくれるサロモン王国のほうがいいと言う。


 俺としては、問題起こさなければ好きにしていて構わないし、あの腕輪を着けさせられてる限り、大したことはできない。子供を捕らえて人質になんてことをする男には思えなかったし、実際、魔族の子供達とも仲良く会話してる様子を何度も見た。


 それに、たまにはこちらがドキッとすることを言うので、身近に居ると良いこともある。


「この国には音楽や演劇はないのか?」


 うん、無い。


 歌が無いわけじゃない。

 エルフやドワーフは、仕事しながら種族で歌われてきた歌を歌いながら作業するし、魔族でも戦いの前や勝利の後に歌う。


 そう、芸術としての音楽がこの国には無いのだ。


 楽器らしい楽器も無いしなあ。

 板などを叩いてリズム音出す程度だし……。


 演劇など全く無い。

 かけらも無い。

 せいぜい祭りの際に踊る程度の踊りがあるくらいだ。


 まあ、衣食住に困らない環境作るので忙しかったから、芸術という文化的なモノを育成する余裕がなかったんだ。


 でも、文学を楽しむ様子は……俺が複製してきた本を読み書きできるようになった者が、思念回析の指輪着けて読んで楽しんでる様子に見られるから、けっして文化的なものを理解し楽しむ感性や気持ちが無いわけじゃないと思うんだ。ただ、知らないだけで。


 俺も芸術までは手が回らずにいたので、これからは国外で鑑賞させて我が国にも持ち込みたいと思ってる。理解してくれたなら、地球へ行って楽器を複製するつもりだ。


「服装、地味なものが多いな」


 この野郎、好き勝手言いやがって、こっちはそれどころじゃなかったんだよ!!


 と言いたいんだが、バーミアンの言う通り。

 これは皆が我慢してくれてるんだ。


 エルフにはオシャレ好きが多かった。

 服装にしても装飾品にしてもだ。

 エルフのオシャレを見て、他の種族も真似をしていたんだ。


 うちの国は女性が多いから、華やかな雰囲気も一時期あったんだ。

 だが、この三年はひたすら機能重視の服装、それも最低限の服装で皆我慢している。軍の服装も、所属によって揃えて……とか考えていた時期もありました。それも取りやめになっていたんだ。


 これからよ、これから……。


 極度に節度ある生活していて、最近忘れていたものをバーミアンは思い出させてくれるから、その点は感謝している。


 我が国の……この世界では卑怯としか言い様がない技術から生まれた生活やモノに感動し、試作で作った自転車に乗って今の生活を楽しんでいるようで結構なことだが、何かしらは仕事させねばなるまいと最近は仕事もさせてる。


 本人も現状を楽しんで遊んでるだけでは不味いと思っていたのか、仕事もしろと言うと素直に従った。戦闘神官という将軍クラスの地位にあったわけだし、それなりの仕事をといろいろと考えた。やはり誇りというものはあるだろうからねえ。


 そうは言っても、子供より多少は体力がある程度の状態でできることと言うと選択肢は限られていた。

 それで何をして貰ってるかというと、図書館の受付である。

 本を管理するには、ヴァイスの仮屋だった家では狭すぎたので、新たに図書館を建てたのだ。

 地球から複製して持ってきた本が既に五十万冊を越えた。

 これからも増やす予定だ。


 いずれは地球でも最大規模の図書館レベルまで蔵書を増やそうと考えてる。

 俺が複製してくるだけなんだけどね。


 だが、地球で書かれた本をこの世界の住民が読めるわけがない。

 そこで図書館内で読めるように、思念回析の指輪を入館時に貸し出す。

 思念回析の指輪さえあれば、文字や文章を勝手に翻訳してくれるから、読者は理解できるようになる。

 退館時には返却してもらう。

 ちなみに本の貸出は今のところはしていない。


 住民登録系のシステムがまだ出来てないから当面は館内での閲覧のみで我慢して貰ってる。ヴァイスやドワーフの一部には貸出許可してるけど、基本的にはダメ。


 バーミアンはあれでなかなか人当たりがいい。

 新刊の紹介や、図書館内の案内なども来館者に丁寧にやってくれてる。

 この状況を見たら、リエンム神聖皇国の元将軍だなんて誰も思わないだろう。

 上手くやってくれてるようだし、暇な時間は、思念回析の指輪使って自身でも読書してるようで楽しそうだ。


 捕虜で居ながらも生活を楽しめるこの国に、バーミアンは将来深く関わっていくのだが、今はまだ図書館の受付けなのであった。 

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