12、休養日と出会い (その二)

 この数日は最高だった。

 ベアトリーチェと散歩したり、一緒に食事を作ったり、特に何することもなく他愛もない話をして過ごしたり、近所の子供達と遊んだり、心身ともにリフレッシュできた。


 夜は夫婦で仲睦まじく愛し合っていられたしね~。


 毎朝、朝食後にサラのところへ、指輪に龍気を纏わせに行ったけど、三十分もかからずに終わる作業だから、仕事をしてるというより毎日サラの顔を見に行くついでの用事のようなものだった。ちなみに、思念回析魔法を纏わせる作業を学ぶエルフは、マルティナ含めておよそ十名らしい。最終的には十五名には覚えてもらい、量産できるようにするとのこと。


 オルダーンから来た三名は、マリオンとともにサラと同居している。マリオンも同じだけど、その三名もサラを可愛がってくれているようで、兄としてはいくらしっかりしている妹でも一人で暮らしていないことに安心しているし、マリオンの話を聞くと楽しく暮らしているようで嬉しい。


 アルフォンソさんのところでは、エルフ達にして欲しいと頼んでいたいくつかのことの報告をじっくり聞くことができた。


 一つは資源の在り処を地図上に記していく作業。

 今後必ず必要となる鉱物の特徴を教えてあるので、山や海岸で作業する機会には必ずそこでサンプルを採取し、地図に記載してもらっている。  


 二つ目は、エルフの部族間の連絡が密になるよう連絡体制作り。

 飛竜を使って各部族の生活圏を回って貰っている。


 三つ目は、里の在り処を調べ、里の状況と人口構成の調査。

 様々な種族が暮らしている小さな里が、泉の森近辺だけでも十箇所くらいはある。

 泉の森以外のエルフが住む地域でも、その周辺には幾つもの里がある。


 今はまだ呼び寄せる体制ができていないけれど、龍の神殿がある森、神殿の森と呼んでる場所の開発を本格的に始めるようになったら、里から招いて住んでもらおうと考えてるし、里の人に打診してみたらかなり積極的に前向きな返事を貰っている。


 他にも細かいことはあるが、それらも概ね問題なく進んでいるようだ。


 あと、ガラス工芸を学んでいた方達の技術がだいぶあがったと聞いて作品を見た。

 うん、グラスや皿の食器類はそろそろ売り物になりそうなところまで上達していた。

 ドロドロに溶けたガラスを整形するのは大変だからもっと時間がかかるかと思っていたのだが、魔法を利用して整形するとそう難しくはないのだそうだ。


 なるほど、地球で見た作業はそのままのイメージで俺は考えてしまう。

 けれど、この世界では魔法を利用して生活しているから、魔法でサポートできないかと考える習慣があり、ガラス工芸でもその考え方の差が出たのか。


 整形してる間ガラスの温度や着色の具合が思い通りになるよう経験を積んでいけば、かなりの作品が作れそうだ。

 どの程度の値段で売れるかななどと期待を胸に俺が行商に出るのを待ち望んでいる人も出始めたらしい。


 とてもいいことだ。


 うまく高値で売れれば更に作品作りにも精が出るしね。

 前世で見たクオリティからかけ離れてるものは売りに出さないし、売りに出す以上はそれなりのクオリティのモノだから、きっと高値がつくはずと俺は確信している。


 明日、ゼルデとアンヌには、行商に付き合ってもらうつもりでいる。

 こんな感じで行商してるんだよと一度見せておこうと考えてる。

 ゼルデは元商人だから心配していないけど、アンヌは商売の経験など無いから、俺がやってることなどたいしたことではないけれど見せておいたほうが良い。


 二人には、俺とマリオンが動きづらいリエンム神聖皇国で行商しつつ情報を集めてもらう予定だ。二人もそのつもりで居てくれていて、今は行き帰りの危険を排除できるようマリオンに鍛えられている。


 今日で俺の休養日も終わる。

 明日はジャムヒドゥンへ行商に行く予定だけど、その後はドワーフを手始めに様々な種族のところへ出向いて協力をお願いしにいく。


 さて、休養最終日を満喫するとしよう。


◇◇◇◇◇◇


 フフフ、予定通りだ。


 売れろ! 売れろ~~!


 前回店を出した高級住宅街で、俺はマリオンとアンヌ、そしてゼルデの四人でガラス食器売りに来ている。目の前では即売り切れになる勢いで売れている。


 ワ~~ッハッハッハッハ、笑いが止まらん。


 前回で学んだので、値段は市場で売られてる同じような形状・サイズのガラス食器の何と十五倍。うちの製品はガラスの透明度と硬度が市場のものとは比較にならんほどのクオリティ。透明でもこちらのはくすんでいたり気泡が残っていたりするが、うちのは完全なる透明で気泡が入った品物など売りには出さん。


 領主様の娘アンヌも商人だったゼルデも、うちの商品を見て驚いていたもんな。

 一応セレブのアンヌとシモーナでさえ、失敗作でいいから実家に贈りたいと言っていたし。


 二十一世紀の日本の知見と技術を可能な限り活かしてるので、地球で言えば近代時代前の技術しかないこの世界では圧倒的な商品力をうちの品物は持っている。


 お客が欲しい商品を提供し、更にその上の商品を求めるお客の要望に答える。それを繰り返して二十一世紀で生まれた商品は、この世界では圧倒的な魅力を持つ商品だ。


 最初はビビってこの世界の市場価格の五倍なんて値段つけた。でも今では、一応十五倍で売っているけど、気持ちとしては三十倍でも売れんじゃねぇの? てな感じだ。


 サラが作ったものは当然。

 サラの製品よりも落ちるけれども、始めてまだ一ヶ月そこそこのエルフ達が作ったモノですら、セレブの奥様達が目の色を変えて、とにかく手に入れたい一心で、触ったものは全て手に入れる勢いで買っていく。バーゲン売り場で見たおばさま達状態。


 今日はサラの製品は十個だけだけど、エルフ達の作品を二百以上持ってきたのに開店即完売状態。


 この成果を伝えたら、エルフたちも大いに喜んでくれるだろう。


 さて、今回来た目的の一つは済んだ。


 今回は他にもジャムヒドゥンの情報を集める目的がある。

 だから日帰りではなく数日滞在する予定だ。


 あ、マリオンだけは神聖皇国への備えのために戻る。


 今の俺達は金を持ってる。

 ちょっとした贅沢して、羽振りの良いところをこの辺りの人達に見せつける。


 すると、俺達の懐を狙って悪さを働こうとする奴らが必ず出てくる。

 盗みや騙しで金を手に入れようとする輩はどこの世界でもどの時代でも居るからね。


 俺達はこの辺りには住んでいない。

 だから、この辺りの遊ぶ場所や遊び方をいろんな方に聞くことになる。


 俺達のその様子は彼らの目にはきっと田舎者のように映るだろう。

 少なくとも俺は確実に田舎者だし。

 きっとネギ背負ったカモに見えることだろう。


 俺達をカモだと判断して、近寄ってきた者達から情報を手に入れる。

 奴らは俺達が田舎者だと知っている。

 俺達の懐に入って気に入られるよう振る舞うだろう。

 この国の日常生活は? 誰が権力を持ってるのか? 軍隊の規模は?


 俺達はお客の情報を手に入れたいと質問するから違和感を持たれることはないだろう。だって本当のことだしね。


 そしてカモに飛びつくキツネはやはり現れた。

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