12、休養日と出会い (その三)

 ゼルデとアンヌは商人とその妻、三名の内ひときわ身体が大きい俺は商い見習い兼荷物運びの従者の設定で、このあたりでは比較的高い宿へ宿泊した。宿屋で近くの酒場を教えてもらい。そこで商売の成功を祝う。


 俺達は設定通りの立場で祝い、一緒に祝ってくれと俺達の近くで飲んでる奴らに奢り、騒いだ。


 俺達が居る場所は、ジャムヒドゥン南側で最大の都市サバトルゴイ。交易が盛んな都市だ。人口は四十万人を越えるだろう。ここで情報を集めると決めたのは、マリオンの”交易が盛んな都市なら、人も多く集まるから情報も手に入れやすいだろう”という意見に従ったためだ。それにここサバトルゴイはリエンム神聖皇国からも離れていて、俺達の顔を知る者と出会う機会も少ないだろうと判断したためだ。


 サバトルゴイを選んだ理由は他にもある。

 ここはジャムヒドゥンには属さずに中立を保ってる小国とも交易を行える都市で、ジャムヒドゥン国民以外の者がうろついていても珍しくないからだ。


 商売もしたい、情報も集めたい俺達にとっては最適な都市、それがサバトルゴイ。


 酒場で見かける人も様々な地域から来ていると衣装や顔の特徴で判る。

 俺はリエンム神聖皇国で生まれ、その南方で暮らしていたから、ここで見かける人の特徴には知らないものが多い。そういうのを見てるだけでも結構俺は楽しい。


「ずいぶん景気が良いね。いい商いできたようだね。そのツキを俺にも分けてくれないか?」


 ゼルデの前には、黄色のターバンを頭に巻き黒い衣装を纏った、赤く日焼けした顔のアラブ人風の男がボトルを片手に立っていた。


「奥さん連れで商売かい? 珍しいね」

「ええ、妻もここで買い物をしたいと言うので、今回は一緒に連れて来ました」


 ゼルデは、男が差し出すボトルから酒をグラスに注がれるまま話してる。


 話を聞いていると、この男は普通の織物商人のようだ。


 ゼルデは商人なら判って当たり前の話しをすることになっている。

 地方ごとの特産品の話や、その特産品を手に入れる苦労やその品を売る旨味など、商人なら当然知ってることだけど、商人じゃなければ話のどこかにおかしなところが出るらしい。


 おかしなところがある相手の場合は、俺に合図を送ることになっている。

 サラが作っていた例の指輪こすりながら俺に目で合図するのだ。この事以外で俺に何らかの異変に気づいて欲しい場合は指輪に触らずに合図を送る。俺達はこう決めている。


 やがて織物商人が神の導きがあったらまた会いましょうと言って去っていった。


 しばらくすると、酔っぱらった男がアンヌに絡みだした。

 俺は注意深く見ていたが、ただの酔っ払いで……「奥様に失礼なことを言うのは止めていただきたい」と注意すると、旦那が居ると気づいたようで平謝りに謝って去っていった。


 アンヌの機嫌をとるという理由で、酒場を離れ宿に向かって歩いてると、俺達の後をつけてくる者が居た。俺は二人に”つけてくる者が居る。気をつけて”と思念を伝える。


 俺達は宿に入り、俺は宿の窓から外を伺うと、さきほどつけてきた者と誰かが話してる様子を感じた。


 この宿はこの辺りでは比較的高い宿だが、セレブが宿泊するような高級宿ではない。警備は居るが、厳重に警備されてるわけでも無い。


 当然だ。


 あまり警備がきついところでは、盗賊も襲っては来れないのだから、それでは俺達がわざわざ宿泊する意味はない。襲ってきてくれないとつまらな……困るのだ。


 時間をかけて、この地域でネットワークを築こうなどとは思っていない。それにそういったまともなネットワークは俺達の目的の役にたたない。俺達の目的は奴隷を逃がすことなのだから。


 奴隷達を逃し、俺達の国で給料を稼ぎ、家庭を持ち、できるだけ自由に生活が送れるようにする。それが俺が作る国の目的の一つだ。俺は外見こそ人間と変わらないが、俺は亜人だし、魔族の血も混じってる。亜人だから、魔族だから奴隷で当たり前とされるのは気に入らないんだ。


 深夜、こちらの期待通りに俺達の部屋を襲ってきた。


 俺とゼルデ達は部屋を分けている。当然だ。商人夫婦と見習いが同じ部屋に泊まることなどない。本来なら見習い役の俺はもっと安い宿に泊まるのが自然。まあ、そこは不自然でも今回は止めた。


 宿屋の誰かと組んでいたのか、俺の部屋にはこないで、ゼルデ達の部屋だけを狙って襲ってきた。賊がゼルデの部屋に入ったと確認した後、俺はゼルデ達の部屋へ入っていった。


 まあ、滅多なことではゼルデ達を囚えることなどできない。


 マリオンから、そこらの賊程度ならアンヌだけで大丈夫。ゼルデも自分の身を守るくらいならさほど心配はないといわれていたので、多少は心配だったが俺が何とかすると考えていたし、実際マリオンの言うとおり、部屋を襲ってきた四名の賊はアンヌに気絶させられていた。


 窓から外をそっと覗くと、賊の仲間らしい姿が二人見えた。

 俺は床に転がる賊を縛り上げ、外のも捕まえてくると二人に伝え部屋を出た。

 宿の裏口から出て先程確認した二人を探すと、先程と同じように宿の玄関正面で仲間の戻りを待っていた。


 賊ごとき俺の相手ではない。

 スッと近寄り気絶させて部屋へ持ち帰る。

 賊六名を縛り並べたところで気を取り戻させた。


「で? お前達は何者だ? 命を奪われても仕方ない状況だってことだけは忘れないでくれ」

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