12、休養日と出会い (その四)


「チッ、美味しい獲物だと思ったのに……」


 女の声であった。俺が宿の外で捕まえた二名のうちの一人も女だった。

 踏み込んだ四名の中にも一人女が混ざっていた。


「だから、お前達は何者なんだ? 強盗しかけて捕まって、朝になったらお前達をこのまま役人に突き出してもいいんだが、話によっては解放してもいいと考えてるんだ。こちらの質問に正直に答えろ」


 俺はベッドを椅子代わりに座り、苛ついた感情を抑えずに話す。

 話が進まずグダグダと時間を潰すのはかなり嫌いなんだよ。 


「俺達は、この辺りで義賊やってるプーラン」


 この男の賊は、六名の中で最も身体も大きく、身体もがっしりとしている。

 堂々としてるからリーダーなのかもしれないな。

 低音の声ではっきりと答える様もリーダーっぽい。


 この男と話すのが手っ取り早そうだ。


「義賊ってことは、俺達から奪った金を貧乏な人へ配る予定だったと?」

「ああ、そうだ」


 ふーん、言ってることは本当のようだ。

 俺はエルザークのように相手の思考や記憶を読むことはできないが、言ってることが嘘か本当かくらいは相手を読み取れる。

 こういった奴らは嫌いじゃない。


「俺達に協力するなら、解放してやってもいいけど?」

「何を手伝えって言うんだ。それに俺達は人間の手伝いはしない」

「お前達は人間じゃないってのか?」


「ああ、俺達の仲間に人間は居ない。亜人の元奴隷ばかりさ」

「雇用主から逃げたのか?」

「そうだ」


 こいつらは力を持たない俺だ。

 今の俺のように力を持っていなかったら、俺もこいつらと同じことをやっていたかもしれない。

 ……助けてやりたい。


「お前達、俺のところで働く気はないか?」

「だから俺達は人間の手伝いはしない」

「ここに居る俺の仲間は人間だが、俺は人間じゃない。亜人だ」


 リーダーっぽい男が、俺の目をじっと見ている。

 俺も目をそらさず、俺を信じろ、信じてくれと気持ちを送る。


 亜人だと、ここで自由に動けないはずだ。

 まして逃げて奴隷を辞めた奴だと隠れて動くしか無い。

 今回俺が必要としてるのは、金銭取引で動き契約は守る人間。

 こいつらは俺が助けたい相手だ。


「あんたは嘘を言ってるようには見えない。だが、すぐ信用しろと言われても無理だ」

「そうか、それもそうだな。じゃあ、これはどうだ。俺がやってることを見せるから、それを見てからもう一度考えを聞きたい。俺がやってることを見ても協力できないと思ったなら、その時お前達を解放しよう」


 俺は里の人達やエルフ等の暮らしとそこで俺が手伝ってることを見せようと決めた。それでも俺を信用できないというなら解放しよう。


 賊達はお互いに顔を見合わせ、軽く頷いた。


「計画を変更しよう。俺はこいつらを連れて今から先に戻る。明るくなってからこいつら連れて歩いちゃ目立つからなあ。アンヌとゼルデは明日戻ってくれ」


 「「はい、ゼギアス様」」


 二人は同時に頷いた。


「お前達、俺から逃げようとしても無駄だからな。大人しく俺の指示に従っていれば痛い思いをしなくて済む。心配するな。危害は加えない」


 そう言って賊達を縛っていた縄を切り、付いてこいと合図する。

 賊達は大人しく俺の後を付いてきた。

 都市の城壁に着くまでの間に、俺はサラに思念を送る。


 (サラ、深夜にすまない。サバトルゴイ城壁の東側の……いつも俺が停めてるところまで飛竜を三頭送ってくれ。俺がそこで待ってるからサバトルゴイに近づいたら飛竜なら判る。急ぎ客を連れて行かなきゃならなくなった)


 まだ起きていたようで良かった。サラはすぐ送るという返事を受け取って思念を切った。


 門から離れた城壁。

 門番などが気をつけても見えない場所がある。

 そこに到着すると、俺は転移魔法を使って賊全員と城壁の外側へ転移した。


 サバトルゴイの門は、誰でも比較的簡単に通過できるが、さすがに深夜にゾロゾロと通過しようとすれば怪しまれる。俺は何とでもなるが、こいつらは引っかかるかもしれない。騒ぎは起こしたくない。アンヌとゼルデは明日普通に門を通過するだろう。まあ、時間があったら俺が迎えに来よう。


 サバトルゴイの南東を少し下るとこぢんまりとした林がある。

 俺はいつもここで飛竜の乗り降りをする。

 そこに着いた。


「じゃあ、ここでしばらく待っていてくれ。迎えが来るから」


 俺が気楽にしていてくれというと、今まで黙っていた先程のリーダーらしき男が口を開いた。


「あんたは何者なんだ」


 警戒が残る視線を浴びてるが俺はそんなこと気にしない。

 この状況で警戒するなというのが無理がある。


 「俺はゼギアス。人間と変わらない姿だが、俺が亜人だということは嘘じゃない。奴隷ってのが気に入らなくてね。亜人や魔族は奴隷として使っても当然と考える人間は嫌いだ。もちろんさっきの俺の仲間のように、俺の考えに賛成してくれる人間も居るから、人間なら誰でも嫌いというわけじゃない」


「亜人を奴隷として見ない人間なんか居るのか?」

「ああ、居る。確かに少ないけどな。それにリエンム神聖皇国とジャムヒドゥン以外の国では奴隷制度そのものがないところもある。他にも奴隷制度はあっても、亜人や魔族だけでなく人間が奴隷やってるところもある。そういうところでは、戦争に負けた国の人間が今も奴隷のまま、そういう感じだな」


 俯いて何か考えてるようだ。

 しばらく考えた後その男は口を開いた。


「ゼギアス、あんたは魔法も使える。逆に俺達に協力してくれないか?」


「嫌だ。お前達の貧しい人を少しでも助けたいという気持ちには共感したが、お前達は金の有無だけで人間を見た。俺も貧しい人を助けたいし、困ってる亜人の手助けをしたいと思ってる。だが、それは自分で稼いだ金で、仲間たちと稼いだ金で、そして今は貧しくても頑張れば貧しさから抜け出せる場所を作ることで成し遂げたい」


「夢物語だ。そんなことできるわけはないし、そんな場所などない」


 呆れたような口調。


 まあ、これも仕方ないよな。


 俺はたまたま力を持っていて、他人よりできることが多かったし、サラやベアトリーチェ、エルザークから教えられて出来ることを増やし、そして今のように考えられるようになった。実際、走り始めたばかりで、必ず出来ると約束できることではない。俺だって不安なんだ。でもやらなきゃならない。サラやベアトリーチェや皆と少しでも幸せになるためにはやるしかない。


「ああ、今はできないし、そんな場所もないな」

「だったら……」


「だったらお前達を手伝えってか? 嫌だ。たまたま俺には力がある。俺が居ればお前が考えてるようなことは大概できる。亜人のために金をどこかから奪って渡すことなど簡単だ。だが、俺が死んだあとはどうする?」

「……」


「その時はその時でなどと言うのなら、今から考えろ。そしてどうしたらいいか考えろ。……まあ、俺も偉そうなこと言ってるが、妹や仲間たちから教えられてやっと判ったことだ。お前にすぐ納得しろと言っても無理なことは判ってるよ」

「あんたがやってることを見たら納得できるのか?」


「さあな。だが俺は、俺と同じ亜人の妹が奴隷になるようなことは許さない。俺の仲間たちもな。だから俺が居ないときでも皆を一人でも多く守れる場所を作りたい。そう思って頑張ってる。だが、それを見てお前達が納得するかは知らん」

「俺の名は、シャピロ。今は生き残りも少なくなったが人狼族だ。あんたがやってることをしっかりと見させてもらうよ」

「ああ、そうしてくれ」


 飛竜が降りてくる様子が目に入った。


「さあ、迎えが来たようだ。振り落とされないように気をつけてくれ。俺が指示した通りに飛んでくれるからお前達はしっかりと掴まっていてくれさえすればそれでいい」


 一頭に三名ずつ乗せ、俺は残った一頭に乗る。


「さあ、泉の森まで行ってくれ。頼む」


 俺の声を合図に三頭の飛竜は空へ舞い上がった。

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