13、忙しくて、嬉しくて、楽しい数日 (その一)

 翌日、俺が連れてきた賊達をラニエロに預けて、点在する里の様子とエルフ達の生活を見せるよう頼んだ。彼には、俺達が実験的に始めてる新たな農法による農業やガラス工芸も見せて説明していいと伝えてある。ラニエロならば問題なくやってくれるだろう。毎晩報告してくれと付け加えておいた。


 その後、俺はアンヌ達を迎えに行き連れ帰った。

 俺はアンヌ達と一緒にサラのところへ行き、売上を渡し、今回は目的だった奴隷解放のための情報を得る相手を見つけられなかったことを伝える。


「毎回うまく行くわけじゃないから、そんなに申し訳なさそうな顔しなくてもいいよ。お兄ちゃん」


 サラはそう言ってくれたが、少しでも早く一人でも多く 奴隷から解放してあげたいし、その中から協力してくれる仲間を増やしたいので、慰めてくれるのは有り難いけど気分は沈んだままだった。


「そう言えばお兄ちゃん。お兄ちゃんが会いたがっていた刀鍛冶の呼ばれし者の人が明日来るわよ」

「え? ……ああ、イワンが連れてきてくれるのかな?」

「そうそう、オルダーンへ戻っていたシモーナさんがこちらへ帰る途中でイワンさんを見かけたので声をかけたらそう言ってたって」


 おお、まだ見ぬマサムネさんが来るのか、それは楽しみだ。


「指輪の効果を確かめたいから、その人と会う時は私も同席するね」

「ああ、お願いするよ」


 俺はアンヌとゼルデと共に、サラの家から外へ出た。


「ゼギアス様」


 外へ出た途端、アンヌから声がかかった。


「何だい?」

「私でも魔法を使えるようになるでしょうか?」

「んじゃ、額を触るけどいいかな?」

「はい、ご褒美ですか」


 ん? ご褒美? 何でそうなった?

 何かやけに嬉しそうだ。

 もしかするとマリオンタイプなのか?

 マリオンのような押しが強いタイプじゃないけど、危険な匂いはする。


「いぁ……アンヌの持つ魔法力を調べようと思っただけで……」


 俺の言葉を聞いたアンヌは顔を赤くして謝った。


「あ、失礼しました。はい、構いません」


 アンヌの額に手を当てて彼女が持つ魔法力を探っていく。


「うん、マリオンほどではないけど、人間としてはアンヌの魔法力は多い方じゃないかな。でも適性があるから、どんな魔法でも使えるとは言えないけどね。魔法練習したいなら、エルザークが暇にしてるから頼んであげようか?」


「お願いしても宜しいでしょうか?」

「うん、いいよ。ゼルデはどうする?」

「いえ、昔調べたことがありまして、その際に私の魔法力はさほどではないと言われましたから魔法は諦めてます」


 神殿では、魔法力の有無や魔法量を調べてくれるし、希望者には魔法の訓練もしてくれる。但し有料で、結構高いらしい。


「そうかあ、まあ、ゼルデには商売で助けて貰いたいし、商人で魔法使う人はとても少ないようだから、下手に目立たなくて済むし、使えないほうがいいかもね」


 今回売った品物で、これからも売れそうな物や値段を変更した方が良い物などをゼルデにはまとめてもらいたいと依頼して、アンヌを連れてエルザークのところへ向かった。


 エルザークは、ほぼ毎日どこかしらをうろついている。

 朝、サラ達と朝食を済ませると、エルフ達の生活を眺めては嬉しそうに頷いていたり、泉で昼寝しながらゴロゴロしたり、俺が地球から持ってきた情報を俺の記憶から読んで考え事などして過ごしている。


 暇で困らないのかと聞いたことがあるが、”無為に過ごすしているようで実は時間を無駄にせずにいられるのが我の長所だ”とかよく判らないことを言われた。


 まあ、本人に不満がないならいい。


 エルザークはすぐ見つかった。

 今日はガラス工房に居た。正確にはガラス工房の前に立ち、そこから見える情景を眺めていた。


「エルザーク、いつもそんな風でほんとに困らないのか?」

「ゼギアスか、前にも話したがお前達には判らなくても、この情景を見ているだけでもいろんなことが判るのじゃよ」


 暗い神殿でずっと考え事していたし、あそこからでもこの世界のことが判るらしいから、この情景を見ているだけでも俺には判らない多くの情報を知ることができるのだろうと思っては居るのだが、やはり暇で困らないのかとも思ってしまう。


「そうか。それで今日はお願いがあって来た。ここに居るアンヌの魔法練習に付き合ってくれないか?」

「いいぞ。そのくらいなら問題はない」


 エルザークはアンヌをマジマジと見て


「ふむ、十日もあれば使えるようになるじゃろ。この者に適してるのは……水属性じゃな。あとは治癒と回復魔法は使えるじゃろ。それ以外は使えるようになるまでも長くかかりそうだし、使えてもたいしたことはできないじゃろうなあ」

「へえ、そこまで判るものなのか、さすがだな。俺は適性までは判らなかった」

「お前が森羅万象を使いこなせるようになれば、このくらいは朝飯前でできるようになる。その使いこなすのが森羅万象の場合、生身のお前には難しいとは判っとるから、お前が怠けてると言ってる訳ではないぞ」


 森羅万象の訓練ばかりしていられないんだよ。

 でもエルザークが見てくれるならアンヌも魔法をうまく使えるようになるだろ。そこは信用できる。ただちょっと口煩いが……。


「おい、口煩いとは何じゃ」

「あ、判っちゃった? ゴメン。つい……」


 「ついじゃない。まったく神龍の我をもっと崇めぬか」とブツブツ言ってるが、エルザークは懐が深いからこの程度では怒らないと知ってる。


「じゃあ、明日から起きたらサラのところへエルザークを迎えに行ってね。エルザークは厳しいけど、しっかり見てくれるし信頼して練習してください」

「はい、魔法を使えるようになり、もっとゼギアス様のお役にたってみせます」


 そんなに気合いれなくても、十分助かってるんだけどな。

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