12、休養日と出会い (その一)
国造りの拠点とする予定地は確保した。
雇用する人件費を稼ぐ見通しもついてきた。
様々な事業を動かすための協力者も徐々に増えてきた。
次は労働力の確保だ。
泉の森を代表とするエルフの集団には、現在住んでいる土地を守るメンバーと俺の目標を手伝ってくれるメンバーとに分けている。ノーフォーク農法を利用した農業については、農業を営んでる方の協力で現在の生活を守りながら試してくれている。
それは結局俺の目標の手助けになっている形だが、ガラス工芸に携わってる人は少し違う。彼らは希望者とはいえ、俺のチャレンジに生活をかけてくれている。だから失敗できない。まあ、このまま順調に行けば彼らにとってやりがいある仕事になってくれるだろうと思える感触は掴んでいる。だが今よりも豊かで安全な生活を提供できるようにならねば、彼らの期待に応えているとは言えないだろう。
そのプレッシャーは常に感じている。
でもさ、俺にだって休養は必要だよね!
だが、サラに速攻で却下されました。
片手で俺を指差して、もう片方の手を腰に当て、直立不動な俺に
「お兄ちゃんの取り柄は?」
「はい!頑丈なところです!」
「他には?」
「無駄なほど体力が余ってるところです!」
「よろしい。でも、今日から数日は楽な仕事だからのんびりやってください」
「はい! 鋭意頑張ります!」
軍隊で上官から指示を受ける下士官のような状況が終わった。
ふう……。
「うん、お兄ちゃんには、これに森羅万象の龍気を纏わせて貰います」
そう言って俺の前に出してきたのは、龍を象った銀の指輪だった。
「これに?」
「そうよ。今のお兄ちゃんなら一日に四個位ならそんなに疲れないでしょ?」
「うん、この程度の大きさのものに纏わせるだけなら疲れずに出来ると思う」
「それをとりあえず二十個作りたいの。ね? 楽な仕事でしょ?」
「これに森羅万象の龍気を纏わせてどうするの? それに数日で龍気は消えちゃうけど?」
「龍気が消える前に、この指輪に思念回析魔法を刷り込むの」
なるほど、森羅万象を纏ったモノは魔法の効果が定着しやすくなる。
しかし、思念回析魔法なんて俺は使えないんだが。
「思念回析魔法?」
「そう、私が刷り込むの。あと、私の作業をマルティナさんのような……高いレベルで魔法を使える人達にも見て覚えてもらう」
「思念回析魔法を刷り込むとどういうことが起きるんだい?」
「その指輪を身に着けた人は、相手の思念を読み取って理解できるようになるし、こちらの思念を伝えられるようになる。相手の言葉を聞き取れなくても理解できるようになるし、話した言葉を思念として伝えられるから相手に伝わるようになる。知らない文字でも文字を書いた人の思念を読み取ることができる、つまり知らない文字を読めちゃうの。といっても、これはエルザークから教わったんだ」
「何に使うの?」
「”呼ばれし者”のことブリジッタさんから聞いたこと覚えてる?」
「ああ、なるほど」
「そう、こちらの世界の言葉をほとんどの呼ばれし者は理解できないし、話せるようにもならない。そういう人と不便なく会話するにはどうしたらいいかエルザークに聞いたら教えてくれたの。あと、マリオンさんも昔魔族のある一族の言葉をまったく理解できなかったことがあったらしいの。だからこれからはいろんな種族と付き合っていかなきゃならないし、お兄ちゃんだけしか会話できない種族との付き合いは難しいでしょ? 意思が通じないとトラブルのもとになるし」
そうか、だが、最終的には俺以外の全員が必要になるモノなんじゃ……。
「それじゃ二十個じゃなくもっと必要なんじゃないのかい?」
「うん、でもね。この指輪に思念回析魔法を刷り込むには少し時間がかかるらしいの。エルザークが言うには、私でも刷り込みに二時間はかかると言ってたわ。そして今のところ使えるのは私だけだから、一日四個が限界ね。だから多く準備してもらっても無駄になるわ。他に使える人が増えたら、お兄ちゃんには頑張って貰うことになるわね」
「判った。それじゃとりあえず四個に纏わせればいいのかい?」
「ええ、お願いよ」
俺はサラから指輪を一つ受取り、森羅万象の龍気を纏わせた。時間にして五分もかかっていない。一応、確認して見たが、きちんと纏っている。
ベンダントをサラへ返すと、三個渡してきたので同じように纏わせた。
「うん、あとはのんびり過ごしていいわよ。また明日お願いするわね」
うーん、こんな程度、仕事した気にならない。
今日の残りの時間を考えると休養日と変わらない。
俺が休養とるなんて以ての外のように厳しく言っていたサラ。
どうしてあんな態度とったのかきっと理由があるはずなんだけど、それが判らない。
判らないまま家に帰り、ベアトリーチェに聞いてみた。
「その理由、サラさんから聞いてますよ」
「教えてくれるかい?」
「あなたが気を抜くと、ドンドンだらけてしまうんじゃないかと心配なんですって」
うん、そうかもしれない。
最近忙しかったからだらける暇無かったけど……うん、暇があったらだらけちゃってたかもしれない。
「だから気を抜かないようにと……その程度の理由ですよ。あなたの身体を心配してるのは私と一緒です。だから私は思念回析魔法を覚える機会を先にして、マルティナから先に覚えてもらうようになったんです。あなたがここにいる間はできるだけ一緒に過ごしてあげてくださいと頼まれました」
しっかり者の妹の目には、まだまだ心配ばかりの兄のままらしい。
「そうか。じゃあお言葉に甘えて、一緒に散歩でも行こうか?」
俺とベアトリーチェは、お弁当を持って散歩にいくことにした。
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