49、ヴァンレギオス(その三)

「今日から宜しくお願いします。お姉さま達にはゼギアス様の嗜好をいろいろ教えていただきたいと思います。是非、ご指導ご鞭撻をお願いいたします」


 ラウィーアが体育会系部活の新人部員のような挨拶をペコリと頭を下げてして、笑顔の奥様達から熱烈な抱擁を受けている。第七王妃公認の瞬間である。


 サラは俺の顔を見て”一人で決めたのは褒めてあげるわ”とかなり上から、でも満足げに言ってた。


 うん、間違いじゃなかったんだな。


 ……だが、本当にこれでいいのか?


 サラが言うには、アンヌやマルティナにエルザまで控えてると言う。その三人まで貰ったら……俺……十人も嫁さん持つことになるのかね?


 まあ、徳川家康は妻が二十人ほど、側室は二百人居たというからなあ。

 俺ってば征夷大将軍レベルに近づいてるんだ。


 サラは”お兄ちゃんの馬鹿げた体力はそのためでしょ”と言うが、いや違うだろう? と言いたい気持ちをぐっと堪えて、兄貴の威厳のかけらもない俺は”そうかもしれないなあ”と遠い目をするに留めておく。


 ただ家が賑やかなのは大歓迎なので、まあいいかと。


・・・・・・

・・・


 その夜、食事や風呂に大満足のラウィーアが俺のベッドに入ってきて、デュラン族についていろいろ教えてくれた。


 デュラン族は呪われてると見られ遠ざけられた。だが、どこの世界にも捨てる神あれば拾う神ありで、子孫を細々とだが繋ぐことができた。そして六百年程前には数百人にまで増えたという。


 だが、まだヴァンレギオス建国されていない頃、たまたまフォモールに一族は流れ着き、あまりの酷さにフォモール族以外の住民を率いて戦い、ヴァンレギオスを建国した。それ以後はフォモール族とデュラン族の争いが続き数十万居たフォモール族を十万程度まで減らしたが、三年前にはデュラン族もラウィーアを入れて十人も残っていなかったそうで、三年前の戦いでラウィーアを残して他のデュラン族は居なくなった。


 ヴァンレギオスの外へ、フォモール族と戦ってくれそうな者を探しに出た者が幾人か居て、そのうちの一人がゼギアスの父だという。サロモンは、ヴァンレギオスで行き倒れた夫婦が残した子が成長し、やはりヴァンレギオスの外へ仲間を探しに出た人間だとのこと。デュラン族に鍛えられ気を見ることも魔法を使えるようにもなったらしい。


 だからサロモン王国と聞いた時には、あのサロモンがヴァンレギオスを救うために国を作ってくれたのかと期待したのだという。


 サロモンは死の間際に”デュラン族の願い”という言葉を残していた。それが今だに判らないのでラウィーアに聞いてみた。


「デュラン族の願いとは、デュラン族の安息の地を作ることよ」


 ラウィーアの目は寂しそうだった。


 なるほどな。やっとヴァンレギオスでその地を見つけられたと思ったのにそうはならなかった。ラウィーアは残った国民を逃がすことしかできなかった。それが寂しいのだろう。


「任せておけ。ここサロモン王国をデュラン族だけでなく亜人や魔族にとっての安息の地にするからな」


 ラウィーアはフフフと笑って、


「頼りにしてるわ~~~あ・な・た~」


 俺の首に腕を巻きつけて唇を押し付けてきた。

 口の中にラウィーアの舌と吐息が入ってきて、俺はラウィーアの背中に回した腕に力を入れて抱きしめる。


「クスッ、肌を触れ合いながら夫と口づけするのは悪くないわ。ええ、とても安心する。あと……燃えてくるわ」


 俺の顔を獣の目で見てそう言ってはまた唇を重ねてくる。

 ラウィーアってまだ十七歳のはずだけど、既に雌の顔をしていた。


 ラウィーアの肌の香りと吐息が混じった香りにやられて俺は本気モードに入る。

 彼女を下にして、彼女の身体を手で確かめ始めた……。



・・・・・・

・・・


 翌朝、ラウィーアを連れて一部屋づつ子供たちの顔を見ていると、


「毎年一人子供を産むつもりでいるから、宜しくね」


 それは貴女大変でしょうにと思ったが、希望通りに子供産めるわけじゃないしなと思い直し黙って微笑むだけにした。


 長男のレオポルドと次男のルドルフはもう五歳でラウィーアの顔を見ると近づいてきて”おはようございます”と言ってペコリと挨拶したので、俺は”偉いな”と二人の頭を撫でた。”そうよ~レオもルディも本当にお利口なんだから~”と目を細めてマリオンが笑ってる。


 朝食前の訓練へ俺はエルザークのもとへラウィーアを連れて行く。こう見えても毎日の訓練は欠かさずに続けている。


「おはよう、エルザーク。今日は新しい嫁さん紹介しなきゃと思って連れてきた」


 そう言うと、


「知ってるに決まっておるじゃろ。我を誰だと思ってるんじゃ」


「そう言っても、ちゃんと紹介しなければ、何故紹介しないんじゃと拗ねるんだろ?」


「ワハハハハ、判っておるではないか」


「まあ、いいや。今日も宜しく」


 時間を遡る訓練だが、やっと二秒前まで遡って自分と操作したい対象を操作できるようになった。当面の目標の五秒まではまだ遠い。


 いつもようにエルザークが俺を過去まで連れていく。今日は三秒前だ。

 連れて行かれた時間帯で、その状況を俺は感じ取るよう神経を集中する。


 最初の頃は過去に遡る感覚が判らず苦労していたが、今は別のことで苦労している。一秒遡るごとに変わる周囲の変化に流されてしまうのだ。


 エルザークは”それは時間を意識しすぎてるからじゃ”と言うのだが、意識しないと一秒前も二秒前も判らなくなるし、意識すると周囲の変化に流されちゃうしなあ。


 まあ、これも”慣れるしかないじゃろ”というエルザークの言葉に従って、とにかく毎日続けている。


「……それは……森羅万象……ですか?」


 ラウィーアが目を丸くして、口に手を当てて驚きながら聞いてきた。

 口も開けないほど集中している俺の代りにエルザークが答える


「そうじゃよ。さすがにデュラン族だな。判るか?」


「……私が知らない龍気……だからそう思っただけで、実際には初めて見ました」


 ”ゼギアスが使えることは、サラとお前達嫁以外には内緒じゃよ?”とラウィーアにエルザークは釘を刺してた。ラウィーアは黙って頷き、俺の訓練の様子を見守っていた。

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