42、優柔不断なゼギアスと、決断するヤジール(その二)
我が家の裏には庭があり、そこには温室があり、地球から複製してきた種を植えて様々な花や樹を栽培している。観賞用のものもあるが、その多くは香りの検証のために、最近だと、アロマオイル? エッセンシャルオイル? を作り始めてるのだが、そこで利用できそうな種類を栽培してる。
それらの世話はサエラが好んでやってる。図書館で栽培方法などを調べ、生育中を観察した結果を毎日記録してくれていて、今や香料のための花を生産する地域となったザールートで新たに栽培する品種を選ぶとき、サエラの感想と記録は欠かせないものになっている。サエラは、我が国の商品開発で大きな力を発揮してると言っても過言ではない。
今日も温室で世話をしながら観察しているようだ。珍しいことにリエッサも一緒に居る。リエッサは活動的でアウトドア系の作業は好きだから、意外と合うのかもしれないけれど、観察のような作業は苦手かもと思っていた。
温室に入り、二人の様子を見ていると、サエラに教わりながらリエッサはしゃがんで土をいじりはじめた。肥料? 水やり? 何をしてるのかと見てると、根の発育状況を調べてリエラに報告してるようだ。
俺の気配に気づいたサエラが声をかけてきた。
「温室で見かけるのは珍しいですね」
サエラは微笑み、リエッサも立ち上がってこちらを振り向いた。
「ゼギアス様、今日はもうお仕事終わりですか?」
「そんなことろだね。気持ちが落ち着かなくてさ。今日は早めに帰らせて貰ったんだ」
頭を掻きながらバツの悪い顔でそう答えると、
「この作業が終わったら、散歩しましょう。付き合ってください」
”家でゴロゴロしようと思ってたが、どうせ気持ちの整理しなくてはいけないのだから、散歩もいいよな”と思い、”じゃあ居間で待ってる”と答えた。
居間に戻る途中、子どもたちの顔でも見るかと部屋を見て回ると、ベアトリーチェやマリオン、スィールにミズラと侍女たちがそれぞれの部屋で子どもの相手をしていた。母親の表情の奥様達を見るのは好きだ。俺は母親の記憶が少ないせいか、そういう表情を見るとちょっとしたことで感動する。
あれって、何なんだろうな。
母親の表情って安心する。
俺にとっては奥さんであって母親ではないのに、彼女達の表情で安心するんだ。
なんか不思議だなと、安心するたび毎回思う。
こういうのは他の男も同じ気持ちになるのか、いつか確かめてみたい。
誰かしらが用事で居ないことが多い我が家だが、今は全員が揃ってる。
こういうのは珍しいなと、他の家では大したことではないかもしれないことに満足して居間へ向かった。
居間で、リエラが淹れてくれたお茶を飲んでいると、着替えを済ませたサエラとリエッサが来た。サエラ達も少し休んでからにしようかと言ったが、すぐ出かけようと言うのでお茶を一気に飲み干して出かけることにする。
さあ、どちらに向かって散歩しようかと言うと、俺と最初に会ったアマソナスの集落へ行きたいとリエッサがいう。サエラと話し合って決めたようで、サエラもそこが良いと言ってる。二人がそう言うならと、俺は二人の手を取り転移した。
首都と同じような建物に建て替えられ、以前とは景観も空気も違う。
国内視察のたびに何度か立ち寄っていたから、俺には特に驚きはない。
「ここも綺麗になりました」
俺の左腕に腕を回してリエッサが呟く。俺は”ああ、そうだな”と返して、再び集落の様子を見回す。
「ゼギアス様が優しい方でなかったら、あの時に命を落としていただろうと、ここに来るたび思い出します」
「あら、リエッサさん、主様に何かしたんですか?」
右側から俺の腰に腕を回して、サエラが聞く。
「相手の姿を知らないって怖いですよ? 私、ゼギアス様のこと見下した態度で、サラ様とベアトリーチェ様のお二人を同時に相手するつもりで喧嘩売ったんです」
「それは命知らずですわね」
「ええ、ゼギアス様が大事にされてるお二人に喧嘩を売って、ゼギアス様の怒りをかったりでもしていたらと考えると、目の前の情景も見られなかったはずです」
「そうですわね」
集落の人達からの挨拶に笑顔で応えながら、三人でのんびりと歩く。
「でも、そんな私でも今はゼギアス様のおそばにいられるようになった。これって凄いことですよね」
「リエッサさんが仰りたいことは判りますわ。私達魔族の考え方と違うゼギアス様だからですわね」
「ええ、そう思います。戦いしか楽しめなかった私が、花や木々の成長を楽しみするようになりました」
「サエラ、リエッサ、誰かから何か言われたのかな?」
二人の会話を聞いていてどうも違和感を感じたので聞いてみた。
「ええ、シモーナさんから”ゼギアス様が奥様達に与えてくれた変化について話してください”と言われました。今、お悩みのことがあるのでしょう?」
リエッサが隠すこと無く教えてくれた。
なるほど、シモーナか。
「主様、生活環境や生活を共にする方が変わるだけで人を変えることもできるのですわ。変わることや変えることを怖がらないで欲しいです」
「二人は、今、幸せかい?」
「「ええ、とっても。」」
笑顔ですぐ返事が返ってきた。
「そうか。判ったよ。ありがとう。気持ちの整理がついたよ」
俺はカリネリアを占領し支配下に置くと決めた。
そして今より少しでも幸せな生活を見つけやすい環境を作ろうと決意した。
俺の拘りなどより大事なことは、俺の分かる範囲だけでもいいからより良く変えることだ。
シモーナの思い通りになるのはちょっと癪だけど、結局、身近な誰かから何かしらのきっかけさえ与えられれば、ヴァイス達が主張する方針へ俺の気持ちは落ち着くだろうと、俺の拘り、俺の気持ちの整理などその程度なのだということが自分でもよく判った。
チョロい!!
チョロすぎるぞ! 俺!!!
……まあ、いいや。
俺達三人はしばらくアマソナスの集落を歩き、そして帰宅した。帰宅したときには、俺の悩みは消え、安らかな気持ちで家族との時間を楽しめた。
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