45、カリネリア占領の影響(その二)

「それでアレは上手く行ったのか?」


 コルラード軍との戦闘報告をアロンから聞くため、カリネリアの空き家を利用した占領対策本部に俺は来ている。自治領主宅は俺が消してしまったため、比較的広い空き家を利用しているのだが、間取りは狭くアロンから”領主の館、消さなくても良かったのでは?”とブチブチ言われたが、この件で反省する気は俺にはまったくない。


「ええ、お見せ出来なかったのがとても残念です」


 アレとは、花火と爆弾のこと。


 コルラード軍が密集してるところには花火を撃ち込み、コルラード軍の周囲、比較的兵士の少ないところには本気モノの爆弾を空戦部隊から落とす予定だった。


 もしコルラード軍が撤退しないようなら爆撃しまくるつもりでいたのだが、どうやら撤退してくれたようだ。兵士もだが、コルラード軍のヤジール将軍もビビったことだろう。


 この世界の現在には、まだ火薬はない。


 そのような環境では、花火の大きな音には驚いただろうし、すぐそばであの光を見たものは一時的に目が見えなくなっただろうし、花火でも直撃されればいくらコルラードが誇る重装備兵でも下手をすれば死ぬ。

 爆弾はあえて言うまでもなく、周囲数メートルに居る兵は吹き飛びやはり命を落とすだろう。


 ちなみに、花火は研究中のもので、二十一世紀の日本人が見たら、”ただ大きな音を出して光るだけだろう”レベルのもので、まだまだこれからのものだ。だが、そんな程度のものでも打ち上げたら仲間は大喜びし、また観たいと言ってくれたので、いずれはサロモン王国とその関係自治体で花火大会を開きたいと考えている。


 花火を二千発、爆弾は4千発用意してコルラード軍との戦いに我が軍は望んだ。


 今回はトウガラシ爆弾は使わなかったが、トウガラシ爆弾で敵の動きを邪魔してから爆弾を投下し、残った者に飛竜が炎ブレスで攻撃するのが、うちの空戦部隊がこれまで訓練してきた戦法。


 空戦部隊が居るだけでも、うちの軍には圧倒的優位性がある上に二種類の爆弾で爆撃するのだから、敵が我が軍よりどれだけ多かろうと苦にすることはないだろう。敵に戦闘神官や術師が居たら、そいつらだけエルザとクルーグがAK-47で狙撃し、仕留められなくても爆弾への対応させないようにすればいい。


 うーむ、花火が爆発した瞬間にた~まや~と叫びたかったが、それは次回に持ち越すとしよう。


「傭兵たちは、どれだけ生き残ったようだ?」


 うちの地上部隊は本当に怖い。


 厳魔の突進力と殺傷能力による攻撃はけっこうショッキングな結果を生むのでお子様には見せられない代物だし、敵を切った時のアマソナスの表情も女性不信の原因になるかもしれないのでお見せできない。

 支援魔法で強化されたこの二つの軍はマジで強いし怖い。


 重装備歩兵が相手だろうと、太い鉄棒を軽々と曲げる厳魔のパワーに対抗できるとも思えない。攻撃してもまず当たらないアマソナスを相手にすると、よほどメンタルが強い奴じゃないと気持ちが折れてしまうだろう。


 そして厳魔やアマソナスに鍛えられてる獣人達も個々の力では両種族に劣るものの、多くの獣人が有する高い敏捷性を活かし、反応鋭い組織だった動きで敵の弱いところを的確に攻撃する。


 相手の魔法攻撃にはデーモンとゴルゴンが結界や防御魔法で対応するし、こちらからも属性魔法や状態異常魔法で攻撃する。


 複合素材弓を持つ弓兵が出るまでもないのだけど、弓兵さん達もはりきってガシガシ敵を減らしてくれる。更に、傷ついた兵はエルフとデーモンの治癒回復魔法チームがその場で治してしまうから、うちの兵の消耗率は低く相手側から見ると、いつまで経っても兵が減らないという恐ろしい事態に直面することになる。


 そんなうちの地上部隊を相手にした傭兵達はいくら二万居ようと蹴散らされるのがオチである。そもそもこちらの地上部隊は数の上でも十五万名以上居るんだし、故自治領主親子がうち相手に勝機があると考えた理由がさっぱり判らん。


「生き残ったのはせいぜい数百名でしょう。逃げきれたのがその程度かと」


 生き残った数百名には、今後の幸運を祈ろう。


「しかし、数倍の兵数だったうちによく向かって来たもんだな。勇気があるというか無謀というか……破滅願望のある奴ばかり集めたのかね」


「ああ、相手にはうちの軍勢は判らなかったのでしょうね。ゴルゴンチームが幻惑魔法使ってうちの全体をはっきりとは判らないようにしていましたから。敵にもそれなりの魔法力ある魔術師が居れば、あの程度の幻惑魔法に引っかからなかったでしょうけど」


 何それ、怖い。

 犬が相手だと思って突っ込んだら実は虎だったみたいな怖さがあるな。

 今の俺ならそれでも問題ないが、前世の俺だったら泣きわめいてひたすら逃げるよね。


「そうか。とにかく空戦部隊による爆撃には想定通りの効果あったということだな?」


「ええ、あのままコルラード王国攻め入ってしまおうかと誘惑に駆られましたよ」


「冗談だろ?」


「ええ、冗談ということにしておいてください」


 いや、これは冗談じゃなかったな。

 アロンはいたずらっ子の表情してるもの。


「今後の占領方針なんですが……というか、我が国に併合してしまうので基本的には本国に準じた体制にしていくことになります。それで、まず決めることはカリネリアの総督を誰にするかと常駐軍の規模と誰に任せるかですね」


「それなんだが、常駐軍の方は十万程度でホーディンに任せようと思う。本来なら柔軟に対応できるアロン、お前にと考えたのだがお母さんのことがあるだろ?」


「ええ、総督になれば常時仮面被ってるわけにはいかないですからね」


 納得したアロンの表情を見て俺は続ける。


「ああ、カリネリアはホーディンに任せ、本国の弓兵は当面ゼアリーに任せて、後任が決まり次第補填する」


 ホーディンもゼアリーも、以前アロンが探してきた人材だ。


 当初は三百名~五百名規模の指揮官経験者として弓兵部隊の二つを彼らに担当してもらったが、ここ数年で十万規模の軍を組織的に動かせるようになった。彼らのどちらでも任せられるのだが、ホーディンはゼアリーよりも冷静な点を買ってカリネリア常駐軍を任せようと考えた。ゼアリーも有能な指揮官なのだが、俺と同じようにお調子者のところがあって少し心配だったのだ。


「ホーディンなら上手くやれるでしょう。判りました。ではカリネリアの総督は?」


「それなんだが、リアトスはどうかな?」


「デーモンのリアトスをカリネリア総督にすると?」


 盤上戦闘でヴァイスやアロンに認められたように、リアトスは戦局全体を見ることができる。つまり視野が広く、的確な思考ができるということだろうと俺は思ってる。だが能力はともかく、魔族だという点でアロンは危惧してる様子だ。


「ああ、あいつなら状況把握も的確だし冷静で何事にもソツがない。何より、魔族が治める自治体という実績を作りたい」


 そう、亜人だろうと魔族だろうと自治体を治められる実績をこれからは積み重ねたい。これまで以上に社会から見えるところで魔族に働いてもらう。そして人でも亜人でも魔族でも能力に変わりはないし、チャンスさえ与えられれば政治もこなせると知らしめたいんだ。


「そういうことでしたら判りました。リアトスの相談役にヴァイスハイト様が引き受けてくださるなら問題ないでしょう。最初はリアトスも戸惑うでしょうからね」


 ”常駐軍の内容とカリネリアの各部門の担当者はリアトスとヴァイスで決めてくれ”と俺は言い残し家に戻ることにした。家族に俺の決意をきちんと伝えておきたいんだ。

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