45、カリネリア占領の影響(その四)
「それでは、コルラード王国はサロモン王国と同盟を結ぶの?」
「はい、本日の会議で決まったとゲナル様が仰っていました」
「それでゲナルは何と?」
「今は仕方ないとの仰せです」
「ライオネルが次期国王になれないわけではないのね?」
「そこまでは……」
側室マールが自室でコルラード王国宰相ゲナルが送り込んだ連絡係の侍女の一人と話してる。侍女が去ったあとマールは呟く。
「サロモン軍がヤジールを亡き者にしてくれていれば、同盟でも何でも結ぶことにこんなにヤキモキしないのに……」
レイラを生んでから体調が優れず、この十数年ベッドから出ない日の多い正妻ハリダより、まだ若い自分の方が王の寵愛を受けているとマールには自信がある。王もライオネルを可愛がっているのだから、ヤジールさえ居なければライオネルが次期国王になることに誰も反対はしないだろう。
コルラード王国での側室は、子供を産んだとしてもその立場が変わることはない。
側室だから鉱山夫の娘程度の扱いはされないが、高齢の王が亡くなった後、息子が守ってくれないと元の鉱山夫の娘でしかなくなる。
ライオネルも、ヤジールがこのまま次の国王になり男子を授かりでもしたら、その王位継承順は下がる。マールを放置することは、優しいライオネルに限ってないだろうけれど、今ほどの豊かな生活が送れるかは判らない。
ライオネルだって、いつまでも王位継承者というだけでは、周囲からさほど認められない。ヤジールが王に就いたあとならば尚更だ。
マールは侍女が去った扉を見ている。
何かの合図を待ってるかのように。
年老いたオルハーンはここ二年ほど自分のもとを訪れなくなった。
まだ若く情欲を持て余していたマールは耐えきれずに情夫を作ってしまった。
ここは後宮だから情夫は入ってこれないが、連絡役を通じて合図があればマールがこっそりと外出して逢瀬を重ねている。
最近、懐妊したときなど、堕胎するために旅行を偽って十日ほど後宮を留守にしたが、さすがにもう二度と同じことは許されないと避妊にも注意している。豚の腸で作ったコンドームを装着して貰ってから行為に励むのだが情夫からは不評だ。だが、今の状態で王以外の子を宿したことがバレたら……マールはもちろんライオネルの立場も危ういので必ず装着して貰っている。
こういう不安な気持ちのときほど抱かれて忘れたいのに、いつまで待っても合図は来ない。
そういえば最近は合図の回数もめっきり減った。
情夫に飽きられたのかもしれないという考えが頭をよぎる。
だが後宮の外とほとんど接触がないマールには、他の情夫を探す機会はない。
情欲溢れる身体を持て余しながら悶々と夜が更け睡魔が来るのを待ってるだけ。
やはりこんな不自由な側室のままでは嫌。
マールの中で、ライオネルを次期国王にしなければという気持ちが再び大きくなる。
◇◇◇◇◇◇
「そろそろマールを切るべきではないですかね?」
コルラード王国第二の都市サルガラ。
領主のエルーダのもとへコルラード王国宰相ゲナルが訪れている。
「まあもう少し相手をさせよ。サロモン王国との件がこれからどう動くか判らんのだ。手駒は一つでも多いほうが良いではないか」
苦笑しながらゲナルはエルーダに答える。
「ナニに豚の腸を着けて相手するのは恥だと、部下からの不満もかなり強くなっていましてね。なだめるにも金がかかるのですよ」
「繋ぎ止めておける程度で相手してやればいい。そうだな二月に一度程度ならお前の腹もそうは痛むまい」
「まあ、なだめて続けさせてみますがね。長くは続きませんよ?」
「その時は仕方ないな。その時は堕胎した証拠を突きつけてマールをこちらの人形にするだけのこと。期待より早く妊娠してくれて助かったな」
ニンマリと笑うゲナルの様子にエルーダは”そうですね”とただ答えた。
「それで、今後どうするんですか? 下手に動くとヤバイんじゃないですかね?」
「どうしてだ?」
「サロモン王国と同盟を結ぶということは現国王派の後ろ盾にサロモン王国が付いたってことじゃないですか。現国王派を引き釣り落としたあとは、サロモン軍に攻められ貴方や私が責任を取らされる羽目になるんじゃないですか?」
「うむ、そうならないためにも計画を急がねばならない」
エルーダは声をひそめて、
「……つまり、ヤジールを」
「そうだ。あいつさえ居なければ、私の指示やマールの願いを断れないライオネルが次期国王となる」
「その上で、国王を……ですか?」
「ああ、ヤジールが居なくなった後なら、現国王が居なくなっても私は困らん」
「現国王派のナッカレとダルガマ、二つの都市は怪しむんじゃ?」
コルラード王国西部の都市ナッカレの領主ダイアンと南部の都市ダルガマの領主イアソンはガチガチの現国王支持派だ。現国王派は、領土拡大より国内充実を希望していて、領土拡大したいサルガラ領主エルーダとは意見が合わない。宰相ゲナルは、ヤジールが国王になった場合、ゲナルは実権を失うと予想し、その場合、カリネリアや様々な商人から賄賂を受け取って便宜を図っていたことがあからさまになると地位を失うだけでは済まないとヤジールを亡き者にしたいと考えてる。
「いくら怪しもうと、その時は王位継承者はライオネルのみだ。どうにもできんよ」
「そうなるといいんですがね。で、サロモン王国と同盟するのはいつになるんですかね?」
「先に、ヤジールとレイラが打診しにサロモン王国へ行く。その結果次第になるな」
「カリネリアがサロモン王国の手に落ちた以上、私の領地拡大の夢は終わったようなもの。ここまで付き合った以上ゲナル様にはうまくやっていただきたい。下手は踏まないでくださいよ?」
「ああ、上手くやるさ」
その後、ヤジール暗殺について二人は話し合い、その準備を手配した。
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