18、指揮官と兵士 (その三)

 アロンはヴァイスに預けられ、二人は毎日戦略や戦術の研究に勤しんだ。

 ヴァイスが日々蓄えた新たな知識をもとに組み立てた戦術をアロンはその理屈を理解し、また自分なりの視点で組み立てた戦術を提案した。ヴァイスも魔法や術を用いた戦術をアロンから吸収し、お互いに良き研究仲間として日々を過ごした。


 そしてアロンの出陣はやってきた。

 デーモンがアマソナスの集落へ侵攻してきたのだ。


・・・・・・

・・・


「……ということで、アマソナスのリーダー、リネッサが泣きついてきた。これを機会にアマソナスをうちの仲間に加えたいし、そうできればうちの泣き所の兵士不足も解消される。だからアマソナスを助けると決めた。俺がデーモンどもを叩いてくる。それでいいか?」


 ゼギアスはヴァイスとアロンに聞いた。


「私はこの機会にアロンと考えた戦術を試したいと思います。デーモンは攻撃魔法が得意ですが、防御には工夫がないようです。彼らの攻撃力はエルフの結界を破れるほどではないし、エルザとクルーグの弓による攻撃や、サエラの幻惑魔法を消し去るほどでもない。ゼギアス様が出ていけば楽に勝てますが、兵に実戦を経験させることも大事です。念のためゼギアス様にも同行いただきたいですが、戦闘は万が一の場合まで控えていただきたい」


「判った。ヴァイスの指揮に従うよ」


「いえ、今回は私はここに残ります。前線はアロンに任せます。アロンなら負けることはないでしょう」


・・・・・・

・・・


 アロンの方針は、

 ・敵をまとめて叩ける場所までう誘導すること

 ・敵を油断させること

 ・空中に居るデーモンを地上に下ろすこと

 この三点に絞られていた。


 そこで、アマソナス達は全員集落から離れ、厳魔の集落方面へ移動させる。

 その際、少し攻撃しては敗退して逃げるようなフリをして下がる。

 真の戦地として決めた湿地帯まで退却したら、アマソナスは二手に分かれて湿地帯の左右に移動する。

 湿地帯の空中にはサエラの幻惑魔法で飛竜が飛び交ってるように見える状況を作る。

 敵には幻惑魔法によるものだと悟られるだろうが、空中に居ることを嫌って地上に降りさせればそれでいい。


 湿地で動きづらい状態に追い込んだら、左右のアマゾナスと飛竜に乗ったエルザとクルーグに弓で攻撃させる。同時にアマソナスにはエルフによる防御結界を張る。


 敵が固まってる地帯をアマソナスが、空中にいる敵とアマソナスの後方や左右から攻撃しようとする敵をエルザとクルーグが攻撃する。


 連絡は、思念伝達ネックレスを持つアロンが、アマソナスのリネッサとエルザ、クルーグ、サエラへ直接行う。


 アロンは上空で飛竜にのったまま指示する。

 アロンには超高倍率双眼鏡と思念伝達ネックレスがあり、戦況の把握と指示に問題はない。


 俺はヴァイスとアロンから説明を受けた。唯一心配なのは、エルフの防御結界のところだという。もしデーモンの中にエルフの結界を破れるほどの魔法を使うものが居た場合は、俺がそいつを攻撃してサポートすることになった。実際は、結界が破られそうな敵が居たら発見しだいエルザが倒すことになってるので心配は要らないだろうとのこと。


 うん、大丈夫だろう。

 ヴァイスもアロンも各種族の特徴や性格、その力を研究していた。


 いざとなれば俺が乱入して倒してしまえばいい。

 皆の危険はほぼ無いと思われる。


・・・・・・

・・・


 そしてアロンの初陣は予想通りの結果に終わった。


 撤退を繰り返すアマソナスを侮ったデーモン達は、湿地帯の奥におびき寄せられ、こちらが反撃に出るまで、自分達が罠に嵌められたことに気づかなかった。これはリネッサがアロンの指示に忠実に従い、デーモン達に罠の所在を気づかせなかった事が大きい。


 そして湿地帯では、デーモンはただの的に過ぎなかった。


 サエラの幻惑魔法を嫌って地上で戦っていたが、それでは勝機はないと気付き、空中で移動しようとすると、エルザとクルーグの良い的になった。エルザとクルーグは望遠鏡にも匹敵する視力でデーモンの攻撃に当たらない場所から攻撃する。二人の遠距離攻撃は攻撃力といい精度といい、敵に回しちゃいけないものだった。見ている俺も、彼らの矢があたるたびに、よくもあんな離れたところから正確に当てられるものだと感動した。長距離狙撃用ライフル持たせたらゴル●サーティンもびっくりじゃないだろうかと思ったものだ。


 デーモンの総数は千名ほどで、こちらはアマソナス五百名、エルフ二〇名、他には俺を含めて五名の……敵の半数にも関わらず圧勝した。アマソナスの中に多少怪我人が出たが死者はゼロ。敵はその半数以上を失った。


 捕虜をどうしようかと考えたが、聖属性が付与された腕輪と鎖を着けて、檻に入れて生かしておけばいい。腕輪や鎖のせいで魔法は使えないし、体力も極度に落ちる。逃げることもできないだろう。


 アマソナスの殺してしまえという主張を退け、うちで預かることにした。いずれはデーモンとも付き合う可能性がある。その必要が出たときの取引に使えると考えた。


 アロンの指示はタイミングといい狙いといい、俺には完璧に見えた。


 まあ、あのヴァイスがアロンに任せて問題ないと言ったのだから信頼していたのだが、目の前で見てその思いを厚くした。


・・・・・・

・・・

 アマソナスのリネッサは、ゴルゴンの時と今回で俺達の力を知り、俺達の傘下に入りたいと言ってきた。以前の取引で出た内容……俺達の軍に加わり手伝うことはもちろん戦闘以外のことでも手伝うと言ってきた。


 傘下じゃなく同列の仲間として付き合いたいと言うと、本当にそれでいいのかと疑問な表情をしていたが、それがいいんだと俺は言い認めさせた。


「あ、男を種馬としてではなく、やはり対等の相手として見てくれるといいな。無理強いはしないけど、できればそうして欲しい」


 その方がお互いに気持ちよく一緒に過ごせると思うと言うと、リネッサは


「ああ、ベアトリーチェだったな。あのような者が居るんだ。アマソナスの習慣が正しいとは思わなくなったよ」


 リネッサは気恥ずかしそうに言った。

 その表情は戦闘狩猟民族アマソナスの顔じゃなく、そこらに居るごく普通の女性の表情で、俺には可愛らしいものに見えた。


 うん、すぐに何でもうまくはいかないけれど、時間を経たらアマソナスも馴染んでくれると思えた。


 だって、アマソナスって外見はけっして悪くないんだよ。

 あの独特な習慣というか癖というか……が無ければ男達にも人気でるんじゃないかと思うんだよな。

 この辺りのことはサラにもベアトリーチェにも言わないけどさ。


 アロンとアマソナスという頼りになる人材・人員が仲間になったけれど、まだまだ足りない。とは言え、一つ前進したのは確かだ。


 そろそろ国の体裁を整える時期だな。

 俺はヴァイスに相談し、準備を始める。

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