第二章 造の章
9、隠れた力 (その一)
―― ゼギアスがヴァイスと出会う二月前ほどに戻る。
お金がない。
正確に言うと、人を雇うお金がない。
生活するだけなら、魔獣の皮や薬草を獲って売れば大丈夫。
だが、国造りをするとなると、いろいろと経費が発生、特に人件費が必要となる。
コンスタントな収入が必要だけど、まだ安全保障体制は未整備だし、公共サービスも提供できずにいる中で税をくれだなんて言ったら暴動が起きるかもしれん。その上、貨幣経済の外にいる種族も居るから、やはり税収をあてにするのはまだ早いというか無理。
この辺りでとれる天然資源を利用して、高度な工業施設を必要としなくても作れる製品。なおかつ神聖皇国やジャムヒドゥンで売れそうなもの。
煉瓦やガラスに陶器、あとはセメントやコンクリートくらいか。
どれも自国でも使うモノだし、将来炭酸ナトリウムなどのソーダを作れるようになり、石鹸やガラスの食器や装飾品など作れるようになれば更にいい。
んー……将来的にはコークス炉が必要になるし、ガラス製造でも耐火煉瓦が必要だなぁ。とすると……ろう石、耐火粘土と雲母が必要か……この辺りで見つかるかな。
火山は西側にあるから、その周辺の地層を探せば見つかるかもしれない。
他の人は耐火粘土、ろう石や雲母と言われても判らないだろうから、この作業は当面俺がやるしかない。
ろう石と雲母はその特徴を活かして何かに利用してる種族や人がいれば産出地も判る。ろう石も雲母も特徴は子供でも判る。ろう石は筆記用で使ってる可能性があるし、雲母は薄く剥がれる白か黒の半透明の鉱物だし説明しやすい。
それに一つずつでもサンプルを用意できれば、協調や参画を頼むために各種族をまわる際、俺が居なくてもついでに聞いて回ることもできるだろう。
よし、あとは当面のお金だ。今のところどうしても給金が必要な者は居ないけど、マリオンや手伝ってくれてるエルフも、いつまでも無給でというわけにはいかないだろう。特にマリオンは危険。
給料はダーリンの身体で払って~といつ言い出さないか、とても、とても心配だ。
いや、いちゃつくのはいいんです。マリオンが魅力的な……性格も身体もエロい女性なのは認めます。毎日一緒に過ごして性格も悪くはないことも今は判ってる。マリオンを愛人にしても特に問題になりそうなことは起こらないだろう。
ベアトリーチェもサラも、俺に第二夫人ができようと側室や愛人ができようと構わないと言ってる。それに強者は子孫を多く残すべきで、残さないのは怠慢と誹られる社会だ。個人的には、一人でも多くの子どもを産むために女性を見ているようで嫌な気もする。この世界の倫理観に馴染んでいるから、夫人を多く持つことがおかしいとは感じていない。それでも前世の倫理観が俺には残っているから、やはり多少は抵抗がある。
夫人を多く持つにしても、ベアトリーチェをこれまで同様に大事にし、平等に相手ができるという前提があるだろうが、それは俺もそうすべきだと思ってるから問題はない。
だが、暫くの間はダメだ。無理だ。
考えることもやらなきゃならないことも今の俺には多すぎる。
ベアトリーチェと過ごせる時間を捻出するのもこれから難しくなりそうなのに、マリオンのことまで考えて日々のスケジュールをたててこなすのは無理がある。
だから、給料なんて要らないと言ってくれるマリオンとエルフ達には感謝しているしこれまで甘えてきたが、やはりきちんとケジメはつけるべきだろう。
ということで、俺の考えを伝えて旅費用の貯蓄を切り崩したいとサラに相談した。
「そうねえ。お兄ちゃんから食料生産や特産品製造の展望を聞いて、先の見通しについては判った。だけど、当面必要なお金をどう工面するかと言えば、貯蓄を切り崩すしか無いのよね。でも三ヶ月程度しかもたないわよ?」
それに俺が必要だと伝えた鉱物が見つかるとも限らないしと付け加えて、どうしようかとサラも悩み始めた。
鉱物等の資源に関しては、実はさほど心配していない。
グランダノン大陸は、地球のユーラシア大陸とアフリカ大陸を合わせたより広いし、将来的には俺が作る国に取り込む、もしくは友好関係を築く自治地域と見込んでる範囲はアフリカ大陸並に広い。
時間と労力をかけて丁寧に探索すれば、必要なモノは必ず見つかるとほぼ確信している。
だからとにかく時間が必要なんだが、うーん、やはり三ヶ月程度かあ。当面、給与を渡してまで働いてもらいたい人は少ない。だから、半年くらい支えれればと思ったんだが甘かったか。そりゃそうだよな。三年分ほどの生活費があると言っても俺とサラの二人分だものな。
俺が薬草取り頑張れば当面のお金は問題なくなるだろうけど、そうすると先を見越してやらなければならないことのための時間が俺に無くなるからダメだ。
俺とサラの会話を聞いていたエルザークが、
「ゼギアス、お前は神の領域に踏み込んでると初めて会ったときに伝えたな」
「ああ、何のことかよく判ってないが」
いつもは黙って、話を聞いたり様子を眺めてるだけのエルザークが珍しく話に割り込んできた。
「先程からお前達の話を聞いてると、お前達がお前達が持つ力を理解し活用できれば簡単に済むことばかりなのじゃ」
「どういうことだろうか?」
「例えば、お前が作ろうとしてる設備だったか……それはお前が転生を繰り返して来た中で得た知識なのだろう?」
サラには転生や前世の話をしたことはなかったし、エルザークにも話したことはなない。
「何故それを?」
「お前の記憶を読ませて貰った。お前の居た世界の神が気まぐれにお前に与えた転生の力と転生する時の特典。前の世界……地球と言ったか、そこでの最後にお前が願った願いがあちらの神を困らせ、こちらの世界にお前を厄介払いしたと気づいていないようだな」
「は?」
「ククククク、地球の神はな、お前に与えた”死に際の願いを叶えて、さらに記憶を引き継いで輪廻転生する”力が何度も転生繰り返されるうちに、お前から取り上げられなくなるほど、お前という存在と一体になってしまうとは予想できなかったのだ」
苦笑しながらエルザークは話を続ける。
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