9、隠れた力 (その二)

「それでお前が願った最後の願い”この世に神がいるなら、神に近い存在になりたい。”という願いを知り慌てたんじゃな。あちらの神は考えたのだろう。自分が支配する世界に自分に近い力を持つものが自分以外に存在されては困るとな。あちらの世界には神に近い力を持つ存在は過去にも居なかったし、今後もそのような存在を許すつもりは無いのだろう」


 俺も自分でも知らないことが話されてるので真剣に聞いているが、サラもかなり真剣に聞いている。サラには近いうちに全て話すつもりで居たが、こんな形で知られることになろうとは思ってなかった。参ったな。いや、言い出すきっかけができたと考えるべきか。


「そこでじゃ、この世界にはデュラン族という神に近い力を持つ可能性を持つ存在がいることに目をつけ、お前をこちらの世界で転生させたのだ。かなり無理をしたじゃろうな。別の神が支配する別世界へ無断で干渉するなど神としても許されることではないからな。もし我がこのことを知り、怒ってあちらの世界に干渉したとしても文句は言えん。少し気に入らないことは確かだが、お前がこれから何をするのかとても興味があるから、今回はあちらに干渉などしないがな。だが、そういうリスクがあると判っていてもお前を厄介払いしたかったのじゃろう」


 こちらの世界へ転生したことに文句を言うつもりはない。サロモンやサラと共に暮らしてきた日々はそれなりに幸せだったし、ベアトリーチェという素敵な嫁さんも貰えた。


 だが、厄介払いされたと言われると俺も気に入らないな。


「そこまでは判った。だが、エルザークが言う俺の持つ力とは何だ?」

「うむ、いくら神に近い力……潜在能力があるお前でも向こうの世界にとこちらの世界を自由に行き来することはできん。存在と虚無の理をたとえ理解しても生身の身体を持つ者には、世界の間にある広大な虚無空間を越えられん。我の予想を超え、自身の肉体さえも意識を保ちながら維持し、虚無空間を越えられるほどの存在に至れば別だがな。ま、とりあえず現在は確実に不可能じゃな」


 俺にできないことは今はいいんだよ。

 知りたいのは、俺にできるはずのことで俺がまだ気づいていないことだ。


「だが、あちらの世界にある命を持たぬモノであればこちらに持ってくることは可能だ。どんなものでもとはいかんがな。先程のお前の話から察すると、お前が今必要としてる資源や設備の多くは量子化と再構成で可能だろう。もっともそうまですることにはならぬだろうが……。それにその程度のことならあちらの神も見て見ぬフリするじゃろうよ」


 うーん、必要な説明なんだろうけど、もっと簡単に言ってくれないものかな。

 まあ、神はどこでもそういうものなのだろうけど。


「つまり?」


「お前は、必要としてるモノがあちらの世界のどこにあるのか知ってるのだろ? 知らなくても知る術は知ってるのだろ?だったらあちらの世界から必要なモノや情報を調達すればいいのじゃよ。その為に必要な力をお前は持っていると言ってるのだ」

「具体的に教えてくれよ。その力とは何だ?魔法ではないのだろう? 多分、龍気のことを言ってるとは思うが……」


「そうじゃ、しかし正確ではない。魔法の力も当然必要じゃ。お前は転移できただろう? お前の記憶にあったからな。


 だが、体力の消耗が激しくて、転移距離や回数などに制限があると考えとる。量子化と再構成を龍気のみで無意識で行ったのだからそれは仕方ない。


 魔法で量子化と再構成する術があるのは知ってるじゃろ? 人間は転移や転送魔法と呼んでるがな。もちろん龍気でも同じことはできる。だが、龍気が体力に依存している力であることは知っとるな? 体力はその肉体に依存する。魔法も体力に多少は依存しているが、魔法はそのほとんどを魔法力に依存している。そして魔法力とは、この世に存在する様々な力が体内で魔法力という形に変換されたもので、個人個人でその変換能力も、利用できる力の上限も生まれた時にほぼ決まっている。それはほとんどの場合、神に近づくほどのレベルではない。


 しかしゼギアス、魔法力に限ればそのような制限がお前にはまったくない。だから、魔法で転移・転送できるようになれば、距離も回数も無制限に近い。


 そしてそれだけならこの世界でしか利用できない力だ。

 そこで龍気の、それも万物を理解し利用できる力を持つ属性”森羅万象”を利用するのだ。森羅万象属性の龍気で、こちらとあちらの世界を繋げば、あとはお前の持つ無制限の魔法力で何とでもなる」


「エルザークの話を聞いてると、龍気でこちらとあちらを繋げ、俺自身が魔法で転移することができそうなんだが」


「今は無理じゃろ。森羅万象を使ってる間のお前の体力消耗はお前が考えるより相当多い。この力を持ったデュラン族初代はお前のような知識も体力も無かったので、様々なことに利用しようとは考えなかったが、それでもいろいろチャレンジしとったよ。

 でもな、些細なことにしか利用できなかった。体力が保たなかったんじゃ。お前は我と話す時無意識に使えてたようじゃが、初代は小一時間も話すと疲れ果てていたぞ。お前は皆が言うように化物レベルの体力と魔法力を持つが、それでも森羅万象を使うならそう多くの時間には耐えられないだろうよ。森羅万象での転移を思い出せばいい。この世界の中での転移ですら、龍気だけで行うとすぐ疲れたじゃろ?森羅万象の龍気とはそれほど負荷がかかるものなんじゃよ」


 確かに、龍気での転移では俺一人でもそう遠くには転移できなかったし、同行する人が増えれば更にできないだろう。


「じゃあ、俺はまず何をすればいい?」


「まず森羅万象の属性を使いこなせるようになれ。既に無意識で使ってるのだから、多少の訓練でできるようになるじゃろ。それは手伝ってやる。次に龍気と魔法の同時使用じゃが、それも”闇”属性龍気を魔法に混合させることが既にできるのじゃから問題ないじゃろ。ここまで出来るようになれば、あとはやってみるだけじゃ。試しながらどこまで何ができるのか理解すればいい」


 あとは転移・転送魔法か、だがそれは原理も判ってるから訓練すればすぐ使える気がする。今のところ他のことばかりやってたから、取り掛かっていないだけで。


「判った。今日から早速、森羅万象属性を自分の意思で使えるよう訓練する」


 エルザークが俺の横で真剣に話を聞いていたサラに顔を向けた。


「そして、サラ、お前も今までの話とまったく無関係ではないのじゃ」

「え?どうしてですか?」


「ゼギアスはお前も知っての通りの生身を持つ者としては化物じゃ。だが、ゼギアスが森羅万象の力を使い目的を果たすためにはお前の力が必要になる。お前には、ゼギアスとは違う種類じゃが、他の者には使えない力がある。お前は聖属性の龍気の力、通常使われる癒やし治す力以上のことに利用できる。制限はあるものの、創造する力と言っていいじゃろう。いや、原材料は必要だから製造の力のほうがより正しいか。情報と材料さえあれば何でも作り出せてしまうんじゃ。もちろんこれも龍気の力だから、体力に依存するので限界はある。だが、言い換えればお前の体力が持つ範囲であれば何でも作れるのじゃ」


「そんな力が私にあるとは思えませんが……」


 サラは怪訝そうに答える。


 そうだよな。そんな力をサラが使ってる所なんか俺も見たことがない。


「いや、あるのじゃ。お前も自覚しておらぬだろうが、お前は他人から依頼されたモノを作ることに苦労したことはないだろう? いくらセンスがあろうと、まだ幼く経験が少ないお前が何でも作れることに疑問を抱いたことは……まあ、せいぜい繕い物程度だから意識はしないで済んだのじゃろうな。だがな? お前は無意識のうちに力を一部発現させていたのじゃ」


 ふむ、俺だけじゃなくサラの記憶も読んだのか。


 しかし、他人の記憶を勝手に読まれるのは困るな。

 サラは大丈夫だろうが、俺の場合、他人に知られたくないことも結構多いし……。


「それで私にそのような力があるのだとして、お兄ちゃんがすることに私が必要というのは?」


「いくらゼギアスが化け物じみた体力と魔法力を持ってるとしても、異なる世界から持ってこれるモノは限られるじゃろ。だが、それでは必要なモノを手に入れられない可能性が生じる。そこでお前の出番じゃ。ゼギアスが向こうの世界から……知識や情報なら持ってくるのは確実に可能じゃ。その情報をもとにお前がこちらで製造するのじゃ。必要な材料はゼギアスにでも用意させればいい」


「では私はその製造の力を自分の意思で使えるようになれば良いと?」

「そうじゃ、事情を知らぬ者にはゼギアスよりもお前のほうが神に見えるじゃろうな、ハッハッハ」


 そりゃそうだろう。

 目の前で材料が製造品に変わるところなど想像するだけで凄いことが起きてると感じるに決まってる。事情を知る俺だって現場を見たらビビる。


「お前達が兄妹きょうだいとして生まれたのは偶然じゃ。我も予想できなかったことが起きて楽しいな。この世は本当に面白い」


 カッハッハッと大笑いするエルザークを横に、俺はサラのことを誰かに自慢したい気持ちになっていた。いや、これまでも自慢の妹だったから、機会があれば自慢はしていたけど、これまで以上にだ。


 確かに、俺は異なる世界と繋がりを持てる力があるのだろう。この世界には無い情報や知識を持ってこれるのだろう。そんなことでエルザークが嘘を言うとも思えない。でも、知識や情報はとても重要だが、それを現実に実現し有効なものにすることができるのはやはり重要なことだろう。


それにしても……


「エルザーク、俺と初めて会ったときは、語尾に”じゃ”をあまり使わなかったのに、今日はほとんどが”じゃ”なのは何でだ?」


「その方が老師とか偉い人はそんな感じじゃろ? お前の記憶の情報ではそうではないか? 神龍の我としては人と話す時このほうが相応しいと判断したんじゃ」


 くだらん情報を根拠に口調をわざわざ変えるなよ、子供か! と言いたかった。


 そもそも偉い人だからって、”じゃ”を使うとは俺は思わなかったぞ。

 単にエルザークが気に入っただけじゃないのかねぇ。

 それにしても、神龍も”らしさ”なんかを気にするんだな。

 一応気に留めておこう。

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