4、亜人狩り (その一)
オーガの襲撃を退けた翌日、ゼギアスとサラは家に帰る準備をしていた。
(お兄ちゃんの力を知った以上、エルフはお兄ちゃんを味方にしたいと考えるはず。
ベアトリーチェさんやマルティナさんをお兄ちゃんの嫁もしくは嫁候補にしたいと伝えてくる可能性は高い。そして泉の森に留まらせておこうと考えるかもしれない。
お兄ちゃんがお嫁さんを貰うのはいい。
でももう少しベアトリーチェさん達を見極めたいところだわ。
今のところは友達くらいがちょうどいい)
サラはそう考えていたので、ベアトリーチェ達が友好を深める目的でサラ達の家のそばに引っ越してくるという提案にはまったく異論がなかった。
(想定外の問題でも起きなければ、お兄ちゃんはベアトリーチェさん達を気に入るはず。私だって気にいるはずだわ)
一方のゼギアスはというと、ベアトリーチェ達が家のそばに引っ越してくると聞いて大喜びしていた。もちろん下心はある。でもそれ以上に、サラの友達にもきっとなってくれると喜んでいた。
(サラは俺のことを構いすぎて友達が少ない。
一人でも多くの友達を持ってもらいたい。
友人が多ければ多いほどサラにとっての幸せもきっと多いだろう。
それは、いつか自分と離れて暮らすことになったときに現れるに違いない)
ベアトリーチェ達の引っ越しは、兄弟揃って相手のためにいいことと考えていた。
◇◇◇◇◇◇
ベアトリーチェ達の家が建ち、引っ越してきたのは冬が始まってすぐのことだった。
雪は降り始めていたが、まだたくさん積もるほどではなく、ゼギアスも手伝ったため引っ越しは比較的楽に終わった。
「山を越えると魔獣をまったく見かけなくなりますね」
マルティナがサラと話している。
このあたりの情報を早めに知っておきたいと言うので、サラが教えている最中。
ちなみに、ベアトリーチェたちの家は俺達の家のすぐ隣。
風呂小屋を是非使いたいと言うので、快く使えるよう家も隣がいいねということになり、隣接して建ててもらったのだ。ついでに我が家の傷んでいたところも修繕して貰った。
だいぶ古くあちこち傷んでいたので、とても有難い。
うちの近所の魔獣はほぼ俺が仕掛けた罠に捕らえられた、もしくは俺に直接捕まったし、フォレストパンサーのような多少は賢い肉食獣は近寄らない。うちの近所は草食獣の楽園状態だ。
おかげで比較的安全な地域なのだが、魔獣の毛皮や牙が必要な時は山で探す必要があり少し面倒になった。まあ、山をうろつく機会が増えたことで良いこともあるんだが……。
「燃料は薪じゃないんですか?」
マルティナが驚いている。薪以外の燃料があることすら知らないようだった。
大陸北東部の大国ジャムヒドゥンでは、遊牧民が家畜の糞を燃料にすることもあると聞いたこともある。だが、この辺りでは薪以外の燃料は使われてないようで、マルティナが知らなくても仕方ないか。それに石炭だしな。この世界ではまだ利用されていないし。
薪をまったく使わないわけじゃないが、うちの燃料の主力は石炭だ。山をうろついているときに、石炭が表層に出てる地層を見つけたのだ。その地層から石炭を掘り出して、サラに燃える所を初めて見せたときは結構驚いたものだ。
だから我が家には石炭ストーブがある。
形状を教えて鍛冶屋に頼んで作ってもらった我が家自慢の暖房器具だ。
更に、石炭からコークスを作ってるのだが、コークスを作る過程で出るガスを利用してゴミを燃やしているし、同じくコールタールが出て来るのでそれを利用して床下の木材などに塗って防腐剤として利用している。ベアトリーチェの家の床下にもコールタールを塗った木材を詰めて家の断熱性を高めている。できたコークスは里の鍛冶師に売ると喜ばれるんだ。
フフフ、前世で覚えたことを可能な限り活かしている俺って偉い。自分で褒めてる姿がキモイってサラには言われそうだから黙っているが。
冬が本格的になり、俺も天候の良い日にだけ薬草取りに出かけるようになった。
では天候が悪い日には何をしているかというと、トレーニングである。
基礎体力を高める訓練と集中力を高め魔法や龍気の機能や強さを自在に操る訓練である。これが結構しんどい。でもいざという時のために日々訓練する。冬は薬草取りや魔獣の捕獲などの仕事が減るから、訓練には最適な季節。
と言っても、一日中訓練しているわけではない。
ほぼ午前中いっぱいでおしまいである。
あ、そうだ。
サラの体術の訓練に付き合うこともあるのを忘れていた。
サラは自分の身は自分で守りたいと言ってサロモンが生きていた時から訓練している。実際、大抵の相手には負けるとは思えない技量を持ってる。
ホントまだ十五歳かよと俺でも思う。
もう一つ、ベアトリーチェさんとマルティナさんの訓練、と言ってもサラとは違って魔法の訓練に付き合う機会が増えた。二人共結界を利用した魔法が得意なので、そっち方面は苦手な俺には教えることは何も無い。では何を手伝ってるのかと言うと、彼女達が張った結界にプレッシャーをかけている。
具体的に言うと、彼女たちが結界を張った岩や木を俺が攻撃するんだ。ただし、どの系統の魔法で攻撃してもいいけど、攻撃力を徐々に強めていき、結界が壊れそうな状態で攻撃力のアップを止める。その状態のまま彼女たちは結界を維持する。
これかなり疲れるらしいが、結界の硬度や強度を高めるには良い訓練なのだそうだ。エルフの間で彼女達の結界を壊れそうなほどの魔法を使える魔法力の強い人は少ないそうで、この訓練したいと思ってもなかなかできないんだそうだ。
確かに始めた時からひと月ごとに彼女たちの結界の強度や持続力はあがってる。
ラニエロはというと、ひたすら基礎体力向上に努めていた。彼は攻撃魔法のうち火と土の属性を得意としている。他にも特殊な魔法も使えるらしいが。
あとは雑談したり、サロモンが残してくれた本を読んだりして過ごしてた。
……平穏な日々だった。
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