37、ジラールの惨劇(その一)
ミズラ・シャルバネスはゼギアスの第六王妃ミズラ・デュランとなった。
彼女はサロモン王国国王が国外から迎えた最初の后。
ベアトリーチェ、マリオン、サエラは建国前からゼギアスと共に行動していたし、スィールとリエッサは建国時からゼギアスと共に居る。国民の誰もが知らない女性が王妃になったことはなかった。
国民の間ではミズラを知らない者ばかり。国外から来た后なので知らなくても当然だろう。テレビなど無いしね。しかし、王妃が国内の仕事を任されることもあり、知らない者が多いと不便も生じるから、国民の認知度を高める必要があった。
そこでゼギアスはミズラを連れて国内を周り、認知度を高めようとした。通常ならば飛竜かグリフォンで回るのだが、極力多くの国民と顔を合わせるため国民が住む地域はユニコーンが引く馬車で、そうでない地域は飛竜で移動した。まあ、一度回った程度で認知度がそう高くはならないけれど、回数こなせば大丈夫だろうという感触は掴んだ。
国内の巡回を終え、あとはオルダーンとザールートへ行き、領主への紹介さえ終われば一息つける段階まで来た。
……ゼギアスとミズラは、オルダーンの温室農園に来ている。
「まあ、とても甘いのね? これは美味しいわ」
マンゴーを初めて食したミズラは、目を丸くして驚いている。
「そうだ。マンゴーといって、オルダーンの特産品にしようと思ってる」
「ええ、試食した国民からも好評で、フルーツトマト、メロン、イチゴに続きマンゴーも我が国の特産品として売れそうです。まだ少量ですが、オルダーンとザールートのレストランへも卸しています」
俺とクラウディオがミズラに説明する。
「そう言えば、紅茶と共にお客に提供するケーキにも使うと言ってたわね」
「そうさ。オルダーンから果物、サロモンとザールートでケーキの原料を、そしてフラキアの紅茶で一つの商品が完成する。ケーキのレシピはリエラが既に用意している。どこの自治体が欠けても美味しいデザートは作れない。相乗効果が見込めるグループだと思うよ。フラキアの紅茶も試飲しながら味を向上させてる。完成したら、各自治体でパイロットショップを出して感想を聞き、客の好みに合わせて微調整していくつもりだ」
「そう、凄いわ。成功するといいわね」
「必ず成功しますとも。フラキアから送っていただいた紅茶の香りが甘い物にあってましたし、口に残った甘さを紅茶の渋みが洗い流して食後感も素晴らしかった。あの紅茶が更により良いものになるなら、紅茶だけでもお客を呼べますよ。とにかく香りがいい」
「ああ、先日視察に行ったマルティナからの報告も良い感触だった。次の視察では完成してるんじゃないかと言ってたな」
「楽しみね」
ミズラはやはりフラキアの状況が気になるのか、紅茶の反応を知りたがる。俺としてはまったく心配していない。だが、一度はミズラにも試させたほうが良いと思い、クラウディオには温室農園から領主宅へ戻った時、暫定ではあるが今後売り出す予定のケーキセットを用意して貰っている。
この農園の今後の栽培予定を話しながら俺達は領主宅へ戻り、領主のコリンと奥さんのアドリアナと談話する。ザールートの領主親子ももうじき到着する予定。
今日はミズラの紹介を兼ねてこの地域の今後を話し合うと共に情報交換する。
「どうだい? フラキアの紅茶の味は」
「あなた、ありがとう。これなら多くの人に楽しんで貰える。なんて素敵な香りなのかしら……これをフラキアが作ってるだなんて……ええ、貧しかったフラキアはきっと豊かになるわ」
「ええ、そうですとも。私共もどんどん注文しますし、他国も同じ状況になるでしょう」
紅茶はホットだけじゃなくアイスでも飲めることや、ミルクティーでも美味しいことを俺は説明した。カップやグラス、ケーキ皿はサロモンで作るガラス製品や陶磁器製品を提供することも話した。これで見栄えもよくなり、見た目にも美味しく感じるだろうと言うと、皆成功を確信した。
相談も終わり、のどかに雑談へ進んだ。
この時、ザールート領主コリンから気になる話を聞く。
「最近、ザールートの北側の砂漠が物騒な状況になってるのです。ジラールへの補給路全てでデザートスネークが出没し、ジラールに食料が全く届いていないらしいのです。我が国に来る旅行客もジラール経由の北部ルートは避け、東側ルートからばかりなのです」
ザールートは、商人や旅行客がここ三年で急激に増え、キャパオーバーになっている。宿の新築などが必要なこともあり、当面は東側ルートからの入国に問題が無ければ良い。ザールートは巡回も強化し、領内では問題は生じていないが、やはりデザートスネークの発生原因は気になるとのこと。
「それは一度調べなきゃダメだなあ。とりあえずジラールへ行って様子見てくるか」
砂漠などでデザートスネークが出ようと、飛竜やグリフォンで空を移動する俺達には関係ないし、俺なら転移魔法で移動するから更に関係ない。俺一人で様子を見てくると言うとミズラは、城外ならともかく城内なら女連れのほうが良いこともあるので一緒に行くという。どうしようか考えていると
「大丈夫ですよ。だってあなたが守ってくださるでしょ?」
そう言われちゃ連れていけないとは言えず、頑張らないわけにはいかない。
だが……やはり……俺は決めかねていた。
「アンヌをお連れください。この辺りはグリフォンによる警戒網も動いていますし、大丈夫ですから」
俺は領主コリンの言葉に甘えて、アンヌにも同行を頼んだ。
ミズラの護衛はお任せくださいとアンヌは快く引き受けてくれた。
よし、アンヌが居れば問題なしだ。
俺達三名は、ジラールの城門そばへ転移した。
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